仕事で成果を挙げるためには「未来を予測する」ことが重要な鍵となります。たとえ多くの人が思いつくようなアイデアだったとしても、誰よりも先んじて思いつくことができたなら、大きな成果につながることは間違いないでしょう。
そこでお話を聞いたのは、「未来を予測するプロ」と言ってもいい投資家の藤野英人(ふじの・ひでと)さん。藤野さんが考える「未来を予測することの重要性」、そして「未来を予測する方法」を明かしてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
未来を予測することは難しいが、それでも予測しなくてはならない
こう言ってしまうと身もふたもないかもしれませんが、未来を予測することが重要だとはいっても、未来はそう簡単に予測できるものではありません。それが、未来に関する原則です。未来とは不確定であり、謎に満ちているものなのです。
だからこそ、未来に対して謙虚になることが重要だと私は考えています。考えもしなかったことが起きても、思惑が外れても、「未来とはそういうものだから」と謙虚に思えたなら、予測が外れたことによって、ことさらに振り回されなくなります。
でも、そんななかでも、未来を予測しようとすることはやはり重要なのです。私たちが挑戦して前に進み、未来をよりよいものにしていくには、「これからどういうことが起きるのだろうか」という予測をしておかないと、実際に起きたことに対してなんの備えもできておらずに右往左往するばかりで、そこからなにかを学ぶこともできないからです。
そして私は、ただ未来を予測するのではなく、「先の先を読む」ことが重要だと考えます。「先」が3〜5年後くらいの近未来だとしたら、「先の先」は10年後くらいのイメージでしょうか。
3〜5年後の未来も、予測することはもちろん難しいもの。なぜなら、さまざまなイベントにより左右されるからです。2019年の時点で、新型コロナウイルスが私たちの生活を一変させることなんて誰が予測できたでしょうか? 今後も新たなウイルスが蔓延したり、世界のどこかで戦争や天変地異が起こったりするかもしれません。そういったイベントに左右されるのが未来なのです。
「『起きる』とほぼ確実に言えること」から先の先を読む
こう言うと、「だったら、『先の先を読む』なんてとうていできそうもない」なんて思った人もいるかもしれませんね。でも、10年後の未来に対しても、起きるかどうか不確定なイベントとは違い、「このことは起きるだろう」とほぼ確実に言えることもあります。
スマホなどに用いられる通信規格は、現在、「5G」と呼ばれる第5世代のシステムに「4G」から切り替わっている時期です。この通信規格は、これまでだいたい10年程度のスパンで新たなシステムに切り替わってきています。ですから、10年後には「6G」への切り替えが始まっているか普及していると、ほぼ確実に言えるのです。
通信技術の進歩のスピードを考えると、6Gになれば通信速度は5Gの10倍、あるいは100倍になることだって考えられます。その予測ができれば、「超高速通信を活かしてなにかビジネスができないか」といったことも事前に考えられるでしょう。そう考えられる人とそうでない人では、10年後の仕事の成果に大きな差が生まれるはずです。
多くの人は、目の前にあることだけを見て生きています。「目の前のことに必死になっている」と言うと、「いまを大事に生きている」といった見方もできるかもしれません。
でも、先の先を読むからこそ、「先の先に備えるためにいまなにをすべきか」も見えてきます。すると、毎日のなかで、未来のために正しいと言える可能性が高い努力をすることもできます。このほうがよほどいまを大事に生きていて、いまを充実させることにもつながるのではないでしょうか。
異世代の人とのコミュニケーションから先の先を読むヒントを得る
では、どうすれば先の先を読むことができるようになるのでしょう? 最も大事なのは、「自分と違う世代の人たちとコミュニケーションをとる」ことです。中高年の人なら、会社の部下など若い世代に説教をするだけではなく、「いま、なにがはやっているの?」「どんな音楽を聴いているの?」「最近読んだ本は?」というふうに質問をして真摯に学んでみてください。
先の先の時代をつくっていくのはいまの若い世代です。彼ら彼女らとのコミュニケーションから、「これは新しいトレンドになるかもしれないな」「だったら、こういうサービスが始まるかもしれない」といったことも見えてくるでしょう。
逆に、若い人たちにとっては、年上世代とのコミュニケーションが重要です。自分の若さを活かすという考え方もあるかもしれませんが、年上世代だからこそもっている経験則といったものもあります。それらは、同世代の若い知人から学べるものではありません。
私が若かった頃、ある外資系のファンドマネージャーからよく食事に誘われていました。もうシニアといっていい年齢のその女性からは、「一喜一憂するな」「状況を楽しめ」「長い目で見ろ」「勝っているときにおごるな、負けているときにくじけるな」など、投資に関する多くの考え方を学ばせてもらいました。
一方、まだ若かった私は不思議にも思っていました。「学ばせてもらうばかりで自分はなんの役にも立たないのに、どうして食事に誘ってくれるのだろう」と。でも、いまの年齢になるとわかります。彼女も、若い私の話からなにかを学んでいて、お互いにWin-Winの関係だったというわけです。
そう考えると、若い人たちにとっては、「年上の人に誘われる人間になる」ことも重要かもしれませんね。つまり、年上の人が欲しがるような、若いからこそもてる情報や、年上の人を楽しませるようなサービス精神をしっかりもっておくのです。
それから、まだ「ずっと先」の話ですが、若いみなさんが年上世代になったときには、それまでに積み重ねてきた自分の経験を、そのときの若い世代に惜しげなく教えてあげてほしいとも思います。
【藤野英人さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「先の先を読む」ための2つの日常習慣。大切なのはあえて “アウェイ” に行くことだ
仕事を通じて幸せになりたい人が、まず目を向けるべきは「これ」だった。
【プロフィール】
藤野英人(ふじの・ひでと)
1966年8月29日生まれ、富山県出身。投資家。ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。『おいしいニッポン』(日経BP)、『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス)、『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日経BP)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『お金を話そう。』(弘文堂)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。