会議でよく見られる問題に、参加者がなかなか発言してくれず議論が盛り上がらないというものがあります。そういった会議になってしまう原因はどこにあり、ファシリテーターの立場としてどのような対策ができるでしょうか。
自身が運営する「ファシリテーション塾」の塾長を務める中島崇学さんにアドバイスをもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
中島崇学(なかじま・たかあき)
東京都出身。株式会社共創アカデミー代表取締役。ファリシテーション塾塾長。NPOはたらく場研究所代表理事。慶應義塾大学卒業後、NECに入社。人事、広報、組織改革など社内外のコミュニケーション畑を歩む。特に組織改革では、社内ビジョン浸透のための「3000人の対話集会」の企画実施をはじめ、全社規模での組織開発プログラムを実施。NEC在籍中より会社、家庭以外の「第3の居場所」の必要性を感じ、社外の仲間と活動開始。そのコミュニティーが反響を呼び、NPO法人はたらく場研究所を設立。組織開発をテーマに横断型勉強会を運営する。社内外の活動の循環が軌道に乗り、2019年に独立。ライブ型ファリシテーションスタイルの研修が好評を博し、上場企業から官庁、自治体まで活動の幅を広げる。現在は株式会社共創アカデミーを設立し、研修のみならず、組織を越えて活躍できるリーダーを育成するためにファシリテーション・リーダーシッププログラムを提供。また、講師を育成し活躍の場を提供している。米国CTI認定CPCC、米国CCEInc.認定GCDF。
会議が盛り上がらない原因は、心理的安全性の欠如
参加者たちが沈黙してしまう会議にある問題点は明白で、それは心理的安全性の欠如にあります。シンプルに言うと、参加者に「不安がある」のです。
では、なぜ参加者は不安をもっているのでしょうか? 原因はふたつあり、ひとつは「見たいものが見えない」ことにあります。つまり、その会議におけるゴールが見えない、どこまで正直な意見を言っていいのか見えない、ファシリテーターがなにを求めているのか見えないなど、見えないことが多ければ多いほど人は不安を感じます。
参加者の不安を引き起こしているもうひとつの原因は、「孤独感」です。人間は集団で生活する生き物ですから、本能的に孤独を恐れます。「自分だけまわりと違うことを考えているのではないか」といった心理が、孤独感、ひいては不安を生んで発言を抑制してしまうのです。
これがわかれば、活発に意見が飛び出す会議にする方法が見えてきます。すなわち、見えないものを見える化し、孤独感を払拭して参加者の不安を消してあげればいいのです。
オープニングで「ゴールとルール」を明確に伝える
そうするための具体的な方法としては、まずはオープニングの段階で「ゴールとルール」を明確に伝えることです。そうすれば、見えないものを見える化できます。
会議時間が1時間だとしたら、「1時間後にこういう状態になっているのを目指します」という、その会議で決めるべきことなどゴールを明確に示します。そうして、ゴールイメージを全員で共有するのです。
同時にルールも伝えます。私がよく使う言葉は、「この会議では、間違っている人はひとりもいません」「違いがあるだけで間違いはないので、どんどん意見を出し合いましょう」といったものです。
あるいは、「すべての意見に価値があります」「全員の話を傾聴して尊重しましょう」といった言葉もよく使います。そういったルールを共有できていれば、参加者が周囲に遠慮して自分の意見を飲み込むようなことは大きく減るでしょう。
人間とはおもしろいもので、ルールがあったほうが伸び伸びとやれるのです。逆に、「ルールはありませんから、自由にやってください」と言われると、どうしていいのかわからなくなるから不思議です。「これはやってはいけない」というルールがあると「やってもいい範囲」もわかり、そのなかで伸び伸びと発言できるのです。
さまざまな効果を期待できる「チェックイン」
不安のもうひとつの原因である孤独感は、参加者全員に「チェックイン」をやってもらうことで払拭します。チェックインも、会議のオープニングで行ないます。自己紹介というほどのものではない軽いものですが、いまの気持ちやその会議に対する期待などについて簡単に発言してもらうのがチェックインです。
複数の人間が参加していれば、自分と似たような気持ちをもっている人がほかにもいるもの。緊張気味の人が、ほかの参加者の「ちょっと緊張しています」という言葉を聞けば、「自分と同じだ」と思い、孤独感が和らぎます。ほかの人と自分のあいだに共通点を見いだすからです。あるいは、参加者の人たちが自分の発言を聞いてうなずいてくれるだけも、「受け止めてもらえた」と安心感を得られます。
そして、チェックインには会議に対する集中力を高める効果もあります。会議に入る瞬間は、誰もがその直前までやっていた仕事をどこかで引きずっています。「あの仕事、このあとどうしようか……」などと考えていれば会議に集中できず、結果として発言も減ってしまいます。でも、チェックインをすることで、「いまはここに集中しなければ」と、意識が会議に向かうのです。
加えて言うと、このチェックインは、オンラインミーティングでも力を発揮してくれます。オンラインミーティングで発言が減りがちな理由のひとつは、自分がどのタイミングで話せばいいのかが対面の場合と比べて見えづらく、つい遠慮してしまうことにあります。ですから、オープニングの段階で全員に話してもらうことで、会議で話すためのいわば準備運動をしてもらうのです。
対面でひとつの場所に全員が集まっているわけではありませんから、先にお伝えしたいまの気持ちなどに加えて、どこからどんな状態でアクセスしているのかも話してもらうといいでしょう。それが雑談のきっかけとなり、その後の発言を促してくれます。「自宅のリビングで膝には飼い猫が乗っています」なんてことを言う人がいたら、場が和んで意見もどんどん出てくるようになるのではないでしょうか(笑)。
【中島崇学さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「一流のファシリテーター」3つの特徴。大切なのは議論をリードできるかではなく○○できるか
参加者が「出てよかった」と感じる会議で、ファシリテーターが大事にしている3つのこと
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。