いつもは「またやっちゃった」程度で済ませる “うっかりミス” でも、別の状況で同じことをすると、思いがけずおおごとになってしまう場合があります。
ミスをしないよう心がけるのはもちろんですが、“うっかりミス” を撲滅したいなら「ポカヨケ」対策が役立ちます。筆者が実践しながら説明しましょう。
ポカヨケ対策とは
「ポカヨケ」の基本概念は、当時、製造業のコンサルタントをしていた新郷重夫氏によって1960年代に構築されました。トヨタ生産方式の基本概念のひとつにも数えられており、海外では「poka-yoke」という言葉のままで通じるそうです。
ちなみに「ポカ」は“うっかりミス”のこと、「ヨケ」は除ける・回避することを指します。ポカヨケ対策の例をひとつ挙げてみましょう。
株式会社ネクスタ(製造現場向けに特化したクラウドシステムの開発・販売)によると、ポカヨケ対策は、以下2つの考え方で行なわれているとのこと。
- そもそもミスを出さない(物理的にミスが起きない)
- ミスが起こっても、その時点でミスを知らせて不良品を出さない
(引用元:株式会社ネクスタ-工場現場向けセミオーダー式パッケージシステム|工場でポカヨケのために行っている対策とは?)
人間の注意力だけに頼らず、ポカヨケ対策で「ミスを自然に回避できる仕組みを物理的につくってしまう」わけです。
ポカヨケ対策例:工場編
ほんの些細なミスが大きな品質問題につながったり、命に関わる危険があったりする製造現場では、前項で紹介した例以外にも、数多くのポカヨケ対策が実施されています。その一部を紹介しましょう。
ポカヨケ対策例:オフィス編
製造現場だけではなく、ポカヨケ対策はオフィスでも大いに役立ちます。 コンサルソーシング株式会社 代表取締役・松井 順一氏の「仕事のミスを防止する仕掛けや改善策」や、シゴトサプリ(マイナビ転職)の「60秒ビジネスハック」などを参考に、いくつか紹介しましょう。
- 共有の進捗シートをつくり、抜け落ちにすぐ気づけるようにする。
- 今必要なものだけを周囲(あるいはPCフォルダ内)に置き、ミスを防ぐ。
- ファイルの表示方法・置き位置を統一して取り違えないようにする。
- まだ作業していない、完了していない書類は定位置から動かさない。
- 机の上やPC内を整理して帰る習慣をつけ、乱雑によるミスを防ぐ。
工夫すれば、まだまだたくさんのポカヨケ対策ができそうですね。
“うっかりミス”がおおごとになった例
では、ビジネスシーンでポカヨケをしないと、どんなことが起こってしまうのでしょう?
2017年2月20日に放送されたTOKYO FM のラジオ番組「シンクロのシティ」では、ミスそのものは些細でも、大変な事態に陥ってしまった社会人のエピソードが紹介されました。
財務の仕事をする20代の女性は、支払いをする口座に必要なお金を移す際、本当は3億円入れなければいけないところを、0を1桁間違い3,000万円しか用意せず、翌日残高が足りないと大騒ぎになったそうです。
- 桁が少ないとスペースが埋まらない(一見して “おかしい” とすぐに気づける)フォーマットにするなど、何かしら工夫が必要かもしれません。
また、貿易関係の仕事をする20代の男性は、ある取引で業務の都合上、お客さんに発注を減らしてもらうよう頼んだそう。
するとお客さんが納得してくれたので、具体的な減量数を明記したメールをお客さんに送ろうとしたところ――うっかり数量調整など何も知らない仕入れ先側に送ってしまったのだとか。
当然のごとく、勝手に数量を減らされていると知った仕入れ先は大激怒してしまったそう。
- 取引先への大切なメールは文章だけを先に書いて、少し置いてからメールアドレスを入れるなどして、必然的に宛先を「冷静に確認できる送信ルール」にするといいかもしれません。
じつは筆者も大変なミスをしたことがあります。
展示会に出すベッドリネンの裏面生地を数十メートル染めてもらう際、通常であれば表地の「一見色」と合う色で染めなければいけなかったのに、柄の中の1色のみを取り出して色指定し、発注してしまったのです。
展示会用に出来上がってきた2色のベッドリネンの裏面が、真っ黄色と、真っ青だったので、わたしも思わず真っ青になりました。クライアントは怒りで真っ赤っ赤だったような。
- 「小さな糸の束」だけで染色を指示するのですから、必ず「シュミレーション画像や大きな面」でも確認せざるを得ない工程を入れておくべきでした。
あのとき、こうしておけばよかったのに……などと後悔しないよう、筆者もポカヨケ対策を講じてみます。
