承認欲求とは?なくす方法はあるの?

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承認欲求が満たされず苦しむのは、人間ならよくあることです。しかし、

「みんなからほめられたい!」
「上司に認められたい!」
「SNSで注目されたい!」

……という思いが強すぎる人は要注意。承認欲求が暴走すると、さまざまな問題が生じます。

今回は、「自己承認」と「他者承認」の違い、「マズローの5段階説」との関係など、承認欲求に関するあれこれを詳しく説明します。自分の承認欲求をコントロールする方法や、他人の承認欲求を満たしてあげる「上手なほめ方」も紹介するので、ぜひ役立ててください。

承認欲求とは

小学館の『デジタル大辞泉』によると、承認欲求とは「他人から肯定的な評価を受けたい、否定的な評価をされたくない、自分を価値のある存在だと思いたい、という欲求」。以下のような例が考えられます。

  • 上司に認められたい
  • 家族や恋人の期待に応えたい
  • 友人や知人に「すごい」と思われたい
  • みんなから好かれる人間になりたい
  • SNSで「いいね!」が欲しい
  • 有名になりたい

このように思った経験は、誰にでもあるのではないでしょうか? 承認欲求は、食欲などと同様、ごく自然な欲求なので、恥ずかしがる必要はありません。承認欲求がない人間など、ほぼいないと言っていいでしょう。

承認欲求は、「仕事や勉強を頑張ろう」「新しいことにチャレンジしてみよう」というやる気を生みます。しかし、承認欲求があまりに強いと、いわゆる「かまってちゃん」や「承認欲求モンスター」になってしまい、トラブルやストレスにつながるので、要注意です。

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承認欲求の種類

承認欲求には、「他者承認欲求」と「自己承認欲求」の2種類があります。

他者承認欲求

「承認欲求」と言う場合、ほとんどは「他者承認欲求」を指します。他者承認とは、周囲から認められたり評価されたりすることです。

他者承認欲求の充足は、「他人がほめてくれるかどうか」という不確定な要素にかかっています。思い通りには満たされません。「一生懸命仕事をやったのに、上司がほめてくれなかった」「親切にしてあげたのに、お礼ひとつ言われなかった」というのは、よくありますよね。

そのため、他者承認欲求が強い人は、他人の反応に一喜一憂し、誰かの顔色をうかがいながら生きることになります。仕事や勉強のモチベーションも「ほめられるかどうか」に左右されるので、やる気の波が大きく情緒不安定になりがちなのが、他者承認欲求が強すぎる人の特徴です。

自己承認欲求

自己承認とは、自分で自分を認めてあげること。自己承認の感覚が養われている人は、自分の力で承認欲求を満たせます。そのため、他者の反応を気にすることなく、心を安定した状態に保てるのです。

承認欲求の苦しみから解放されるには、自己承認の境地へとステップアップすることが大切だと言えるでしょう。

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マズローの5段階説における承認欲求

承認欲求という言葉は、米国の心理学者アブラハム・マズロー(1908~1970)の「欲求5段階説」でも有名です。欲求5段階説とは、人間の欲求を5段階のピラミッドに位置づけた理論。「欲求階層説」「自己実現理論」「マズローの法則」とも呼ばれます。

マズローの法則のピラミッド図。承認欲求は上から2段階め。

上の図を見てください。欲求が「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つに分類されています。

最も低次元な欲求は「生理的欲求」。それが満たされれば「安全の欲求」へ、またそれが満たされると「社会的欲求」へ……という具合に、欲求が発展していきます。このピラミッドの上から2番めに位置するのが、承認欲求というわけです。

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なぜ承認欲求が必要なのか

マズローのピラミッドに示された欲求は、承認欲求も含め、どれも成長に必要なものです。承認欲求は、仕事や勉強などの努力を続けるうえで、大きなモチベーションになります。

学生時代、親や先生にほめられたいという理由で勉強を頑張っていた方は多いのではないでしょうか。社会人になったいまは、以下のような動機で頑張っている方もいるはず。

  • 上司にほめられたい
  • 同僚に一目置かれたい
  • 顧客の笑顔を見たい
  • 出世したい
  • 社会の役に立ちたい

5段階の欲求のうち、「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」は満たされやすいため、モチベーションとしてはあまり続きません。生活が成り立ち(生理的欲求)、職場が快適で(安全の欲求)、会社になじめれば(社会的欲求)、ある程度満足してしまいます。しかし、次の「承認欲求」が強ければ、さらなる高みを目指せるのです。

