ビジネス書を「なるほど」で終わらせない|3つの“ツッコミの型”で手に入れる『仕事のための読書術』

開かれた本

「本は批判的に読みましょう」「著者と対話しながら読むことが大切です」

そう聞いて、あなたはため息をつきませんか?

たしかにそのとおりなんです。でも、「どう」批判的に読めばいいのか。「何を」著者に問いかければいいのか。そこが見えないまま、また新しいビジネス書を手に取ってしまう。

本は毎月コンスタントに読んでいます。「なるほど」と思いながら読んでもいます。でも、1週間後に同僚から「どんな本だった?」と聞かれても、なんとなくの印象しか答えられない。もっと言えば、その内容を今の仕事にどう活かせているのか、と問われると答えに窮してしまう。

「批判的に読め」は正しい。「著者と対話しろ」もわかる。でも、実際どうすれば……。

じつは、効果的な「批判的読書」には、具体的な方法があります。本の内容を深く理解し、実践に結びつけるための「問いかけ方」には、いくつかの重要なパターンが存在するのです。

この記事では、読書家たちの知見をもとに、誰でも実践できる具体的な読書法をご紹介します。あなたに合った「問いかけ方」が、きっと見つかるはずです。

そもそも、本を「批判的に読む」ってどういうこと?

「批判的に読む」「著者と対話する」

この言葉の本質は何でしょうか。『「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術』(日本実業出版社, 2020)の著者で青山学院大学法学部教授の木山泰嗣氏は、読書の本質を「著者との対話」だと説きます。*1

著者との対話とはどういうことか、以下のように整理できそうです。

  • 「『なぜ(Why)?』を常に考えながら読む」
  • 「仮説を立てて」読む
  • 「著者にどんどん突っ込みを入れながら、批判的に読む」そう、要は「ツッコミ」なんです。

お笑いの世界では、ボケに対するツッコミにも様々な型があります。定番の「なんでやねん」から、「お前は○○か!」という例えツッコミ型、「どういうことやねん」という論理突き型まで。経験を重ねた芸人さんたちは、その場に応じて最適なツッコミを選び取ります。

じつは、本を読むときの「ツッコミ」にも同じことが言えるのです。木山氏が提案する「なぜ?」という問いかけ、「仮説を立てる」という思考実験、そして「突っ込みを入れる」という批判的視点。これらは、著者の主張により深く関わるための具体的な方法なのです。

ビジネス書を読むとき、私たちは著者の主張に出会います。その主張に対して、ただ「なるほど」と受け入れるのではなく、さまざまな角度から「ツッコミ」を入れる。そうすることで、内容は深く理解され、実践への道筋が見えてきます。

では、具体的にどんなツッコミが効果的なのか。それは次の章で、じっくりとご紹介していきましょう。

ビジネスパーソンが読む本から情報が飛び出てきているリアルなイラスト

ツッコミ読みの技術|「なるほど」を「できる」に変える3つの型

効果的な読書のための「ツッコミ」には、大きく分けて3つの型があります。それぞれの型には特徴があり、本の内容や自分の目的に応じて使い分けることで、読書の効果を最大化できます。

1. 検証型ツッコミ|「本当にそうなの?」

著者の主張や論理展開に対して、その妥当性を確認するツッコミです。

「その結論に至る根拠は十分か」
「データの取り方に偏りはないか」
「例外的なケースはないのか」

たとえば、「成功企業の90%がこの方法を採用している」という主張に対して、「でも、この方法を採用して失敗した企業もあるはずでは?」と問いかけます。

このツッコミを入れることで、著者の主張をより正確に理解し、適用すべき条件や留意点が見えてきます。

2. 応用型ツッコミ|「自分の場合は?」

著者の主張を自分の状況に当てはめて考えるツッコミです。

「うちの会社でこれをやろうとしたら?」
「自分のチームではどう活用できる?」
「どんな障害が予想されるだろう?」

たとえば、「朝一番の30分でタスクの優先順位をつける」という筆者の意見に対して、「これなら新人の〇〇さんにもすすめられそうだ。まずは週1回からスタートするのはどうだろう」と具体的な活用シーンを考えます。

