仕事が捗らないのは「決断疲れ」が原因かも。ジョブズも実践していた “決断力の節約術” とは

決断力の節約01

「いつも慌ただしくしているのに、仕事が遅い」
「気持ちが焦り、イライラしてしまう」
「夕方になると疲れ切って、気力がなくなってしまう」
このような悩みは、「決断疲れ」が原因かもしれません。

人間は1日あたり35,000回も決断をすると言われています。そして、決断すればするほど、精神的に疲れ、重要なことに集中できなくなってしまう傾向があるのです。

たとえば、出かける前に何を着るか決めることも決断のひとつ。スティーブ・ジョブズ氏は、決断するエネルギーを無駄遣いしないために、いつも同じ服を着ていたそうです。今回は、無駄な決断を減らし、仕事などの本当に重要なことに力を注げるようになる方法をお伝えします。

決断力を無駄遣いしてはいけない理由

たくさんの決断をすると、精神的に疲れ、大事なときに判断を間違える可能性があります。決断疲れによって重要な仕事でミスをしてしまったり、大事な場面で良い決断をできなかったりするのを防ぐには、普段から決断をする回数を節約しておくことが重要です。

コーネル大学の研究によると、人が1日に決断する回数は、無意識のものも含めると35,000回にも及ぶのだとか。「喉が乾いたから水を飲もうか……いや、お茶にしよう。麦茶と烏龍茶どっちがいいかな」「今日は朝ごはんを抜こう、いや、やっぱり軽く食べよう」「お昼はカツ丼を食べよう、でもダイエット中だしな……」など、食事に関してだけでも平均226.7回ほど決断しているそう。

私たちは、常に何かしらの決断をすることで、行動しているのです。決断の積み重ねが人生を形成していると言っても過言ではないでしょう。

フロリダ州立大学の社会心理学教授であるロイ・バウマイスター氏いわく、全ての決断は「ウィルパワー(意志の力)」を使うそう。ウィルパワーとは、たとえば、朝ベッドから起き上がるとき、列に割り込まず行儀よく整列するとき、トイレを我慢するときなどに必要とされる力です。

Your ability to make the right investment or hiring decision may be reduced simply because you expended some of your willpower earlier when you held your tongue in response to someone’s offensive remark or when you exerted yourself to get to the meeting on time.

(誰かが失礼な発言をしたときにキレることを我慢した、会議に遅れないよう頑張って急いだ、などの行動により、ウィルパワーを使い果たしてしまった日に、投資先を賢く選ぼうとしたり、良い人材を採用したりしようとしても、ウィルパワーがもう残っていないため、その力が出なくなってしまうかもしれない)

(引用元:The New York Times|Why You Need to Sleep On It ※カッコ内の和訳は筆者が補った)

つまり、あまり大事でないことに決断力を使ってしまうと、本当に大切な場面で、賢い判断ができなくなってしまう可能性があるということです。

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決断力を重要なことに使う方法

仕事でよりよい選択をし、よりよい結果を出すには、普段から決断力を無駄遣いしないことが大切であるということがおわかりいただけたかと思います。

では、決断疲れを防ぎ、重要なことにエネルギーを注ぐためには、普段の行動をどのように改善すればよいのでしょう? 気をつけるべきことをみっつご紹介しましょう。

1. メールチェックは1日3回までに止める

メールチェックの回数を減らすことで、心理的ストレスが減少するという研究結果を、ブリティッシュコロンビア大学が発表しています。

研究では、142名の被験者を2つのグループに分け、まず、グループAにはメールチェックの頻度を1日3回までに留めるよう命じ、グループBにはいつも通り頻繁にチェックするよう命じ、1週間毎日ストレスチェックを行ないました。そして、その翌週は、グループAが頻繁にメールチェックをし、Bが1日3回に留めるよう命じ、毎日ストレスチェックを行なうというもの。

結果、両グループともに、メールチェック回数を限定していた期間のほうがストレス指数は低くなっていたのだとか。研究に携わったコスタディン・クシュレヴ氏は「メールチェックの回数を減らすことで、ストレスは減少する」と提言しています。

実験後に被験者らにインタビューを行なったところ、普段はその都度メールをチェックして返信しているため、メールチェックの回数を限定するのは難しく、ついつい見てしまいそうになった人が多かったよう。

多くの人が、朝一番にメールチェックをし、仕事中も頻繁にインボックスを確認し、通知が来ればすぐにメッセージを確認していることと思いますが、この行動も、決断力を消費していると考えられます。「今からメールをチェックしよう、いや、あと10分作業してからチェックしよう」「このメールは緊急だろうか? そうでもなさそうなので明日返信しよう」など、細かい決断を何度も強いられ、意志力を消費しているということ。

仕事の内容によって、メールチェックが必要なタイミングは異なってくるでしょうし、海外との取引がある人は朝一のメールチェックは必須かもしれません。現実的な解決策としては、あらかじめメールチェックをする時間をスケジュールの中に組み込んでおくことがおすすめです。

たとえば「朝イチの9:00〜9:30、お昼前の11:30〜12:00、就業前の17:30〜18:00にメールのチェックと返信を行なう」とあらかじめ決めておけば、決断の量も減らせますし、その他の就業時間はメールを気にせず業務に集中できるでしょう。

