1万時間の法則とは? 努力を続けるのに本当に必要なこと

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「1万時間の法則」とは、ある分野でスキルを磨いて一流として成功するには、1万時間もの練習・努力・学習が必要だというもの。エリクソン教授らの研究をもとに、マルコム・グラッドウェル氏が提唱しました。

「天才は1%のひらめきと99%の努力でできている」という言葉もあるように、努力の大切さは誰もが知っています。しかし、それにしても、本当に1万時間も必要なのでしょうか? 今回は、1万時間の法則について検証します。

1万時間の法則とは

1万時間の法則という言葉は、英国生まれの元新聞記者、マルコム・グラッドウェル氏の著書『天才! 成功する人々の法則』(講談社、2009年)(原題:Outliers: The Story of Success)によって広められました。グラッドウェル氏は、著書において以下のように主張しています。

Ten thousand hours is the magic number of greatness.
(訳:1万時間とは、偉大さを示すマジックナンバーなのだ。)

(引用元:Malcolm Gladwell (2008), Outliers: The Story of Success, New York, Little, Brown & Co.)

グラッドウェル氏は、ある調査において「エリート演奏家は20歳までに合計で1万時間の練習を積み重ねた」という結果が出たと述べ、大きな成功を収めるには1万時間もの練習が必要だという「1万時間の法則(ten-thousand-hour rule)」の存在を指摘しました。モーツァルトやビル・ゲイツ氏をはじめとした成功者には、大成するまで1万時間の下積み期間があったというのです。

1万時間が何日に相当するかというと、平日と休日を合わせた1日の平均練習時間を3時間と仮定して計算すれば、10000÷3=3333.333…で、およそ10年間。膨大な時間ですね。

グラッドウェル氏が言及した調査とは、心理学者のアンダース・エリクソン教授(フロリダ州立大学)らが1993年に発表したものです。ドイツで実施されたエリクソン教授らの調査では、被験者として以下のグループが用意されました。

  1. 音楽アカデミーでバイオリンを専攻しており、ソリストとして国際的に活躍する力があるとみなされた学生
  2. 1.を除くバイオリン専攻の学生
  3. 音楽教育学部でバイオリンを専攻する学生
  4. 交響楽団のバイオリン奏者

そして、4つのグループが日々の時間をどのような活動に使っているか聴き取りをしたところ、演奏技術の向上に最も重要だとされる「1人での練習」時間の平均は、グループ1と2で変わらず、1日あたり3.5時間だった一方、グループ3は1.3時間だったそう。学部が異なればカリキュラムも異なるので、グループ1・2と3のあいだに練習時間の差が出るのは当然といえるでしょう。

では、グループ1と2の違いは何なのでしょう? それは、調査時点より前の練習時間の総量です。バイオリンを始めてからの練習時間について聴き取りをしたところ、18歳時点までの総練習時間(推計)は以下のとおりでした。

グループ1:7,410時間
グループ2:5,301時間
グループ3:3,420時間
グループ4:7,336時間

つまり、より実力があるとみなされている人ほど、練習時間を多く積み重ねてきたわけですね。そして、グループ1と4の総練習時間は、20歳時点で1万時間を超えます。

エリクソン教授らの論文において、卓越した技術の修得は「10年以上に渡る1万時間以上もの計画的練習(deliberate practice)」の成果であると指摘されました。グラッドウェル氏はこの点に着目し、著書で「1万時間の法則」を強調したのですね。

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1万時間の法則は「嘘」?

1万時間の法則という言葉はグラッドウェル氏の影響で広く知られるようになり、「1万時間頑張ろう」と人々の心を動かした一方で、数々の反論も寄せられました。1万時間の法則は「嘘」だとして批判する動きもあります。

練習量が全てではない

1万時間の法則に対する反論として、しばしば聞かれるのは、「練習量が全てではない」というもの。つまり、個人の努力のほか、持って生まれた才能や環境も、成功の可否に影響しているという主張です。

認知心理学を専門とするブルック・マクナマラ准教授(米ケース・ウェスタン・リザーブ大学)は、1万時間の法則は問題を「単純化しすぎている(it’s an oversimplification)」と指摘しました。技能の発達には、環境要因や遺伝的要因などが複雑に影響しているというのです。

マクナマラ准教授の指摘に対し、エリクソン教授と共著で1993年の論文を発表したラルフ・クランプ教授(ルーヴァン・カトリック大学)は「練習時間だけが全てを決めるとは思っていない」と返しています。特定の技能に熟練するには、練習の質や教師・親のサポートも重要だけれど、継続的な練習こそが最も重要である、という意見です。

1万時間も要らない

1万時間の法則に対しては「1万時間も必要ない」という反対意見もよく見られます。効率よく学べば、もっと短い時間で熟達できるという主旨です。

上記のような反論の背景には、1万時間の法則に対する理解の相違が挙げられます。つまり、1万時間の法則を「何かに熟達するには1万時間の練習が必要である」「1万時間練習しないと技能を身につけることはできない」という意味で解釈している人が少なくないのです。日本でも、『10年後、君に仕事はあるのか?』などの著者である藤原和博氏が、グラッドウェル氏を引き合いに出しつつ「1つの仕事をマスターするのに、人間は一般的に1万時間かかる」と述べています。