このツッコミを通じて、理論を実践に落とし込む際の具体的なイメージが生まれ、すぐに行動に移せるヒントが見えてきます

3. 発展型ツッコミ|「それって、つまり……?」

著者の主張を一歩先に進めて、新しい可能性を探るツッコミです。

「この考え方を別の領域に応用したら?」
「これが進化すると、次は何が起きる?」
「もっと違う切り口はないか?」

たとえば、「顧客の行動データを分析して施策を打つ」という提案に対して、「それなら社内の従業員の行動分析にも使えるんじゃないか」と発想を広げます。

このツッコミにより、本の内容を超えた新しいアイデアが生まれ、創造的な実践につながります。

実践編|ベストセラーにツッコミを入れてみた

理論だけでは分かりにくいですよね。ここでは、実際の本でツッコミ読みを実践してみましょう。

例として、世界的ベストセラー『アトミック・ハビット』(ジェームズ・クリアー著)を取り上げます。この本は発行部数が世界累計1500万部を超える、今最も注目されているビジネス書の一つです。「習慣」「意思決定」「継続的改善」の専門家であるクリアー氏が、習慣の設定から習慣化するための仕組み作りまで体系的に解説しています。*2

特に印象的なのが「習慣を1%ずつ改善し続けることで、1年後には37倍もの改善が見込める」という主張です。多くのビジネスパーソンが実践している「小さな改善の積み重ね」の効果を、数値で示した部分ですね。

この主張に対して、3つのツッコミを入れてみましょう。

『アトミック・ハビット』でツッコミ読みを実践してみよう
▼ 検証型ツッコミ(本当に?)ーー著者の主張の妥当性を確認するツッコミ
  • 「なぜ1%なのか? もっと大きな改善は必要ないのか」
  • 「37倍という数字は、理論上の計算か、それとも実例に基づくものか」
  • 「改善の余地が少ない分野でも、同じように1%の改善が可能なのか」
▼ 応用型ツッコミ(自分にあてはめたら?)ーー自分の状況に当てはめて考えるツッコミ
  • 「営業の成約率を1%上げるなら、まず商談後のヒアリングノートの見直しから始められそうだ」
  • 「チームの月次レポートの質を1%上げるには、テンプレートの改善から着手できるかも」
  • 「毎日の始業時に5分早く来て準備するだけでも、1%の改善になりそうだ」
▼ 発展型ツッコミ(それってつまり?)ーー著者の主張を一歩先に進めて考えるツッコミ
  • 「この1%改善の考え方は、個人の習慣だけでなく、組織の改革にも使えるのでは?」
  • 「逆に、悪習慣も少しずつ積み重なって大きな問題になるということか」
  • 「では、複数の1%改善を同時に進めたら、相乗効果は期待できるだろうか」

「ツッコミ」を使って、ただの知識を「実践知」に変える

3つの型のツッコミ、どうでしょうか。ちょっと試す価値がありそうなのでは……?

ただ、3つもあると最初は大変です。具体的にどう始めればいいのか、ツッコミ読みの「始め方」をご紹介しましょう。

まず、最初から3つの型を完璧に使いこなそうとする必要はありません。「応用型ツッコミ」から始めることをおすすめします。自分の状況に当てはめやすく、具体的なアクションにつながりやすいためです。日々の仕事や生活の中で「これ、自分だったらどうできるかな」と考えるところから始めましょう。

効果を高めるために重要なのが、メモを取る習慣です。ツッコミを入れたい箇所には付箋やマーカーを。思いついたツッコミはその場でメモする。これらのメモは、あとで見返したときに新たな気づきを与えてくれることがあります。

さらに、定期的な振り返りも大切です。1週間後にツッコミの内容を見直し、実践できているかをチェックしましょう。これで、知識が使えるものになり「実践知」=「使える知識」になります。さらにその過程で、また新たな気づきが生まれることも少なくありません。

このように段階的に実践することで、ビジネス書の読書がより深い学びと具体的な行動に結びついていくはずです。明日からの読書を、より実り多いものにしていきましょう。

書店で本をパラパラとめくり「しっかり読む本」を見極める女性

まとめ|明日から始めるツッコミ読み

ここまで「ツッコミ読み」という読書法をご紹介してきました。
「批判的に読め」「著者と対話しろ」。よく聞く助言ですが、具体的な方法がわからなければ実践は難しいものです。そこで効果を発揮するのが、3つの型のツッコミ。

  • 「本当にそうなの?」と問いかける検証型
  • 「自分の場合は?」と考える応用型
  • 「それってつまり?」と発展させる発展型

これらを使い分けることで、本の内容は「なるほど」で終わらない「使える知識」となります。

そのなかでもまずは「応用型」を意識して、「自分だったら、これどう使える?」 とひとつツッコミを入れてみてください。

その小さな一歩が、あなたの読書をより実り多いものに変えてくれるはずです。

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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