
会議で自分の手柄ばかり強調する上司、成果を過剰にアピールする同僚——。
職場にいる自己愛が強い人に、今日も「やれやれ。また自慢話が始まったか……」とあきれ顔でしょうか。
しかし、あなたがキャリアアップを目指しているなら、彼らの特性は決して無視できるものではありません。
ナルシストには、自信に満ちたプレゼン、どんな顧客の前でも堂々とした態度、失敗を引きずらない前向きさなど、ビジネスシーンで成功しやすい要素が備わっているのです。
ただし注意が必要なのは、すべてのナルシストが成功するわけではないということ。
ナルシストのなかでも、「昇進しやすいタイプ」と「昇進しにくいタイプ」が存在します。
そこで今回は、成功しやすいメンタルの強いナルシストと、そうでない繊細なナルシストの特徴を解説。自信と謙虚さを両立させる「ハイブリッド戦略」もご紹介します。
ナルシストは成功しやすい?
ナルシストとは、ナルシシズム(自己陶酔的な傾向)をもつ人のこと。
厄介なイメージをもたれやすい特性ですが、キャリアアップに役立つ側面があるのも確かです。
自分が好きすぎるナルシスト
「Psychology Today」の説明によれば、ナルシシズムの特徴は以下のとおり。*1
- 実力以上に自分を大きく見せる
- 他者への共感の欠如
- 過剰な称賛への欲求
- 自分だけは特別という特権意識
つまり——いつでも「大物感」を漂わせ、なんでも自分中心で周囲には無関心。それでいて「すごい」「さすが」という言葉を求め、自分は特別だから何でも許されて当然という態度を示す人です。
関わるとこちらの心身が削られそうですが、この自己愛的な要素は、扱い方次第で成功を手助けしてくれる可能性があります。
スピード出世に不可欠なナルシシズム
イタリア・ボルツァーノ自由大学の研究者らが172名を対象に行なった調査(2021年)では、ナルシストが普通の人よりスピーディーにCEOに登りつめることが示されました。
この結果は同族経営(ファミリー企業)でも、そうでなくても同じだったといいます。*2
つまり、環境問わずナルシストは「出世のスピード勝負」に強いのです。
過去の研究(Braun, 2017)においても、ナルシシズムの特性である「自信の高さ」「野心の強さ」「権力への欲求」といった要素が、彼らをCEOの地位へと導き、その役職に任命される可能性を高めると指摘されています。*2
ナルシシズムの揺るぎない自信と、成功への強い欲求は、出世には欠かせないものだと言えるでしょう。
ただし、すべてのナルシストが成功するわけではありません。次項では、出世しやすいナルシストと、そうなりにくいナルシストの違いを解説しましょう。
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「尊大型ナルシスト」と「脆弱型ナルシスト」
自信と野心、権力への欲求が強いタイプは一般的によく知られたナルシストで、「尊大型ナルシスト」と呼ばれています。
一方で、繊細なナルシストも存在します。
彼らは尊大型ナルシストとは違い表面化しにくく、周囲の人々を巧みに利用します。このように、表からは見えにくいナルシストは「脆弱型ナルシスト」と呼ばれています。
英紙『The Guardian』によれば、脆弱型ナルシストには次のような傾向があるといいます。*3
- 内向的・控えめな印象
- 優しく無邪気に見える
- 被害者意識や傷つきやすさをもつ
- 弱さを演出して他者の同情を引く
- 他者に罪悪感を抱かせて操る
そのため、ナルシシズムによる虐待からの回復を専門とする心理療法士のLorna Slade氏はこう指摘しています。
「脆弱な(隠れ)ナルシシスト」は内向的で一見善良に見えるが、本質は尊大なナルシストと同じ。標的に対しては目立たない方法で巧妙に攻撃を加えるため、周囲にはその本質が見えにくい。*3
また、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校 心理学名誉教授で公認臨床心理士のRamani Durvasula氏も「隠れナルシシズムは、被害者意識を利用して人をコントロールする」と述べています。*3
たとえば、以下の言動で振り回されたことはないでしょうか。
- <同僚に軽く注意したとき>
「そんなつもりじゃなかったんだけど……ごめん、私がいなければもっと楽だったよね?」
→注意をしたのに、慰めを求められる - <仕事の手伝いを断ったとき>
「そっか……まあ、忙しいなら仕方ないよね。どうせ私のお願いなんて後回しだよね」
→断った側が悪者扱いにされる
共通して見られるのは「被害者の仮面を被る」という点。周囲は「私の言い方が悪かったのかな……」と罪悪感を抱き、知らぬ間に彼らの感情に巻き込まれてしまうのです。
脆弱型ナルシストは出世しにくいワケ
このように脆弱型ナルシストは、人を巧妙に操ることに長けています。
しかし、一般的な職場文化では、昇進・評価と合致しにくい特性とも言えます。
不安・内向性・批判への過敏さがあり、リスクや目立つ場面を避ける特徴があるからです。
一方の尊大型ナルシストは、外向性が高くて、自己主張や野心が強い。そして対人影響力が高く、リーダー職や目立つ役割に入りやすい(昇進しやすい)傾向があります。
脆弱型ナルシストの場合は、そうした部分が欠けているだけでなく、控えめで優しい部分も見せかけだけ。私たちが参考にすべき点はないと言えるでしょう。

「尊大型ナルシスト」の選ぶべき側面とは?
