
「覚えなきゃいけないことが多すぎて、頭がパンクしそう……」
「あれもこれも気になって、目の前のことに集中できない」
——そんなふうに感じたことはありませんか?
情報があふれる現代、私たちの脳は常にフル稼働を強いられています。新しい知識をインプットし続け、複数のプロジェクトを同時に抱え、過去の失敗も引きずりながら走り続ける。これでは疲弊してしまうのも無理はありません。
だからこそ、ここで発想を転換しましょう。
「もっと覚える」ではなく、「もっとうまく忘れる」のです。
筆者も日々やることが多すぎて、常に頭がパンクしそうでしたが、科学的知見をもとに「手放す力」を意識するようになってからは、状況がだいぶ変わりました。
本記事では、忘れることをポジティブに活用し、仕事や勉強のパフォーマンスを上げるコツを紹介します。
忘れることは脳の大切な「更新機能」
「忘れる」という言葉には、どこかネガティブな響きがありますよね。大事な予定をうっかり忘れてしまったり、勉強した内容が思い出せなかったり……。
しかし、神経科学分野では、忘却に対する見方が大きく変わってきています。忘れることは単なる「記憶の失敗」ではなく、脳が意図的に行なっている能動的な機能だというのです。
神経科学者のRon Davis博士らが2017年に発表した研究では、以下の内容が示されています。
脳は常に「忘却」と「定着」が争っており、忘却こそが脳の標準的な状態(デフォルト)である可能性がある。*1
そのためDavis博士は次のように述べています。
「忘却は単なる記憶の喪失ではありません。不要な情報を消去し、本当に重要な情報のためのスペースをつくるために設計された、能動的で内在的なプロセスなのです」*2
つまり、忘れることは脳の「バグ」ではなく「アップデート機能」。
パソコンやスマートフォンのOSを最新版に更新するとき、不要なキャッシュやデータが整理されてサクサク動くようになりますよね。私たちの脳も同じように、古い情報や不要な記憶を手放すことで、本当に重要な情報の処理効率を上げているのです。
このように考えると、忘れることへの罪悪感が少し薄れてきませんか?
むしろ、「忘れる力」を意識的に活用することで、頭のなかをスッキリさせ、より高いパフォーマンスを発揮できるようになるのです。
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とはいえ、「忘れよう、忘れよう」と思えば思うほど、かえって頭から離れなくなるもの。無理に忘れようとするのではなく、戦略的に「手放す」ための4つのアプローチを試してみましょう。
1.「選ぶ」忘却——覚えないことを決める
1つ目は、何を覚えて、何を覚えないかを自分で選ぶという方法です。
私たちは日々、膨大な情報にさらされています。すべてを記憶しようとすれば、脳がオーバーフローするのは当然のこと。大切なのは、「これは今後も使うか?」という基準で情報を分類し、不要なものは最初から「覚えない」ことです。
- 会議で共有された資料で押さえておくのは
→自分の担当部分
→今後のアクションに関わる情報
それ以外は忘れる -
メール・チャットで押さえておくのは
→ 自分に対応が求められている要件
→ 期限や優先度が明示されている部分
それ以外は忘れる - 学習時に押さえておくのは
→ いまの課題や目的に直結する要点
→ 繰り返し使いそうな概念や定義
それ以外は忘れる
あとは「必要なときに見返せばいい」と割り切るわけです。この意識的な取捨選択が、脳の負担を大きく軽減してくれます。
週に一度、自分が抱えているタスクやインプットした情報を見直す時間を設けましょう。「本当に必要なもの」と「なくても困らないもの」に分けるだけで、驚くほど頭がクリアになりますよ。
2.「区切る」忘却——終わりの儀式をつくる
2つ目は、意識的に区切りをつけるという方法です。
プロジェクトが終わったのに、なんとなくそのことが頭から離れない。過去の失敗をいつまでも引きずってしまう。
こうした状態は、脳のなかで「まだ終わっていない」というフラグが立ったままになっていることが原因かもしれません。
心理学では「ツァイガルニク効果」として知られていますが、人は未完了のタスクほど記憶に残りやすい傾向があります。逆に言えば、きちんと「完了した」という認識を脳に与えることで、自然と記憶の優先度が下がっていくのです。
そこでおすすめなのが、「終わりの儀式」を取り入れること。
- 終わった仕事のTo-Doリストにチェックを入れて、目に見えるかたちで完了を実感する。
- プロジェクトが完了したら、関連資料をフォルダにまとめてアーカイブする。
- チームで「お疲れさま」と振り返りの時間をもつ。
こうした小さな儀式が、脳の引き出しを閉じるスイッチになってくれます。

3.「睡眠」忘却——睡眠時間をとらえ直す
3つ目は、最もベーシックでありながら、人によっては難しい「睡眠」です。
