ビジネスの世界では、大なり小なりプレゼンテーションはつきものです。ビジネスの世界のみならず、医療の世界、就職活動の面接、初対面の相手に対する自己紹介でも、プレゼンする場面は避けては通れません。
しかし、プレゼンをしたり会議で意見を述べたりする際、「冗長になってしまうことが多い」「要点が伝わりやすいプレゼンテーションができない」といった方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
短いフレーズでまとめられるような力を身につけたいが、具体的にどうすればいいのかわからない……。そのような方に向けて今回は、わかりやすいプレゼンテーションを行うために知っておきたい「エレベーターピッチ」という手法をご紹介いたします。この手法を使えば、少しでも「早く」伝わるプレゼンテーション能力を身につけることができますよ。
エレベーターピッチとは?
エレベーターピッチとは、“30秒”を目安とした短時間でプレゼンテーションを行うことを指します。その発祥は、起業家やスタートアップ企業などが密集する米国シリコンバレー。語源はというと、エレベーター内で投資家と出会ったビジネスパーソンが、目的の階に到着するまでの約30秒間に、その投資家に対し自己紹介および企画・商品・サービスなどの説明をし、相手に理解してもらうことだそうです。
つまり、エレベーターピッチとは、どれだけ短時間で“シンプル”かつ“わかりやすく”伝えるかに重点が置かれたプレゼン法。相手に対し端的に要点を伝える方法として非常に優れた、プレゼンの極意であると言えます。
エレベーターピッチが役立つ場面
では、どのような場面でエレベーターピッチは役に立つのでしょうか。
すぐに思い浮かぶのは、物を売り込みたい場面ですね。相手に商品を買ってもらいたい、契約にこぎつけたいときなどに、エレベーターピッチは最適でしょう。
また、自分自身を相手に対して売り込みたい時にも使えます。初対面の相手に対し自分を強く印象付けたいときや、就職活動の面接などで、自分をアピールするためにエレベーターピッチを使ってみましょう。
売り込むものが物であれ自分自身であれ、どれだけその商品や人物に魅力があったとしても、それが相手に対して伝わらなければ意味がありません。自分の言いたいことを、コンパクトに、かつわかりやすく伝えられなければ、掴めたはずのチャンスも逃してしまいかねないのです。
エレベーターピッチは、営業、社内での会議、カンファレンスや学会でのプレゼンのみならず、就職活動の面接、仕事仲間とのBBQなどのカジュアルな場面に至るまで、あらゆる場面で活用できるもの。次からはエレベーターピッチのノウハウを詳しくご紹介します。ぜひこのテクニックを身につけて、ぜひ自分のプレゼン能力を開花させましょう。
エレベーターピッチの身につけ方 その1:ポイントを絞り込み、メモを作る
皆さんはGTCメモをご存知でしょうか。GTCとは『Goal:自分が望む結論』、『Target:相手が望むもの』、『Connect:自分と相手の要望を結び付けるもの』のことを指します。
以下に、GTCメモの例を二つ示します。
(例)商品を売り込む場合
G:お客さんが満足できるプリンターを販売して、販売成績を上げる。
T:これまで使用してきたプリンターよりも高性能で、スタイリッシュなものが欲しい。
C:性能面、デザイン面とも、すでに購入された顧客からの評判がとても良い。
(例)面接で自分を売り込む場合
G:自身の能力を活かして御社に勤め活躍したい。
T:会社に利益をもたらすことができる人材を採用したい。
C:自分が採用されることで御社に対し〇〇なメリットがもたらされるはずである。自分の△△な点が御社の求める人物像と合致している。
プレゼンでは、自分の話したい内容の論点をしっかり絞り、相手に合わせる形で話すことが必要です。このように、あらかじめポイントを明確にし、コンパクトにまとめておく作業をしておいてください。
エレベーターピッチの身につけ方 その2:いくつかのパターンで台本を用意する
上記のGTCメモを作り終えたら、次に台本を作り始めます。どんなプレゼンテーションでも同じですが、基本的には全体から詳細へといった流れになるのが自然であり、聞き手を飽きさせないためにも大事な点と言えます。
まず大事なのが、話の掴み。これをフックと言います。先ほどのメモで言うTにあたり、ターゲットが欲しいものについて話し、ここで相手の心をわしづかみにしましょう。
次に、GとTをつなぐアプローチ(内容)について手短に話します。先ほどのメモで言うCにあたりますが、必要最小限の内容で、かつ伝えたいポイントを全て盛り込まなければなりません。ここで重要なのが、3~5個程度のポイントをピックアップすること。また、具体的な数字があるとより説得力が増すことでしょう。
最後に来るのは、相手側の行動喚起に繋がるようなクロージングです。上のメモのGにあたります。相手が自分を採用したくなるように、相手が自分の売り込みたい商品を買ってくれるように、適切な口調でアピールし、プレゼンを締めくくることとなります。
要するに、T→C→Gの順で話していくことになるのです。以下に先ほどのGTCメモの例を用いて作成した台本を二つ示します。
(例)商品を売り込む場合
フック:現在お使いのプリンターにご不満はありませんか?