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2. 行動を習慣化して決断力を節約

ニューヨークタイムズの記者であり、『習慣の力 The Power of Habit』を著書に持つチャールズ・デュヒッグ氏によると、私たちの生活は意思決定の連続に見えて、実際は行動の40%〜45%は習慣から成り立っているそう。したがって、私たちの行動やそこから生まれる結果は、習慣によって大きく左右されます。

デュヒッグ氏は、著書の中で、よい習慣を増やし悪い習慣を減らすことで、人生は好転していくと提唱しています。さて、よい習慣を増やすことにはもうひとつメリットが挙げられます。それは、決断を減らせるということです。

目覚ましが鳴ったらすぐに起きるのか、もしくはスヌーズを数回繰り返すのか、駅まで歩くか自転車を使うのか、などの一見ささいな選択でも、繰り返すことで意志の力が少しずつ減っていきます。精神的なエネルギーを消費しないためにも、可能な限りルーティーンを作り、決断力を節約しましょう。

私たちが何か意識的に考えているときは、額の内側あたりにある脳の前頭前野が使われています。そして、私たちの行動が習慣化したとき、つまり考えなくても動けるようになったとき、脳の中心部分にある基底核という部分が使われるようになるのです。たとえば通勤しているとき、無意識にいつものルートを辿り、電車を乗り換え、気づいたら会社に到着していることがあるでしょう。このとき、私たちは意志力を使わずに自動的に動いています。

つまり、習慣を増やすことで、意志力の消費を減らし、精神的ストレスを抑え、大事なことに決断力を残しておくことができるのです。たとえば、「朝ごはんはヨーグルトとフルーツを必ず食べる」「平日に着る洋服は月曜から金曜まで固定で決めておく」「火曜と木曜は必ず19:00~20:00にジムへ行く」などあらかじめ決めておきます。迷ったり考えたりせずに行動できる仕組みを作ってみてはいかがでしょう。

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3. 全ての選択肢を検討する必要はない

人は選択肢が多いと、意志力を消費してしまいます。コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が著書『選択の科学』で、多すぎる選択肢は人間から決断力を奪ってしまうということを示した実験を紹介しています。

あるスーパーの試食コーナーに24種類のジャムをそろえた週末と、6種類をそろえた週末の売り上げを比較しました。すると、ジャムの種類が多い週末のほうが、多くのお客さんが立ち寄ったそう。しかし、最終的にジャムを購入したお客さんの数は、種類が少なかった週末のほうが10倍ほど多かったのだとか。選択肢が多すぎるあまり、決断ができなくなってしまったのです。

「どのジャムを選ぶのか」は人生を左右する選択ではありませんが、私たちが仕事で大事な決断をするときにこのような状態に陥るのは避けたいですよね。

組織の意思決定と経営行動に関する研究で、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のハーバート・サイモン氏は、最善の結果を目指すのではなく、満足できるラインを目指すことを推奨していました。同氏は、全ての選択肢を洗い出すことはできないし、できたとしても脳は膨大な選択肢を正確に処理することはできないため、結局のところ最善の結果を得ることはできない、と説明しています。

また、ランド研究所とカーネギーメロン大学の共同研究は、全ての選択肢を比べようとする人は、意思決定のプロセスに問題が生じると結論付けています。選択肢が多すぎる人は、周りに判断を委ねたり、意思決定を先延ばししたり、決定したことを後から悔やんだりする傾向にあるのだとか。

私たちが選択肢を増やしすぎないためには、自分の中で「これでいいだろう」というラインを決めて行動することがポイントです。

たとえば、プレゼン資料を作るのに何時間もかかってしまうという人は、完璧主義すぎるのかもしれません。自分の中で、「こことここさえ押さえていればOK」という合格ラインを決めましょう。たとえば「内容は口頭で話すので、要点がまとまっていること」「文字のフォントとサイズがそろっていること」「想定できる質問の回答は、最低でも10個は用意しておく」など、最低限押さえておくポイントをクリアすればいいと決めてしまうのです。あらかじめ「○時〜×時の間までに資料作りを終わらせる」と決めておくこともよいでしょう。

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「決断力を無駄遣いしていないだろうか?」と立ち止まって考える機会は、おそらくほとんどの人はないでしょう。私たちは無意識のうちに毎日、膨大な決断をし、エネルギーをすり減らしているのです。ビジネスパーソンが仕事で結果を出すためには、決断力を無駄遣いしないことが大切。そのためには、「メールチェック回数の制限」「ルーティン化」「合格ラインを決める」ことが有効でしょう。ぜひ試してみてくださいね。

(参考)
UNC-TV|How Many Daily Decisions Do We Make?
The New York Times|Why You Need to Sleep On It
The University of British Columbia|Check less to reduce email stress
Harvard Business Review|Habits: Why We Do What We Do
The Economist|Herbert Simon
Wikipedia|ハーバート・サイモン
Judgment and Decision Making|Maximizers versus satisficers: Decision-making styles, competence, and outcomes

【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。

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