仕事や勉強に集中できないと悩む人は多いですよね。作業時間を細かく分割すれば改善できますが、その際に「実行&完了リスト」を用いると、集中力・やる気・自信の向上などが期待できます。タイマーなしでも実践可能ですよ。人間の特性とともに説明しましょう。
人間の集中力は続かないもの
脳科学者の中野信子氏によれば、私たち人間が集中できないのは普通のことなのだとか。そのほうが危険を察知しやすいからです。
たとえば「なんだかガスくさい」「地震? いまゆれてる?」「子どもの泣き声がいつもと違う」などの異常にすぐ気づけるのは、大脳の帯状回という部分が常に周囲を監視し、異常が検出されたらすぐ「おかしいぞ!」と警鐘を鳴らすから。
ひとつのことに没頭していたら、それができません。私たちの集中しにくい脳システムは、自分と子孫の命を守るためにあるのです。
時間を短くすれば集中できる
とはいえ、仕事や勉強に集中したいことには変わりありませんよね。ならば、イタリアの作家が発明したポモドーロ・テクニックがおすすめ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社コミュニケーション・マネージャーなどを経て株式会社さすがコミュニケーションズを設立した岩田ヘレン氏や、イントランスHRMソリューションズ代表取締役社長の竹村孝宏氏らも取り入れているそうです。
トマト(イタリア語でポモドーロ)型のキッチンタイマーを使用したことから名づけられたこの方法は、1セット「作業25分×休憩5分」を4回繰り返したあと、長めの休憩をとるといったシンプルなもの。
「これくらいの時間なら頑張れそう」と意欲をかきたて、限りある時間が集中力を高めるでしょう。作業の終え方次第では、さらなる効果を生みます。
キリの悪い中断が集中に役立つ
岩田氏によれば、作家のアーネスト・ヘミングウェイはたとえ文章の途中でも、あらかじめ決めておいた終了時間になると必ず手を止めていたのだとか。
キリの悪いところで中断すると、休憩中でも頭の片隅で中断したことが気になっている状態=脳がパソコンのスリープ状態になると中野氏は言います。だから、むしろ作業再開時にすんなり入り込めるとのこと。
達成したことよりも、達成しなかったことのほうが強く印象に残る現象をツァイガルニク効果といいますが、中野氏によれば、集中力が高い人ほどこの効果を利用しているそうです。
集中力を高める方法を模索中の人は、もうすでに前出のポモドーロ・テクニックや、このツァイガルニク効果を知っているかもしれませんね。そこで今回は、これらが活きるタスク管理術をもうひとつ紹介しましょう。
タイマーなしで時間管理?
前出の岩田氏は、To do リスト(やることリスト)でも、Don’t do リスト(やらないことリスト)でも、Done リスト(完了したことリスト)でもない、Doing & Done リスト(実行&完了リスト)という、自ら編み出した方法を取り入れているそうです。
行動そのものがサイクルをつくるのでタイマーが要りません。やり方は次のとおり。
- タスクをひとつだけ書き出す
- そのタスクに集中
- 終わったら線を引いて消す
- 次のタスクをひとつだけ書く
- そのタスクに集中
- 終わったら線を引いて消す(繰り返し)
ツァイガルニク効果が生まれるよう、休憩は次のタスクにちょっとだけ取りかかってからがおすすめです。
- (開始)タスクをひとつ書く
- そのタスクに集中
- 終わったら線を引いて消す
- 次のタスクをひとつ書く
- そのタスクに少しだけ取りかかる
- 休憩
- タスクの続きに集中
- 終わったら線を引いて消す
- 次のタスクをひとつ書く
- そのタスクに少しだけ取りかかる
- 休憩
- タスクの続きに集中
- 終わったら線を引いて消す
- 次のタスクをひとつ書く(繰り返す)
30分程度では終わらない大きなタスクは細かく分割(休憩を挟む)し、数分程度の小さなタスクはまとめる(休憩せず継続する)のがコツです。
「Doing & Done リスト」の効果
Doing & Done リストは、行動に自然なリズムをつくるだけが利点ではありません。たくさん書かれたTo do リストを見てウンザリした経験はないでしょうか?
やることが多いほど気が散ると岩田氏は言います。だから、常にひとつのタスクだけを示す「Doing & Done リスト」なら、無理なく意欲や集中度を上げてくれるはずなのです。
ちなみに、ITを使った人材教育を手がけてきた永谷研一氏が延べ1万2,000人以上の行動実践データを検証・分析したところ、小さな「できたこと」は「大きな変化」につながっていくとわかったそうです。また、メンタルトレーナーの森川陽太郎氏は、「できた」という感覚の積み重ねは自信につながると説明しています。
それなら、「できたこと」をストックしていけるようDoing & Done リストをノートにまとめてしまえば、自信の構築や自己改革も期待できるはず。筆者もさっそく試してみましょう!
「Doing & Done リスト」をやってみた
日々のリズムが生まれるように、1日のリストの始めは日常的なタスクも入れていきます。
終了したタスクは、赤いマジックの線で消し「終わった感」を強調します。
「ツァイガルニク効果」を期待し、次のタスクにちょっと取りかかった時点で休憩をとるようにしました(下画像の水色マーカー参照)。
ただし、ダラダラ休みは集中力を削ぐので、昼食時以外は、飲み物をとりに行く、トイレに行く、外を眺めて深呼吸といった軽い息抜きのみです。
薄緑色のマーカーは、翌仕事日に実施予定のタスクに、少しだけ取りかかったことを示します。
ひとつひとつの完了したタスクを消していくたび、一時的に次の「やること」がまっさらになります。そこでNLP(神経言語プログラミング)トレーナーの山崎啓支氏が、人間の脳には空白を埋めようとするクセ=空白の原則があると述べていたことを思い出しました。
安全・安心確保のために働く脳にとって空白は「よくわからない危険なもの」なので、私たちは「空白を埋めなきゃ」という感覚になるのだそう。
つまり、「次のタスクがないと⇒思わず何か書きたくなってしまう⇒ひとつやることが目の前に示されたから⇒行動する」といった好循環も、このリストの大きな効果なわけです。
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日付と曜日が入った完了リストの記録を一定期間残しておくと、いつ何をしたのかすぐわかるので便利ですよ。ぜひお試しくださいね。
(参考)
NIKKEI STYLE|驚くほど集中力アップ 生産性が高まる3つの新発見
日経クロステック|「ポモドーロ・テクニック」で集中力を高める
STUDY HACKER|【朗報】自信をなくしていた私が、2019年の「できたことリスト」をつくって新年を迎えてみた結果
山崎啓支(2013),『マンガでやさしくわかるNLPコミュニケーション』, 日本能率協会マネジメントセンター.
中野信子 (2015),『あなたの脳のしつけ方』, 青春出版社.
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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