内容:弊社で売れ筋の〇〇というプリンターは、他社製品と比べ高性能で、スタイリッシュであり、すでに購入済みのお客様からとても良い評判を頂いています。また省エネ効果も備えており、経費の削減も図れますよ。性能面でもデザイン面でもご満足いただけることは間違いありません。
クロージング:今だけの期間限定で、お試しで使えるキャンペーンを無料で行っております。ぜひご検討ください。
(例)面接で自分を売り込む場合
フック:私が御社に採用された際、貢献できることを3つお話します。
内容:まず、留学経験が多いため語学に長けており、グローバル人材を求める御社にとって欠かせない存在になれます。次に、学生時代に様々な学生団体に所属していた経験から、コミュニケーション能力が高く、転勤や海外赴任の多い御社で、どのような国や地域においてもうまく働ける自信があります。最後に、これまでリーダーシップを発揮する機会が多かったことから、どのような状況でも組織全体を見渡しつつ自ら率先して動くことができます。新しいプロジェクトを次々生み出している御社で、必ず役に立つと確信しております。
クロージング:これまでお話した能力を活かすことで、御社に勤め活躍したいと考えております。
このように、最もボリュームが大きい内容の部分では、プレゼンする商品(あるいは自分自身)が、「相手のどんな問題を解決できるのか、競合とは何がどう違うのか、相手がそれを使うメリットは何か」といった情報を、最低限盛り込んでおくとよいでしょう。
また、上に示したものはそれぞれ一例ずつですが、どのような相手に対しても対応できるように、パターンをたくさん準備することが大事です。それにより、精神的余裕を持たせることができるのです。
エレベーターピッチの身につけ方 その3:とことん練習する
いくら台本が良くても、話し方が下手では伝わりません。自信を持って堂々と話すことは言うまでもないことですね。相手にとってのメリットをしっかりと強調し、こちら側の熱意を伝えることは何よりも大事ですが、勢いがありすぎると相手も反応に困ってしまいます。適切な口調で話しましょう。それを何度も繰り返し練習し、本番に備えるのです。
私も医学部の学士編入学試験の面接対策を行っていた際、30秒程度の自己紹介というものを常に万全な状態で準備していました。自分のプロフィール・強み・貴校に対する貢献が見込まれる点を手短にまとめていたのです。それをいつどこの学校で聞かれてもいいように、セリフを丸暗記し、何度も練習を重ねたうえで、毎度本番の面接で披露していました。
*** これまで、プレゼンがなかなか上達しなかったという方は、ぜひこの「エレベーターピッチ」を習得し、実践してみてください。回数をこなすことで、上達が期待できますよ。優れたプレゼン力を備えることで、新たな道を切り開いていきましょう。
(参考) 美月あきこ著(2014),『15秒で口説く エレベーターピッチの達人――3%のビジネスエリートだけが知っている瞬殺トーク』,祥伝社. Forbes JAPAN|米ビジネス社会で必須 「エレベーターピッチ」で勝ち抜くコツ カーマイン・ガロ著,外村仁解説,井口耕二訳(2010),『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』,日経BP社.