経営コンサルティングを手がける株式会社フロウシンクの代表取締役社長・米倉博彦氏によれば、承認欲求が満たされると「やればできる」という自信(自己効力感)が強まるのだとか。「努力する→承認欲求が満たされる→自信がつく→さらに努力したくなる」という好循環が生まれれば、仕事・勉強の成果がどんどんアップしていくはずです。

◆承認欲求のメリット

  • 仕事や勉強のモチベーションが高まる
  • 精神的な満足感が得られる
  • 自己効力感が強まる

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承認欲求のデメリット

一方で、承認欲求が強すぎると、以下のようなデメリットが生まれます。

他人に振り回される

承認欲求が強すぎると、他人に振り回される恐れがあります。承認欲求が満たされるかどうかは、他者の反応という不確定な要素に左右されるためです。

  • 上司がほめてくれなかったので、やる気がなくなった
  • 思うような評価を受けられなかったので、深く落ち込んだ
  • 頑張りを誰も見てくれないので、勉強意欲が失せた

……という具合に、他者が承認してくれるかどうかで情緒が不安定になりやすいのが、承認欲求が強い人のもろさ。承認欲求は重要なモチベーション源ですが、依存しすぎるのはよくないのです。

ストレスを感じる

承認欲求は、プレッシャーとなって私たちを縛ることもあります。

  • 上司の期待を裏切りたくない
  • 家族の応援に報いたい
  • SNSの「いいね!」が欲しい

……などの欲求により、頑張りすぎてストレスを感じてはいないでしょうか?

精神保健福祉士の川島達史氏によると、承認欲求が強い人は、抑うつ感・不安感・無気力感で悩みやすいそう。責任感が強い方、きまじめな方などは、自分を追い詰めないよう注意してください。

人間関係のトラブルを起こす

承認欲求が暴走すれば、周囲の人に迷惑がかかったり、人間関係のトラブルが起こったりするため、要注意です。

  • 自慢話などの「マウンティング」をする人
  • あえて注目されるような言動をする人
  • 自己中心的に振る舞う人

……などは、承認欲求を「こじらせた」典型と言えるでしょう。承認欲求丸出しの行動や自己アピールをする、いわゆる「かまってちゃん」。あなたのまわりにもいるのではないでしょうか?

心理カウンセラーの石原加受子氏によると、承認欲求が満たされず蓄積した不満は、他者への「怒り」につながるそう。人間関係のこじれや、パワハラ・モラハラに発展するかもしれません。このように攻撃的な承認欲求は、「自己顕示欲」と呼べるでしょう。

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承認欲求が強い原因

なぜ、承認欲求はこんなにも強くなってしまうのでしょう? 原因として、以下の3つが考えられます。

自己肯定感

臨床心理士の広瀬絵美氏は、他者承認欲求が強い原因のひとつとして、自尊心自己肯定感、自己重要感)の低さを挙げています。

自尊心とは、「自分は価値のある人間だ」と評価する感情。自尊心が低い人は、自分で自分を認めてあげられないため、誰かに認めてもらったりほめてもらったりすることで自分の価値を確認したがるのです。

自分への期待

自己承認欲求が強い原因として、広瀬氏は「自分への期待値の高さ」を挙げています。

たとえば、営業でひと月に10件の契約をとれたとします。「7件とれれば十分」と思っていれば、目標を3件も上回ったので、「今月は頑張ったな!」と満足できるでしょう。しかし、「15件とろう」と高い目標を掲げていた場合、「自分はダメだな……」と落ち込んでしまうはずです。

広瀬氏によれば、自分への期待値が結果を上回っていると、自尊心が低くなってしまうそう。その結果、他者からの承認を求め、承認欲求が強くなるのです。

理想を追って心身を壊しては、本末転倒。自分の能力に見合う、ちょうどいいレベルの目標を設けましょう。

SNS

SNSアプリの利用によって、承認欲求が刺激されることも多いですよね。友人の投稿に嫉妬したり、「いいね!」の数で一喜一憂したり。「SNS映え」するアイテムやスポットを、ユーザーが競うように投稿していた頃もありました。「投稿を不特定多数に見てもらえる」「気に入られた投稿には『いいね!』がつく」という性質上、SNSは承認欲求をくすぐってくるのです。

