ネガティブ思考を続けると脳がホントに毒される。ポジティブになるヒントは身近にいる “あの人”

ものの見方01

親子ほど歳が離れた上司とあなたが、商談の帰りに会話をしているとき、あなたが「さっきの会社との取引は難しそうですね」と言ったのに対し、上司が「いや、 そうでもないぞ。先方はうちの資材調達力について評価していたし、新しい提案にも念入りに質問していただろう?」と答えた場合。

あなたは「さすが、年の功」と思ったでしょうか。それとも「部長は楽観的だなぁ」あるいは「ポジティブだなぁ」と思ったでしょうか。

いずれにせよ、その上司があなたにとって尊敬できる人ならば、前向きな “ものの見方” を参考にしてみるといいですよ。じつは、あなたと上司の “ものの見方” が違うのは、フィルターが違うせいなのです。

歳を重ねるほど肯定的な情報に気をとられる

「怖いもの知らずは若者の特権」などとよく言いますが、次の研究結果を聞くと、むしろそれは高齢者のほうかも? と思えてきます。

2019年8月12日付で『Emotion』に発表された南カリフォルニア大学(USC)レオナード・デイビス校(老年学)の研究は、若い人ほど否定的な情報に気をとられ、高齢者ほど肯定的な情報に気をとられると示しています。

じつは以前から、若者と比較して、高齢者は注意と記憶において否定的な情報よりも肯定的な情報を好む傾向があるとわかっていたそうです。

ただし、それらはあくまでも、ゆっくりと情報に注意を向け記憶した場合の研究結果であったため、USCの研究者らは、情報に触れてから早い段階に影響があるかどうかを調べるため、EIBと呼ばれる妨害効果に着目しました。

ものの見方02

EIB(Emotion Induced Blindness)とは、感情を刺激することによって一時的に物事の分別がつかなくなることを指します。たとえば、タスクAを行なう前に、タスクAとは関係ない画像Bを見せられた場合、画像Bに注意が向き、目的のタスクAへの注意力や判断力などが低下してしまうことです。

そこで研究者らは、まず参加者に

  • ポジティブ画像(赤ちゃんや幸せなカップルの画像など)
  • ネガティブ画像(ナイフを持った男性が女性に近づいている画像など)

をわずか数百ミリ秒(0.数秒)のあいだ、すばやく表示して見せ、のちに簡単な画像のタスクを行なってもらったそうです。

その結果、たった数百ミリ秒間にもかかわらず、見せられた画像に気を散らされた高齢者も若者も、タスクの精度が落ちてしまったとのこと。ただし、若者と比較して高齢者の場合は、ネガティブ画像では気が散らされず、ポジティブ画像で気を散らされたのだとか。

つまり、何かを見た際、ものすごく早い段階から高齢者はポジティブな情報を無意識に察知し、注意を向けるとわかったわけです。ネガティブ要素を取り除くフィルターをかけている、と言ってもいかもしれません。

ポジティブなものの見方03

ネガティブ思考の脳になるとは?

前項の研究で考えられるもうひとつのことは、年齢が若いほどポジティブ要素を見逃してしまう可能性です。

もちろん、肯定的なことばかりに目を向け、否定的な要素に気づかないのは、リスクマネジメントの点では大きな問題です。「大丈夫そう」「いい感じ」とチャレンジしては失敗を重ね、最終的に回復不可能なほど損害を出してしまったら、目も当てられません。

とはいえ、肯定的な要素にあまり注意を払えず、チャンスを逃してばかりの状況も大いに問題。少しだけ、あなたの身近にいる年上の人々が、どう物事を見ているのか参考にしてみてはいかがでしょう。

ポジティブなものの見方04

それに、否定的な要素ばかりに目を向けた思考を繰り返していると、ネガティブなシナプス(神経細胞と神経細胞の接合部分)のつながりが構築されてしまうそうです。

わたしたちの脳内にあるシナプスは、関連するシナプス同士がお互いに接合し、一緒に発火(活動)して、特定の思考を引き起こしています。発火によりシナプスの接合が強まる現象は、実験的にも確認されているとのこと。

つまり、いつもネガティブなことばかりに注意を向け、否定的な思考ばかりを重ねていると、ずっと否定的な考えを持ち続ける可能性が高くなってしまうわけです。

もちろん歳を重ねれば、見方も変わるでしょう。しかし、今からでも身近な年上の人々の “ものの見方” を参考にして、視野を広げてみてもいいのではないでしょうか。

幸い、わたしたちの脳にあるミラーニューロン(人の動きをまねる脳の神経細胞)のおかげで、尊敬できる相手の行動をマネながら、その意味を理解することも可能です。一緒に過ごす人によって、思考――つまりは脳も変わっていくのです。

ポジティブなものの見方05

“ものの見方” を広げていくために

たとえば上司や先輩と食事をしたり、取引先との打ち合わせや商談に同行したりした際には、ぜひ熱心に、その人が「注目した部分、関心を引いた部分」について聞いてみてください。

たとえば――

  • 取引先の担当者の印象
  • 商談の感触
  • 商品について
  • プロジェクトについて
  • チームについて
  • 会社の状況
  • 市場について
  • 政治について
  • 経済について
  • 最近のニュースについて

――などなど、どんなことでもいいのです。

思いもよらない答えが返ってきたら、それはとてもラッキーなこと。 あなたの視野が広がり、チャンスを見つける “チャンス” をもらったことになります。ニュートラルな気持ちで聞きましょう。

なおかつ熱心に質問するあなたに、上司や先輩が感心してくれるかもしれません。

***
あなたと上司の “ものの見方” の違いを示した研究と、“ものの見方” の範囲を広げる、ちょっとした方法を紹介しました。よろしければ、ぜひチャレンジしてみてください。

(参考)
横山武昌(2015),「報酬と情動の競合下における視覚処理」,日本心理学会「注意と認知」研究会 第13回合宿研究プログラム(2015年3月15西~17日サンルートプラザ名古屋 14:40-15:10).
脳リハ.com – 脳リハドットコム – 脳卒中(脳梗塞)・パーキンソン病 リハビリ情報サイト|ネガティブ思考の脳内メカニズム
Medical News|Medical Articles|Older adults are less distracted by negative information, study shows
PsycNET|Age differences in emotion-induced blindness: Positivity effects in early attention.
STUDY HACKER|「周囲に敏感すぎる人」は疲れやすい。心を楽にする3つのヒント。
脳情報システム研究室(玉川大学)|脳の講義

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