
忙しい毎日を変えたいと思ったとき、多くの人は仕事の量やスピードを問題にします。しかし、見落とされがちなのが、生産性の土台となる「ウィルパワー(意志力)」の存在です。集中や判断に欠かせない脳の出力であるウィルパワーは、時間と同じく有限な資源です。消耗したまま働き続けても、成果は挙げられません。超多忙な毎日を送る弁護士の谷原誠さんが、ウィルパワーの維持や回復のために実践している休憩術を明かしてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
谷原誠(たにはら・まこと)
1968年9月5日生まれ、愛知県出身。弁護士。1991年、明治大学法学部卒業。同年、司法試験に合格。税法、損害賠償、企業法務、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた質問力、交渉力、議論力などを武器に解決に導いている。現在、20人以上の弁護士が在籍するみらい総合法律事務所を共同経営する代表パートナーを務める。また、テレビのニュース番組等での解説者としても活躍。著書に『税理士懲戒処分の事例と実務』(中央経済社)、『裁判例に見る 税理士損害賠償の回避ポイント』(ロギカ書房)、『日本一敵が少ない弁護士が教える 7タイプ別交渉術』(秀和システム新社)、『「いい質問」が人を動かす』(文響社)などがある。
「ウィルパワー」を消耗すると、生産性が大きく低下する
忙しい毎日のなかでも、自由に使える時間を増やす、あるいは限られた時間をより有効に使うためには、絶対に見逃せない要素が「生産性」です。シンプルに、同じことをより早く終えることができれば、それだけ時間を節約できて自由時間を増やせるからです。
生産性を高めるには、「ウィルパワー(意志力)」に注目しましょう。思考する、やるべきことに集中する、意思決定や判断を行なうなど、脳が高度な認知活動を行なうあらゆる局面でウィルパワーは必要とされます。
そして、時間が有限であるのと同様にウィルパワーもまた有限だということが大きなポイントです。使えば使うほどウィルパワーは消耗し、枯渇してしまうとそれこそやるべきことに集中できなくなったり、意思決定や判断が鈍ったりするようになります。
つまり、ウィルパワーが大きく消耗している、あるいは枯渇してしまった状態でやるべきことにいくら取り組み続けたとしても、自分で思っているほどの成果は挙げられず、生産性が低下してしまうのです。だからこそ、ウィルパワーを枯渇させないよう、適切なタイミングで「休憩をとる」ことが大切です。

自分なりのペースで「疲れる前」に休む
では、「適切な休憩のタイミング」とはいつなのでしょうか? これは、「疲れる前に休む」ということが鉄則となります。
脳科学の分野で有名な東京大学の池谷裕二教授の論文が、その裏づけのひとつとなります。論文によると、中学生に英単語の学習をさせるにあたって、休憩なしで1時間学習する「60分学習」のグループと、15分学習したら休憩するパターンを3回繰り返す「15分×3回(計45分)学習」のグループにわけ、1週間の上昇スコアを調査したところ、合計学習時間が少ないにもかかわらず後者のほうが好成績を残したそうです。
この論文の内容を知らずとも、このことはイメージできるのではないでしょうか。運動でも勉強でも、長時間続けて疲労困憊という状態にまでなってしまうと、そこからの回復には時間がかかりますよね。だからこそ、疲れる前にこまめに休憩することが肝要なのです。
ただし、ウィルパワーをなるべく維持できる休憩のタイミングは一概には言えません。集中力と言ってもいいですが、ウィルパワーの持続時間については、15分、45分、60分、90分などさまざまな見解がありますし、もちろん個人差もあれば、どのような作業に臨むかによっても変わってきます。
ですから、ぜひ「自己観察」をしてほしいのです。たとえば15分作業を続けたときと1時間作業を続けたときで頭の疲れ具合はどれくらい変わるのか、休憩後に再開した作業にどれくらい集中できるのか、あるいは作業内容によってどう変化するのか。それらを自己観察し、自分なりの休憩ペースというものをつかんでください。
そうして自分に合った休憩ペースが見えたら、それをきちんと守ることも忘れてはなりません。「いま集中できているから」「もう少しできりがいいところだから」と休憩ペースを乱して作業を続けたくなることもあるでしょう。でも、そうしてしまうとウィルパワーを消耗しますから、その後の作業に身が入らなくなります。トータルで見た場合には生産性が大きく低下する可能性もあるのです。

一定の睡眠時間を必ず確保する
そして、なによりも毎日の睡眠をおろそかにしないようにしましょう。睡眠は脳のメンテナンスに他ならず、しっかりと睡眠をとることでウィルパワーは回復します。
このことについては、かつてのわたしもそうでしたが、若い人ほどより注意が必要です。なまじ体力があるために、睡眠時間を削って仕事にあてれば、それだけ成果につながると考えがちだからです。
でも、睡眠時間を削っていいことはなにもありません。私自身、睡眠時間を削った結果、いつの間にかぼーっとしてしまったりなぜか雑念が湧いてきたりして、本来なら1時間で終えられる仕事に2時間かかるといったことを何度も経験しました。仕事のために睡眠時間を削ったにもかかわらず肝心の仕事に集中できないという、まさに本末転倒という状態を招くのです。
ノコギリで木を切る場面で考えてみましょう。睡眠は、ノコギリの刃を研ぐ時間にあたります。睡眠不足で疲れた状態は、いわば錆びたノコギリで木を切ろうとするようなものです。錆びたままのノコギリでいくら木を切ろうとしても、なかなか作業は進みませんよね?
一方、ノコギリの刃を研ぐ、つまり睡眠をとるには、たしかにそのための時間を確保する必要があります。でも、しっかりと研がれたノコギリであれば、錆びたままの場合と比べてはるかに早く木を切り終えることができるでしょう。
いまはスマホという、睡眠の大敵ともいえるものを誰もがもっています。私の場合、自宅ではスマホを別室に置くようにしていますし、通知もすべてオフにしています。みなさんも、自分のなかでの睡眠の優先度をもう少し高めて認識することも必要なのではないでしょうか。

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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