しかも、たいていのSNSに「よくないね!」ボタンはなく、よほど倫理的に問題のある内容でなければ、投稿に批判が殺到することはそうありません。そのため、現実世界とは違い、「自慢したら嫌われるかも」「批判されるかも」という自制心が働きにくいのです。普段は抑えられている承認欲求が、SNSではむき出しになりやすいと言えます。

家庭環境

心理学者の正木大貴氏によると、承認欲求は家庭環境とも関係しているそう。

親との関係は、人格形成の基礎です。親に助けを求めたら応えてくれた、泣きついたらなぐさめてくれた、などの経験が積み重なることで、「自分は他者から認められている」という自己承認の感覚が育まれます。

しかし、親の虐待や無関心のもとだと、他者から認められている感覚は身につきません。すると、「誰かに認めてほしい」という欲求が強くなるのです。

また、「○○できるからいい子だね」のような「条件つき承認」を受けて育った場合、「○○できなければ見捨てられるかも」という不安を抱えて生きることになります。そのため、ありのままの自分が認められているという感覚をもてず、承認欲求が過剰になることがあるのです。

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承認欲求のセルフチェック

ここで、あなたの承認欲求の強さをチェックしてみましょう。以下の項目に、いくつ当てはまるでしょうか。当てはまった項目が多いほど、承認欲求が強いということになります。なお、この承認欲求尺度は、社会心理学者・小島弥生氏らの論文「賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度作成の試み」を参考にしました。

 人と話すときは、できるだけ自分の存在をアピールしたい
 初対面の人には、まず自分の魅力を印象づけようとする
 自分が注目されていないと、つい人の気を引きたくなる
 信頼を得るため、自分の能力を積極的にアピールするほうだ
 責任ある立場につくと、「自分を印象づけるチャンスだ」と思う
 みんなから注目され、愛されるような有名人になりたいと思うことがある
 意見を言うとき、反対されないか気になる
 自分の意見が少しでも批判されるとうろたえる
 周囲から変な目で見られないか、いつも気にしている
 相手が不愉快そうな表情をすると、あわててご機嫌をとってしまうほうだ
 敵視されないよう、人間関係には気をつけている
 優れた人々のなかにいると、自分が孤立していないか気になる

当てはまる項目が多かった方は、これから説明することを参考に、承認欲求と上手に付き合う方法を学びましょう。

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承認欲求との付き合い方

承認欲求が強い人は、満たされない思いに悩まされたり、人間関係のトラブルを起こしたりと、苦労が多いもの。承認欲求を上手に抑えるには、以下の方法を実践してみてください。

温かいコミュニティに入る

前出の川島氏は、自分を承認してくれる「肯定的コミュニティ」に所属することをすすめています。

まわりに批判的な人が多いと自尊心が傷つきますが、温かく優しい人たちに囲まれていれば、肯定的な言葉をかけてもらえる機会が増え、承認欲求が満たされやすいもの。いまのコミュニティで承認されず苦しいなら、社会人サークルや出会いの場に足を運んだり、昔の友人に連絡をとったりなどして、あなたを迎え入れてくれる心地のいい環境を探してみましょう。

コミュニティを選ぶ際は、自分の能力や個性をふまえることも大切です。たとえば、A社では成績最下位でも、転職先のB社では上位になり、承認欲求が満たされるかもしれません。テニスサークルでは目立てないけれど、フットサルサークルでなら輝ける、という人もいるでしょう。

リアルだけでなく、SNS上のコミュニティも、温かいものを選びましょう。親しい友だちや趣味の仲間など、自分を承認してくれる好意的な人だけをフォローし、不快に感じるアカウントのフォローは避けてください。