ポカヨケ対策用のフォーマットをつくってみる
ポカヨケ対策に決まったフォーマットは特にないので、今回は、平成18年3月 「島根県医療的ケア実施体制整備事業」運営協議会の『「ヒヤリ・ハット」活用の手引き 』に記載されている、とてもシンプルでわかりやすい「ヒヤリ・ハット事例の記録様式」を参考にします。
ヒヤリ・ハットとは、ミスや事故の発生前に気づいたことや、重大な事故に直結しかねなかった小さなミスなど、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした経験を指します。特に医療機関や航空機関、製造業などではヒヤリ・ハット事例を記録して分析し、安全推進を図っているとのことです。
このヒヤリ・ハット事例用に、「島根県医療的ケア実施体制整備事業」運営協議会が示したフォーマットの項目は「日付」「記入者」「ヒヤリ・ハットの状況」「対応・処置」「原因考察と防止策」の5つ。
これを参考にして、さらにシンプルな「ポカヨケ対策用のフォーマット」をつくりました。
項目は3つのみ。
- ミスの状況
- 原因
- ポカヨケ対策
ポカヨケ対策は、「こうしよう」と意識しなくても「物理的にそうなる・なりやすい」ものが望ましいので、工夫が必要です。そこで、“うっかりミス” はどんどん記録し、対策は思いついたら書きこむようにしました。
どうも対策がいまひとつ、あるいはまだ実施していないものは「白地」のままに、実施したものは「グリーン地」に変えていきます。
一例を挙げると、こんな感じです。
- 【ミスの状況】:いつも知らぬ間にNumLockキーとBack Spaceキーを押し間違えてしまい、妙な位置で文字入力してしまう。
- 【原因】:キーが隣り合わせなので、位置感覚だけで押すと間違えやすい。
- 【ポカヨケ対策】:NumLockキーに、自然と視界に入るよう、黄色い丸シールを貼っておく。
このまま続けてみましょう!
「ポカヨケ」対策をやってみた感想
今回やってみて一番強く感じたのは、「物理的にミスが起きない」よう対策を練り、何度かやってみることで、無理なくミスをしない習慣が身についていったことでした。
たとえば「映画レビュー公開日時のミス」については、原稿完成後に行なうオンライン入力のステップを次のように工夫し、
- 最初に公開日を入力
- 入力後にクライアントへの報告文を書く
- 下書き投稿
- クライアントへ報告
何度かその工程を経験したところ、「物理的にミスしようがない」という安心感と、緊張しなくていい快適さで、難なく習慣づいたのです。
また、おもしろいことに、「無意識でも行なえるミス防止対策」を工夫することで、むしろ同様のミスが起こりそうな状況への意識が高まりました。
つまり、「ポカヨケ」対策をやってみた結果、次の嬉しい矛盾が生じたわけです。
ぜひお試しください!
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名前はかわいいけど効果は抜群の「ポカヨケ」対策を紹介しました。対策は工夫が必要ですが、よく考えてアイデアを出し、何度か実行してみれば、あとはどんどん楽になるはずです。
(参考)
株式会社ネクスタ-工場現場向けセミオーダー式パッケージシステム|工場でポカヨケのために行っている対策とは?
シゴトサプリ(転職はマイナビ転職)|ケアレスミスを予防する「『ポカヨケ』づくり」のススメ / 60秒ビジネスハック
ライブドアニュース|大損害…「一番大きな仕事のミス」を社会人に調査
ITmedia エンタープライズ|ポカヨケ(ぽかよけ)
日経ビジネススクール|仕事のミスを防止する「しかけ」「改善」具体策
STUDY HACKER|ミスが激減する「ヒヤリ・ハット」ノートが超おすすめ。ミスしない人は必ず “記録” をつけている。
島根県|特別支援教育に関する計画等(トップ / 子育て・教育 / 教育・学習 / 特別支援教育 / 特別支援教育に関する計画等)|「ヒヤリ・ハット」活用の手引き-確かな安全・安心のもと、教育活動を展開していくために-平成18年3月「島根県医療的ケア実施体制整備事業」運営協議会
Wikipedia|ポカヨケ
Wikipedia|新郷重夫
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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