ただし、「尊大型ナルシスト」もひとつの側面や尺度によって説明できるわけではありません。
じつは、ふたつの側面が存在します。
データサイエンティストであり、ナルシシズム等に焦点を当てた人格心理学が専門のMarius Leckelt氏らが行なった、ドイツ全人口の代表サンプルを用いた調査では、尊大型ナルシシズムを「能動的な側面」と「敵対的な側面」に分離しました。
その結果、以下の内容がわかったのです。*4
-
能動的側面のナルシシズム(Agentic)
自己有能感や主導性の高さが特徴。自尊心や幸福感、リーダー役割などと正の関連を示し、社会的・職業的成果に結びつきやすい側面をもつ。 -
敵対的側面のナルシシズム(Antagonistic)
優越性や権利意識、他者への敵対性が特徴。対人関係の摩擦や内的適応の低さと関連し、長期的には自尊心低下など不利な結果につながりやすい。
つまり、「私は能力が高いからチームに必要とされている」という自信はいいけれど——
それが周囲に対する軽視や、都合のよい自己正当化につながってしまえば悪影響となるのです。
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では、キャリアアップを目指す私たちは、尊大型ナルシストのどこを取り入れ、どこを手放せばよいのでしょうか。
鍵となるのは「自信や野心」を推進力にしながら、「他者軽視」にブレーキをかける姿勢。
つまり、「謙虚さ」という要素を組み合わせることです。

コロンビア大学の心理学教授で、人間性心理学者のScott Barry Kaufman氏は、尊大型ナルシストと「感謝にもとづく謙虚さ」は両立できると述べています。*5
同氏はこれを「野心的な謙虚さ(ambitious humility)」「向社会的な野心(prosocial ambition)」と名付けて提案。支配的ではなく向社会的な方法で、目標を達成していくのです。*5
したがって、キャリアアップを目指す人におすすめしたいのは、次のようなセルフトーク(独り言)を習慣にすること。
——自分は人を説得する話術に長けている。そして、その能力を発揮できたのは最初に教育してくれた上司のおかげだと思う。
——私の提案はいままでにない視点だから必ず成功する。もっとも、このアイデアに磨きをかけてくれたのは、率直なフィードバックをくれた周囲の存在だ。
「自分の能力に対する大きな信頼」と「他者への感謝」をセットで言い表すのです。
傲慢な自己愛ではなく、目標への意識を高める自己愛へと変わっていくはずです。
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成長意欲を高めるには、「自分は有能」「絶対成功できる」という迷いのない思い込みが大切です。
強い野心や自己愛は、恥ずかしいものではないのです。ぜひ、「ナルシスト」のよい部分を参考にしてみてください。
そして、その際には、他者への感謝も必ず思い出すようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. ナルシストは本当に出世しやすいのですか?
A. 研究によると、ナルシストは普通の人よりスピーディーにCEOに登りつめる傾向があります。ただし、すべてのナルシストが成功するわけではなく、「尊大型ナルシスト」のなかでも「能動的側面」が強い人が成功しやすいとされています。
Q. 尊大型ナルシストと脆弱型ナルシストの違いは何ですか?
A. 尊大型ナルシストは外向的で自己主張が強く、リーダー職に就きやすい傾向があります。一方、脆弱型ナルシストは内向的で控えめに見えますが、被害者意識を利用して他者をコントロールしようとする特徴があり、昇進には結びつきにくいとされています。
Q. ナルシストの良い面だけを取り入れるにはどうすればよいですか?
A. 「自信や野心」を推進力にしながら、「他者軽視」にブレーキをかけることが重要です。心理学者のScott Barry Kaufman氏が提唱する「野心的な謙虚さ」を意識し、自分の能力への自信と他者への感謝をセットで言い表すセルフトークを習慣にすると効果的です。
Q. 「野心的な謙虚さ」とは具体的にどのようなものですか?
A. 支配的ではなく向社会的な方法で目標を達成していく姿勢のことです。たとえば「自分は説得力のある話術をもっている。そしてその能力を発揮できたのは上司のおかげだ」というように、自己有能感と他者への感謝を組み合わせて考えることがポイントです。
*1: Psychology Today|Narcissism
*2: ScienceDirect|The perks of narcissism: Behaving like a star speeds up career advancement to the CEO position
*3: The Guardian|Not all narcissists are grandiose – the 'vulnerable' type can be just as dangerous
*4: University of California Press|Longitudinal Associations of Narcissism with Interpersonal, Intrapersonal, and Institutional Outcomes: An Investigation Using a Representative Sample of the German Population
*5: Psychology Today|Are Narcissists Really as Arrogant as We Think?
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。