「限界設定」をする

承認欲求を完全に満たすのは困難です。「もっとたくさんの人に好かれたい」「もっとたくさんの『いいね!』が欲しい」と追及していれば、いつまでも満足できないでしょう。

そこで川島氏がすすめるのが「限界設定」。「ここまではOKだけど、これ以上はダメ」という境界を設定することです。

「このくらいの承認が得られたら満足」のラインを決めておきましょう。「すべての人に好かれよう」と思えば、ひとりにでも嫌われると欲求不満になってしまいます。しかし、「10人中2人くらいに好かれればいいや」と決めておけば、たとえ8人に嫌われても「まぁいいや」と割りきれ、苦しまずにすむでしょう。

人にほめられたい気持ちが強い人は、「ほめられなくて当たり前」と考えてはいかがでしょうか? 「せっかく頑張ったのに、なぜほめてくれないんだ!」という不満や怒りがなくなりますよ。

SNSの場合は、「月に1回『いいね!』をもらえたらOK」「SNSを見るのは1日1回まで」などのルールを決めておくと、疲れにくくなるでしょう。

◆「限界設定」の例

  • 10人中5人に好かれれば十分
  • 仕事なのだから、ほめられないのが当たり前
  • 「いいね!」は、月に1回くらいもらえればOK
  • SNSを開くのは1日1回まで
  • LINEに返信するのは、移動中と寝る前だけ

目標を小さくする

仕事や勉強における目標は、できるだけ小さくするべきです。ハードルが高すぎると、目標を達成できず自信を喪失し、承認欲求が強くなります。

すでに目標があるなら見直し、自分の能力に見合うレベルまで引き下げるか、複数の小目標に分けてみましょう。達成の確率が上がるので、自分を承認しやすくなります。

日常のなかで「小さな目標」をつくり、成功体験を積んでいくのも効果的です。「メールチェックを30分以内に終えられた」といった仕事上のものだけでなく、「本を1冊読み終えた」などプライベートな成功体験でもかまいません。

テレビゲームで遊ぶのも、成功体験を得る手段のひとつ。ゲームの世界のいいところは、努力が成果に反映されやすいこと。ステージをクリアしたり、相手に勝ったりすることで、承認欲求を手軽に満たせます。ハマりすぎは禁物ですが、自己承認の感覚を取り戻すツールとして、上手に活用してはいかがでしょうか。

◆「小さな成功体験」の例

  • メールチェックを30分以内に終えられた
  • ミスなく資料をつくれた
  • 本を1冊読破できた
  • 新しい料理をつくれた
  • ゲームで勝利(クリア)した

肯定的ストロークを送る

川島氏がすすめる承認欲求の満たし方は、「肯定的ストローク」を送ることです。ストロークとは「関わり方」という意味。自分で自分をほめてあげる方法です。

肯定的ストロークには、「条件つきのストローク」と「無条件のストローク」があります。「条件つきのストローク」とは、達成した成果をほめること。「営業ノルマを達成して、すごいぞ!」「資格試験に合格できて、偉いぞ!」という具合です。

「無条件のストローク」とは、結果にかかわらずほめること。「ノルマは達成できなかったけれど、精いっぱい頑張った。すごいぞ!」「試験には落ちたけれど、勉強したことはムダにならない。偉いぞ!」という具合です。自己承認の感覚を養うには、「条件つきのストローク」と「無条件のストローク」を組み合わせ、成功・失敗にかかわらず、どんなときでも自分を肯定してあげるクセをつけましょう。

川島氏によると、肯定的ストロークを習慣化するには、肯定的ストロークを行なう場所「ストロークゾーン」を決めるのがいいそう。特定の場所で肯定的ストロークをするルールを設定すれば、自分をほめる習慣が自然とつき、自己承認の感覚をキープできます。

◆ストロークゾーンの例

  • 寝る前のベッドのなか
  • 出勤する電車のなか
  • ランチタイムのレストラン

内発的動機を増やす

川島氏は「内発的動機を増やす」という方法も提唱しています。動機(モチベーション)には「外発的」と「内発的」の2種類があるのだとか。

◆外発的動機:他人にコントロールされる動機

  • ほめられたいからやる
  • 評価されたいからやる
  • 報酬が欲しいからやる

◆内発的動機:自分の興味・関心・意欲に基づく動機

  • 楽しいからやる
  • 好きだからやる
  • ただやりたいからやる

外発的動機に依存すると、他人の評価・判断という不確定な要素に振り回されてしまいます。しかし、興味・関心・意欲という内発的動機は自分のなかから生まれるので、他人は関係ありません。「認められたい」という感情で動くのではなく、「楽しい」「好き」「知りたい」といった純粋な意欲を見つけることで、承認欲求に振り回されず、感情が安定します。

