
「あぁ。これやだなぁ……」
つい、そんなふうに感じてしまう嫌なタスク、誰にでもありますよね。
単純に面倒なタスク、決めかねている内容を含むタスク、どこに向かうのかはっきりしないタスク——私たちは日々、こうした「やりたくないタスク」と格闘しています。
しかし、タスクの横に「なぜやるのか」をひとこと添えるだけで、先延ばしがぐっと少なくなり、集中の仕方も変わってくるとしたら……?
目標設定理論の権威であるLockeとLatham(2002)の研究でも、「達成すべきことに関する曖昧さを減らすことでパフォーマンスのばらつきが減る」ことが報告されています。*5
本記事では、タスクに「目的」を書き込んで行動を加速させる方法を、筆者の実践を交えて紹介します。
やる気が出ないのは、目的が曖昧だから
「やらなきゃいけないのに、どうしても手が動かない」
「大事な仕事なのに、まったく集中できない」
——こんなふうに感じてしまう背景には、「行動の目的を明確にしていない」ことが影響している可能性があります。
脳は「なぜやるのか」がわからない行動を避ける
脳は非常にエネルギーコストの高い器官です。進化の過程で、私たちの脳は「体のエネルギー配分の調整」「効率的な情報処理」「環境に応じた機能の切り替え」といった仕組みによって、そのコストを支払ってきたと指摘されています。*1
つまり脳は、限られたエネルギーをできるだけ効率よく使うよう設計されているのです。
脳神経外科医の菅原道仁氏も、脳が消費するエネルギーは全体の約20%と非常に多いため、「人類はもともと脳をなるべく働かせないように、怠けるようにできている」と説明しています。*2
こうした性質をふまえると、「目的」がはっきりしない作業は、脳にとってコストばかりかかり、得られるものが見えない行動です。そのため脳はそれを「無駄なエネルギー消費」と判断し、自然と避けようとします。
結果として——「やる気が出ない」「集中できない」という状態が生じるのです。
背景にあるのは「動機づけ」
ここで関係してくるのが、心理学でいう「動機づけ」です。
心理学では、人が行動する理由は大きく「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」に分けて説明されます(Deci & Ryan)。*3
外発的動機づけとは、報酬・評価・締切など外部から与えられる要因で行動すること。内発的動機づけとは、興味・納得感・目的意識など、行動そのものに意味を感じて生まれる動機です。
行動の目的がはっきりしていなければ、人はその行動から得られる報酬も、価値も、意味もイメージしにくくなります。結果、脳はその行動を優先度の低いものと判断し、「やる気が出ない」「集中できない」という状態が生まれてしまうのです。

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解決策は「タスクの横に、目的を一文だけ書くこと」
そこでおすすめなのが、タスクの横に「目的」を一文添える方法です。
特に長期プロジェクトやルーティンワークは、目的を見失いやすい傾向があります。タスク自体は同じでも、目的を一文書くだけで、脳が「やる価値のある行動」と認識するようになることが期待できます。
たとえば、このようなかたちです。
- 社内研修のマニュアル作成
→ 新人と別部署の人を即戦力にして、今後の自分の仕事量を減らすため - 資格の参考書を◯ページ読む
→ 試験に合格して専門業務を任されるようになり、市場価値を上げるため - 取引先へのメール返信
→ 返信が速くて安心できる担当者と思ってもらい、次の案件の相談をもらいやすくするため
ここでのポイントは、体裁のいい言葉を書くのではなく、本当に「自分にとって得だ」と思えることを書くことです。
目標実現を専門とするメンタルコーチの大平信孝氏(株式会社アンカリング・イノベーション代表取締役)は、目的が明確になれば人は自ずと動き出すと述べており、そのためには自分の「欲望」を正直に見つめ直すことが重要だと説いています。*4
したがって、心から「こんな結果になったら嬉しい!」と思うことを正直に書くことが、行動力アップにつながります。

タスクに「目的」を書いて過ごしてみた結果
筆者は、仕事のタスクや日々の雑用をリスト化しています。そこに「目的」を書き添えるとどう変わるのか、実際に試してみました。
作成したリストの一部がこちらです。

今回はすべてのタスクではなく、特にやる気が出にくいものだけに「目的」を書きました。また、自分の気持ちをできるだけ掘り下げ、「その未来が得られるならやりたい」と思える内容になることを意識しています。
実践した結果
「目的」を具体的に書いたタスクほど、以前ほど面倒に感じず、自然に手をつけられるようになりました。
さらに印象的だったのは、作業の途中で集中が途切れにくくなったことです。行動の先にある結果を具体的にイメージできると、「これをやればいいことがある」という見通しが生まれます。その結果、タスクの意味づけが明確になり、集中を保ちやすくなるのかもしれません。
実際に試してみて感じたのは、「目的」は踏み込んで書くほど効果が実感しやすいということです。
たとえば「給料を得るため」と書くよりも、「給料を得て、前から食べたかった○○のパフェを食べに行く」というように、自分にとって魅力的な結果を具体的に描くほうが、行動へのハードルはぐっと下がりました。
タスクの横に目的を一文書くだけでも、行動の意味づけは大きく変わります。やる気が出ないタスクにこそ、試してみる価値がありそうです。
***
タスクの先延ばしや集中できない原因は、「なぜやるか」という「目的」が抜け落ちているだけなのかもしれません。やりたくないタスクが出てきたら、自分にとっての「やるべき理由」を書き込んでみてください。
よくある質問(FAQ)
Qタスクに書く「目的」は、どのくらい具体的にすればいいですか?
A「自分にとって得だ」と思える内容を、できるだけ具体的に書くのがおすすめです。「スキルアップのため」よりも「この資格を取って、任される仕事の幅を広げ、年収を上げる」のように、行動の先にある嬉しい結果まで踏み込んで書くと、脳が「やる価値がある」と判断しやすくなります。
Qすべてのタスクに目的を書く必要がありますか?
Aすべてに書く必要はありません。本記事の筆者も、特にやる気が出にくいタスクに絞って目的を書きました。手が止まりやすいタスクや先延ばししがちなタスクに絞ることで、無理なく取り入れられます。
Q目的を書いてもやる気が出ない場合はどうすればいいですか?
A目的の内容が、本当に自分の「欲望」と結びついているか見直してみましょう。義務感や建前で書いた目的は効果が薄い可能性があります。「こうなったら嬉しい」と心から思える内容に書き換えると、行動につながりやすくなります。
Qデジタルのタスク管理ツールでも同じように目的を書けますか?
Aはい、同じ方法が使えます。タスク管理アプリのメモ欄やコメント機能を活用して、目的を一文添えるだけで効果が期待できます。大切なのは「なぜやるのか」を目に入る場所に書いておくことです。
*1: ScienceDirect|Paying the brain's energy bill
*2: STUDY HACKER|ビジネスパーソンの「正しい怠け方」。成長を止める"悪い怠け癖"はこうして改善する
*3: APA PsycNet|Motivation, personality, and development within embedded social contexts: An overview of self-determination theory.
*4: ITmedia エグゼクティブ|すぐやる人になるきっかけは「行動イノベーション」
*5: Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717.
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。