賢い脳ほど、血に飢えている――。そう聞くと訝しく思う人もいるかもしれませんが、実はこれはれっきとした事実。『海外研究「賢い脳は “血” に飢えている」——脳血流を増やす最高の3習慣』で伝えられている通り、2016年に発表された海外研究において、人間は進化の過程で脳が約350%大きくなり、脳への血流量は600%も増えたことが明らかになったそう。人間が複雑な思考と学習をするようになるにつれ、脳に送られる血の量も、脳そのものの大きさも増加したのです。
そこから導かれた考察は、「脳が知的になるには、脳への血流量を増やし、酸素と栄養素を絶えず脳に供給し続けることが必要だ」ということ。つまり、私たちがより脳を働かせたいなら、脳血流を増やす行動を習慣にするべきなのです。
脳をフル回転させて仕事や勉強に日々励む皆さんに、日常生活の中でできる「脳血流アップ習慣」をご紹介します。
脳血流アップ習慣1:落書き
落書きと言えば、一見集中力を失っているかのように見える行動ですよね。学生時代、授業中上の空になってよくノートの片隅に落書きをしていた……なんて思い出がある方もいることでしょう。しかし、実は落書きには脳血流をアップさせる秘密が含まれているのです。
米・ドレクセル大学のギリア・カイマル氏らが2017年に発表した論文により、落書きは前頭前皮質への血流を促すことが明らかになりました。人が落書きをしているときの脳を調べたところ、落書きをしていないときに比べて、明らかに前頭前皮質への血流が活発になっていたのだそうです。前頭前皮質は前頭前野とも呼ばれ、思考や創造性を担う部位。仕事や勉強に励むうえで大事な役割を果たすところなので、ぜひ活性化したい部位のひとつと言えます。
さらにカイマル氏が落書きの前後で被験者たちに実施したアンケートによれば、被験者たちは落書き後、自らの問題解決能力や発想力が豊かになったと感じていたのだそう。落書きは他の誰かから上手・下手を評価されるものではありません。こうした自由奔放な芸術活動としての落書きには、ポジティブな感情を導く働きもあるようです。
昔はよく落書きをしていた人でも、大人になった今ではあまり落書きをしなくなっているかもしれません。ですが、落書きには脳血流をアップさせ問題解決能力までも豊かにする効果があります。仕事や勉強の合間の休憩時間には、何もしないでいるよりもぜひメモ用紙の片隅に落書きをしてみてはいかがでしょうか。
なおこの研究によると、落書きによる脳血流アップ効果は、踊る、笑う、チョコレートを食べるなどの行為と同じであったとのこと。「チョコレートを食べながら、気ままに落書きする」と、いっそう良いのかもしれませんね。
脳血流アップ習慣2:ヨガ
子どもの頃はよくした動作でも、大人になるとしなくなった動作は結構あると思います。皆さん、少し思い出してみてください。最後に鉄棒をしたのはいつでしょうか? 最後に足を頭より高くあげたのはいつでしょうか?
“Yoga as Medicine: The Yogic Prescription for Health and Healing”(2007年出版。邦訳は『メディカルヨガ―ヨガの処方箋』)の著者で、ヨガ・インストラクター、内科専門医のティモシー・マッコール氏は、体をひねったり、足を頭より上にあげたりするヨガのポーズには、脳により酸素を届ける働きがあると述べています。
人が立っている限り重力は下向きに働くので、足がむくむということは誰しも経験があるのではないでしょうか。一方、脳は常に地面から最も離れているため、血は脳に上りにくいもの。そこで、より多くの血を脳に流すには、逆立ちや寝転んで足をあげるなどといったヨガのポーズを取ることが有用だと言えます。
また、ヨガでは鼻呼吸が基本。『海外研究「賢い脳は “血” に飢えている」——脳血流を増やす最高の3習慣』で詳しく説明されているように、口呼吸よりも鼻呼吸のほうが、脳の血流量は増えます。口呼吸で大きく呼吸してしまうと、体内のガス交換能力が低下し、脳への血流量も低下してしまうのだそうですよ。
脳への血流量を増やすために、「鼻呼吸で、頭を低くするヨガのポーズ」を実践してはいかがでしょうか。
脳血流アップ習慣3:よく噛んで食べる
読者の皆さんの中には、「外から見える体型」を気にして食事制限をしている方がいらっしゃると思います。では、「自分からも外からも見えない脳」のために、食事の仕方に気を付けている方はおられるでしょうか?
脳血流を増やすには、よく噛んで食べることが大切です。歯学博士で日本歯科大学教授の志賀博氏の研究により、ガムを噛んでいる最中、脳の血流量は有意に増えることが明らかになったそう。ガムに限らず、噛むことは脳血流アップに効果があると言えるでしょう。
また、脳血流アップにより神経細胞が増えるのですから、神経細胞が増えるとされる食事をすることも脳にはよいはずですよね。キングス・カレッジ・ロンドンで神経細胞学研究のグループリーダーを務めるサンドリン・チュレ氏は、咀嚼の必要な硬いものを食べるほかに、神経細胞の発達には以下のような食事が良いと言います。
インターミッテント・ファスティング
インターミッテント・ファスティングとは、断続的な絶食のこと。やり方はいくつかあるそうなのですが、一般的なものとしては、毎日同じ時間帯に16時間断食し、残りの8時間の間でのみ食事をするという方法があります。チュレ氏は、食事の間隔を空ける習慣が神経細胞の新生に貢献すると述べています。また、10~20%のカロリー制限も良いそうですよ。
脳に好ましい栄養素の摂取
チュレ氏は、脳の神経細胞を増やす栄養素として以下のものを挙げています。
- レスベラトロール:(含む食品)赤ワイン、チョコレートなど
- オメガ3脂肪酸:(含む食品)サーモン、青魚、えごま油など
- フラボノイド:(含む食品)ダークチョコレート、ブルーベリー、大豆など
注意するべきなのが、基本的に飲酒は脳にとって良くないということ。チュレ氏によると、アルコールの摂取は神経細胞の新生に悪影響を与えるものの、赤ワインに限ってはレスベラトロールのおかげで神経細胞の生成に効くのだそう。お酒を飲むときは、ビールではなく赤ワインを選ぶようにしましょう。
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たまに自由に遊ばせて(落書き)、負荷をかけ(ヨガ)、いいご飯をあげる(栄養)と、脳は成長するようです。日常生活の中に、脳血流アップのためのちょっとした習慣を取り入れてみてください。
(参考)
エディテージ・インサイト|「落書き」が脳に効くことが最新の研究で明らかに
azcentral.com|Yoga Postures to Increase Blood Flow to the Brain
スタジオ・ヨギー|ヨガの呼吸法|代表的な6つの方法
Wikipedia|Intermittent fasting
Ted|サンドリン・チュレ 新しい脳細胞を増やす方法
わかさ生活|レスベラトロール図鑑
J-オイルミルズ|脂肪酸の種類について
健康長寿ネット|フラボノイドの種類と効果と摂取量
StudyHacker|海外研究「賢い脳は “血” に飢えている」——脳血流を増やす最高の3習慣
StudyHacker|「脳の活性化」の方法を徹底的に考えてみた。効果的な食べ物は、みんな知っている〇〇だった。
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。