◆動機を「外発的」から「内発的」に変える例

  • 評価されたいから仕事を頑張る
    →仕事が好きだから頑張る
  • 合格してほめられたいから勉強を頑張る
    →楽しいから勉強を頑張る
  • SNSで「いいね!」をもらうために投稿する
    →文章を書くのが楽しいからSNSに投稿する

強すぎる承認欲求をなくしたい方は、以上の方法を試してみてください。

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承認欲求を満たす言葉かけ

自分だけでなく、周囲の人の承認欲求を満たしてあげることも大切です。「認められたい」「ほめてほしい」という思いは、誰にであるもの。

人間関係を円満に維持するには、「あなたの存在を承認していますよ」というメッセージを発信し続けましょう。部下や後輩をほめることは、マネジメントの観点からも重要です。経営者や幹部を指導する「エグゼクティブコーチ」平野圭子氏らの解説を参考に、周囲の人の承認欲求を満たす方法として、「ほめ」テクニックをご紹介しましょう。

具体的に

ほめるときは、行動・成果を具体的に挙げるのが基本です。「頑張ってるね」「すごいね」といったありきたりな言葉では響きませんが、「営業成績が10%も伸びたんだね」と具体的にほめれば効果抜群。自分のことを見てくれていたんだ、と感じられ、嬉しくなるものです。

具体的にほめるには、日頃からしっかり人を見ておく必要があります。その人が何を頑張っているか、どのように成長しているか、どんな個性をもっているか、と考えて目を向けていれば、ほめるのが自然と上手になるはずです。

◆具体的にほめる例

  • 営業成績が10%も伸びたなんて、嬉しいよ
  • きみは毎朝、30分も早く出社しているんだね
  • 机をとてもきれいに使っているんですね

評価しない

ほめ方によっては、「上から目線」と受け取られ、かえって不快感を与えてしまうことも。前出の平野氏によれば、「すごいね」「偉いね」などの言葉には「評価」のニュアンスがあるため、あまりよくないそう。相手を承認する言葉をかけるときは、「You」「I」「We」という3つの立場を使い分けると効果的とのことです。

  • You:相手の行動・成果を指摘する
    【例】「きみは営業成績が10%も伸びたんだね」
  • I:自分の気持ちを伝える
    【例】「きみの営業成績が10%も伸びたなんて、私も嬉しいよ」
  • We:仲間の気持ちを伝える
    【例】「きみの営業成績が10%も伸びて、チームのみんなも喜んでいたよ」

文章でも

精神科医の樺沢紫苑氏によると、ほめ言葉は文章で伝えるほうが効果的だそう。あとから読み返すことができるためです。たとえば、

  • メール
  • 手紙
  • ふせん
  • 日報のコメント欄

などでほめてもらえると、「わざわざ自分のために書いてくれたんだ!」という感じがして、いっそう嬉しくなりますよね。

日頃の思いをあらためて伝えたいとき。落ち込んでいる人を励ましてあげたいとき。あるいは、何かの節目に差しかかったとき。大切な人に、感謝や称賛の言葉をメールや手紙で贈ってはいかがでしょうか?

一方、気軽にメッセージを伝えたいときは、ふせんが便利です。「いつも仕事が丁寧で、助かります!」とひとこと書き込んで書類に添えるだけでも、相手の承認欲求を満たすはず。

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承認欲求をもっと知るための本

最後に、承認欲求についてより深く学べる本をご紹介しましょう。

『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』

産業カウンセラーの大野萌子氏による『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』は、タイトル通り、承認欲求が強い「かまってちゃん」への対処を詳しく解説してくれます。