睡眠中、私たちの脳は記憶の整理整頓を集中的に行なっています。日中に取り込んだ情報を長期記憶として定着させ、不要な情報を整理するこのプロセスは、健やかな脳を維持するために不可欠な、睡眠特有の重要な役割です。
そして、私たちの脳には「グリンパティックシステム(Glymphatic System)」という仕組みがあります。これは、日々私たちが情報を処理する際に蓄積される老廃物を、除去する働きのこと。特に睡眠時に活発になることがわかっています。*3
メジャーリーガーの大谷翔平選手も、たっぷり睡眠時間をとることで知られています。同選手の素晴らしい活躍は、こうした睡眠の効果が発揮されている一面もあるのかもしれません。
しかしこの睡眠、寝つきのいい方なら難しい話ではありませんが、寝つきの悪い方にとっては、余計なプレッシャーになってしまう可能性があります。
そうした方々は就寝時、以下のように睡眠をとらえ直してみてはいかがでしょう。
-
「予洗(よあらい)」理論:横になって血管を緩め、脳の洗浄液を通りやすくする準備の時間だと考える。
-
「洗浄液の循環待ち」タイム:ゆったりした呼吸で、脳を洗うための「水」を巡らせている状態だと考える。
-
「メンテナンス・ドックへの入庫」:布団に入った時点で、老廃物を出すゲートは開き始めていると考える。
つまり、「寝なくては」という考えを捨て、脳のエステを開始してもらうような気分で、就寝するイメージです。
「すぐ眠れる!」というわけではありませんが、呼吸が緩やかになる感覚があるのでぜひお試しください。
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4つ目は、仕事や勉強から完全に離れるという方法です。
理想は丸1日ですが、難しければ半日でも、数時間でも構いません。この「オフ」の時間に大切なのは、仕事のメールをチェックしない、勉強のことを考えない、といった「プレッシャーから離れる」ことです。
そのためにも、活動的かつ「プレッシャーから離れることが不可抗力になる予定」を入れてしまいましょう。
- 娯楽映画を観に行く
- 友人とブランチする
- 友人や家族とピクニック
こうして脳を強制的に「仕事や勉強モード」から解放してあげることで、脳がリフレッシュされ、次回のスタートが軽やかになるはずです。
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たくさんの知識やタスクを抱え込んだままでは、どんなに頑張っても脳の動きは重くなってしまいます。大切なのは「何を手放し、何を残すか」を自分でデザインすること。
手放したぶんだけ、脳には新しいスペースが生まれます。そのスペースに、本当に大切なことを迎え入れてあげましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 忘れることは本当に脳にとって良いことなのですか?
A. はい。神経科学の研究では、忘却は脳の「能動的な機能」であり、不要な情報を整理して重要な情報の処理効率を上げる役割があることがわかっています。忘れることは脳のバグではなく、むしろ「アップデート機能」と言えます。
Q. 忘れようと思っても忘れられないのですが、どうすればいいですか?
A. 無理に忘れようとするのは逆効果です。「選ぶ」「区切る」「睡眠」「活動する」という4つのアプローチを活用し、戦略的に手放すことが効果的です。特に、タスクに「終わりの儀式」を設けることで、脳が「完了した」と認識しやすくなります。
Q. ツァイガルニク効果とは何ですか?
A. 未完了のタスクほど記憶に残りやすいという心理学的な現象です。プロジェクトが終わったのに頭から離れないのは、脳のなかで「まだ終わっていない」というフラグが立ったままになっていることが原因と考えられています。
Q. 睡眠が「忘れる力」にどう関係しているのですか?
A. 睡眠中、脳は記憶の整理整頓を行なっています。日中に取り込んだ情報を長期記憶として定着させると同時に、不要な情報を整理します。また「グリンパティックシステム」という仕組みにより、脳内の老廃物を除去する働きも睡眠中に活発になります。
Q. 寝つきが悪い場合、睡眠をどうとらえればいいですか?
A. 「寝なくては」と考えるのではなく、横になることで脳の洗浄準備が始まっている、つまり「脳のエステを開始してもらう時間」だととらえ直してみましょう。寝つけなくても、ゆったりした呼吸で過ごすことで脳と体を休める効果が期待できます。
*1: ScienceDirect|The Biology of Forgetting—A Perspective
*2: University of Florida|The Pioneer of Memory and Forgetting
*3: 日本脳科学関連学会連合|脳内の老廃物排除の仕組み:グリンパティックシステム
STUDY HACKER 編集部
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