充実した休日の過ごし方がわからない。しっかり休んだつもりなのになぜか疲れが抜けない。そんな方におすすめな休日の過ごし方が「森林浴」です。
森林浴と聞くと仰々しく感じますが、そんなに難しいことではありません。都会の喧騒から離れ、森の中を歩いたり、緑の匂いに包まれたりしながら、自然の癒しを全身に浴びる。たったそれだけのことで、さっぱりと疲れが取れてしまうのです。
今回は、森林浴によってもたらされる科学的メリットや、癒し効果をもっと高めるコツなどをご紹介します。
「森林浴」で得られる3つの効能がすごい
自然と触れ合う気持ちよさは、誰しも感じたことがあるはず。じつは科学的にも、森林浴によってさまざまな恩恵を受けられることがわかっています。
【メリット1】ストレスが軽減する
まず、森林浴はストレス解消に抜群の効果を発揮します。
医学博士の今井通子氏が紹介する研究では、森林へ2日間旅行に行った場合と、都市部の観光地へ2日間旅行に行った場合とで、ストレスレベルにどのような違いが現れるかを調査しました。
すると、都市部へ行ったグループは1日目だけストレス値が下がったものの、翌日にはもとに戻ってしまったのに対し、森林へ行ったグループは、なんと旅行から帰ったあとも1ヵ月間、ストレス値が下がったままだったのだそう。
つまり、森林浴のストレス発散効果は長期にわたって持続しやすいということが、この実験からわかります。もし旅行の目的が「ストレス解消」や「癒し」である場合には、都会の観光地を選ぶよりは、人里離れた自然の中で過ごすほうが適しているようです。
【メリット2】疲労回復効果
関西福祉科学大学らが行なった共同研究によると、自然との触れ合いは、疲労回復にも効果が認められているのだそうです。
実験では、被験者を2つのグループに分け、一方は都市環境で、もう一方は森林環境で、それぞれテストを解いてもらいました。その結果、慢性疲労の原因である酸化ストレスという数値が、森林環境にいる被験者のほうが回復しやすいことがわかったのです。
また同じ実験で、「気分の落ち込み」「イライラ感」「活力」「不安感」「意欲」といった精神的な疲労に関わる指標も、森林環境によって改善する傾向が見られました。
【メリット3】生産性が上がる
また、長野県信濃町と特定非営利活動法人Nature Serviceが行なった研究により、自然環境によって生産性が向上することも示されています。
この実験も、メリット2で紹介したものと似た手順で行なわれました。被験者を10人ずつのグループA、Bに分け、グループAには最初に都市環境でテストを解いてもらい、それから森林環境に移動して再テストを実施しました。一方でグループBはその逆(森林環境でテストを解いてから都市環境へ移動する)の順序でテストが行なわれました。
その結果、どちらのグループも、自然に囲まれた環境のほうが作業効率が向上し、また興味関心や快適性の値も高くなったのだそうです。
「森林浴」でするべき4つのこと
では、より高い癒し効果を得るためには、森に行ってどんなことをすればいいのでしょうか。科学的に効果があるとされている方法を以下にご紹介します。
1. ボーっとする
まずは、何も考えずにボーっと佇んでみましょう。
脳科学者の茂木健一郎氏は、ボーっとすることで脳にもたらされる効果について、以下のように解説しています。
脳には「デフォルト・モード・ネットワーク」という神経回路があって、これは何も考えずにボーッとしているときだけ活性化するんです。このとき行われるのが脳のメンテナンス。人はこれによって新しい気づきを得たり、ストレスが解消したり、創造性が高まったりします。
(引用元:プレジデント・ウーマン|10連休明け絶好調になる「最高の休み方」 ※太字は筆者が施した)
つまり、何も考えずにボーっとすることは、脳を休息させるためにとても重要なことなのです。デフォルト・モード・ネットワークは、創造性や思考の柔軟性にも深く関わりがある回路とされており、将棋棋士の羽生善治氏も、休みの日にはあえてボーっとする時間をつくるようにしているのだそうです。
2. 空を見つめる
よく晴れた日には、青空を見上げてみましょう。大阪市立大学が行なった研究では、空の青色には神経を落ち着かせる効果があることが示されています。
また空を仰ぎ見ると、自然に背筋が伸び、胸を張るような姿勢になりますよね。この姿勢も、精神面によい影響をもたらします。明治大学教授の堀田秀吾氏によると、空を仰ぐようなシャキッとした姿勢をとると、自意識が良い影響を受け、自信が沸きやすくなるという心理作用があるのだそうです。
3. 森の匂いを吸い込む
木々の醸し出す森の匂いも楽しみましょう。前出の今井氏によると、樹木から出るフィトンチッドという香り成分には、リラックス効果だけでなく、免疫機能を高める効果もあるのだそうです。
また、森林では空気そのものもきれいです。今井氏によると、森林には排ガスや二酸化炭素などを吸収し、空気を浄化する機能があります。都会にはないおいしい空気を味わい、心身ともにリフレッシュすることができそうですね。
4. 森林セラピーに参加してみる
科学的エビデンスに基づいた森林浴を特に「森林セラピー」といいます。森林セラピーは、認定を受けた一部の森林で行なわれており、森林セラピストのガイドに従いながら、自然と触れ合うさまざまな体験をすることができます。
たとえば、滝に向かって叫ぶ、大地に寝転ぶ、木を切るなど、ふだんなかなか体験できないさまざまなメニューが用意されています。どうせなら何か変わったことをしてみたいという方は、近くで森林セラピーをができる場所を探し、申し込んでみてはいかがでしょうか。
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日々のストレスを吹き飛ばすのに最適な、森林浴について解説しました。特に都市部で暮らしている方は、時には木々の温もりに触れたり、川のせせらぎに耳を傾けたり、土の上を踏み歩いたりしながら、自然を味わう機会を設けてみてください。
(参考)
Coca-Cola Journey|Amazing Therapy 科学で実証された「森林セラピー」驚くべき効能
関西福祉科学大学|精神的作業疲労に対する森林浴の疲労回復効果
PR TIMES|長野県信濃町とNature Service、自然環境でのリモートワークに生産性向上の効果があることを示唆
プレジデント・ウーマン |10連休明け絶好調になる「最高の休み方」
ダイヤモンド・オンライン|天才たちに共通する「脳の使い方」があった!
週刊女性プライム|気休めじゃない! ストレスを乗り切り「科学的に」元気になる10の方法
特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティ|森林セラピーとは
産経ニュース|「森林セラピー体験」ストレス発散、リラックス…科学的に実証
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。