  • 「悲劇のヒロイン・かまってちゃん」
  • 「サイバーテロ・かまってちゃん」
  • 「こわれもの取り扱い注意・かまってちゃん」

といったユニークな名前で、承認欲求の強い人を分類。「かまってちゃん」が生まれる背景や、「かまってちゃん」の心理なども分析されています。

『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』によれば、適度に距離を置きつつ「上手に構ってあげる」のが正しい対策だそう。面倒だからと突き放したり無視したりせず、相手の承認欲求が満たされるよう対応するほうが、組織全体の利益につながるとのことです。

部下のマネジメントや同僚との付き合いのみならず、プライベートの人間関係にも活かせる内容。身近な「かまってちゃん」にお悩みの方は、ぜひ手に取ってみてください。

「かまってちゃん」社員の上手なかまい方 (ディスカヴァー携書)

「かまってちゃん」社員の上手なかまい方 (ディスカヴァー携書)

  • 作者:大野萌子
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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『承認欲求』

2冊めは、組織論を専門とする太田肇氏の『承認欲求』。日本における承認欲求の特徴が分析されています。

『承認欲求』のキーワードは、「裏の承認」と「表の承認」です。裏の承認とは、和や秩序を重んじ、ミスをしないことで得られる、昔ながらの「日本的」な承認。表の承認とは、能力や実績によって得られる「現代的」な承認です。

『承認欲求』では、裏の承認・表の承認という概念を軸に、日本で承認欲求を満たすにはどうすればいいか、企業や管理者はどう考えるべきか、詳しく解説されています。承認欲求をコントロールするヒントを得たい方や、組織論や社会論への興味がある方にもおすすめです。

『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』

3冊めは、心理学者の岸見一郎氏らによる『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』。オーストリアの心理学者、アルフレッド・アドラー(1870~1937)が生んだ「アドラー心理学」の入門書です。

アドラー心理学で、承認欲求は「不要なもの」とされています。私たちは他人のために生きているわけではないのだから、他者の評価に振り回されるべきではない、という主張。「われわれは他者の期待を満たすために生きているのではない」というアドラーの名言があります。

『嫌われる勇気』には、そんなアドラー心理学のエッセンスが「哲人」と「青年」の対話形式でつづられています。「青年」の悩みに、アドラー心理学を熟知した「哲人」が答えていくスタイルです。物語を読むように、楽しく理解できますよ。承認欲求で苦しんでいる人、生きにくさを抱えている方は、『嫌われる勇気』で人生哲学を学んでみてはいかがでしょう?

嫌われる勇気

***
過剰な承認欲求を捨てるには、「他者承認」の呪縛から抜け出し、自分で自分を認める「自己承認」の感覚を身につけることが重要です。「認められたい!」という感情に振り回されがちな方は、今回のアドバイスをぜひ実践してみてくださいね。

(参考)

コトバンク|承認欲求
RE_ME|承認欲求が強い…特徴や原因・3つの対処法って?臨床心理士が解説
浜畠太(2017),『自分らしく要領よく仕事をしてなぜか評価されるズルい働き方』, こう書房.
Direct Communication|承認欲求が強い女と言われる…なくす方法
太田肇(2019),『「承認欲求」の呪縛』, 新潮社.
米倉博彦(2019),「『認められたい』承認欲求のメリットとデメリット」, NEWSふくおか, 2019年12月号, pp.28-29.
石原加受子(2020),『感情はコントロールしなくていい』, 日本実業出版社.
RE_ME|承認欲求とSNSの関係・自撮りがうざい心理とは?臨床心理士が解説
正木大貴(2018),「承認欲求についての心理学的考察―現代の若者とSNSとの関連から―」, 現代社会研究科論集=Contemporary society bulletin:京都女子大学大学院現代社会研究科博士後期課程研究紀要, 12号, pp.25-44.
小島弥生・太田恵子・菅原健介(2003),「賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度作成の試み」, 性格心理学研究, 11巻, 2号, pp.86-98.
Direct Communication|強い承認欲求をなくす,自己承認,自分を褒める方法
All About|承認とは?コーチングスキルによって部下が明るく元気になる!
樺沢紫苑(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』, サンクチュアリ出版.
ダイヤモンド・オンライン|アドラー心理学は、あなたの「承認欲求」を否定する!
クーリエ・ジャポン|「アドラー心理学」超入門 10分でわかる、心が軽くなる!

【ライタープロフィール】
佐藤舜

大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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