しかし、グラッドウェル氏が1万時間の法則を主張する際に挙げている例は、世界的・歴史的なスポーツ選手や音楽家ばかり。特定の分野で世界レベルに達するには膨大な練習・努力が必要だと述べているに過ぎません。1万時間の法則が誤解されていった過程を、『たいていのことは20時間で習得できる』(日経BP、2014年)(原題:The First 20 Hours: How to Learn Anything)などの人気ビジネス書を著したジョシュ・カウフマン氏は、「伝言ゲーム」に例えています。

So this message, it takes 10,000 hours to reach the top of an ultra competitive field, became, it takes 10,000 hours to become an expert at something, which became, it takes 10,000 hours to become good at something, which became, it takes 10,000 hours to learn something.
(訳:「極めて競争の激しい分野のトップになるには1万時間かかる」という主張は、「何かのエキスパートになるには1万時間かかる」になり、「何かが上達するには1万時間かかる」になり、「何かを学ぶには1万時間かかる」になったのです。)

(引用元:YouTube|最初の20時間 — あらゆることをサクッと学ぶ方法 | ジョシュ・カウフマン | TEDxCSU

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努力を続ける方法

1万時間の法則がどのようなものか、おわかりいただけたでしょうか。つまり、「世界のトップに立ちたいなら、おおむね1万時間に匹敵する長期間の努力が必要だ」ということ。大きな成功を収めるには、努力だけでなく運や環境も必要とはいえ、環境が整えられていても努力を全くしなければ成功するはずがないということは、皆さんご存知のはずです。

あなたが「一流のコンサルタントになりたい」「英語をペラペラ話せるようになりたい」「ブロガーとして生計を立てられるようになりたい」「ピアノを弾けるようになりたい」「サッカー選手になりたい」「絵がうまくなりたい」などの向上心を持っているとして、目標に到達するのに必ずしも1万時間費やす必要はありません。しかし、継続的な努力が必要なのは同じです。では、どうやったら地道な努力を続けられるのでしょうか?

努力の対象を「好き」になる

仕事で役立つ特定の技能を向上させたり目的を達成したりするには、日々の練習や勉強、情報収集が欠かせません。けれど、毎日努力することを「面倒だなあ」「こんなことやりたくないのに、つらい……」と感じていませんか?

おっくうな気持ちになってしまうのは、夢を叶えるのに必要な「経営学の勉強」「ブログ記事の執筆」「ピアノの練習」などの行為を退屈だと感じているから。ブログを書くのが楽しくて仕方なかったり、ピアノが大好きだったりすれば、日々の努力が苦痛にはならないはずです。

米国の専門誌で「トップ・コンサルタント25人」に選出されたこともある、早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成氏は、以下のように話しています。

地道な努力は面倒なものです。でも、努力の面倒さを感じない、努力を努力とも思わないということもあるでしょう。先にお伝えした「趣味」などは、その最たるものでしょう。好きなものを追求することが苦であるはずがありません

(引用元:StudyHacker|一流シェフが “道端の雑草” をみて新メニューを思いつくカラクリ。「発想のスパーク」はどうすれば生まれるのか? ※太字による強調は編集部が施した)

自分で選んだことなのに、努力を面倒だと感じてしまうのであれば、「自分は努力しているんだ」「毎日やらないといけないんだ」と強く思い込むのはやめにしましょう。かわりに、「経営学って、学べば学ぶほどおもしろくなるなあ」「今日もピアノを練習できる! 楽しみだなあ」と考えるようにしてください。毎日の練習を「義務」ではなく「趣味」「好きでやっていること」だととらえれば、苦にはならないはずです。

努力を「習慣化」する

日々の努力が習慣になれば、以降は「今日もやらなくちゃ……」と重い腰を上げるまでもなく自然に取りかかれるようになります。皆さんにも、「帰宅したら靴をそろえる」「朝起きたら体重を計る」など、すでに習慣化している行動があるのではないでしょうか?

いったん習慣化すれば、毎日の運動や勉強を当たり前にこなせるようになります。むしろ、やらないと気持ち悪さを感じるくらいです。

とはいえ、習慣として定着するまでどのように努力を継続するかが問題ですよね。そこで「習慣化コンサルタント」の古川武士氏が提案するのが、「快感の感情」にフォーカスすること。

運動、早起き、日記、片づけなど「良いと思う習慣」が続かない理由は、スタート当初の苦痛が大きいからです。しかし、一定以上続けると感情の苦痛が軽減し、続けることでの快感が増してきます。そうなってしまえば、こっちのもの。快感を得る方法をそのつど考えて行なっていけば、良い習慣を続けることは可能なのです。

(引用元:StudyHacker|「良い習慣」を長く続けられない人が知らない大切なこと。 ※太字による強調は編集部が施した)

いきなり趣味の時間を削り、勉強や練習を頑張ろうと意気込みすぎると、「本当はゲームで遊びたいのになあ」「せっかくの休日だし、友だちを誘って出かけたい……」と、つらくなってしまいます。まずは簡単で楽しいことから始めてみませんか?

たとえば、経営についてわかりやすく解説した動画を眺めてみる、人気ブロガーの投稿を読んでみる、程度のことでかまいません。「どうすれば楽しく継続できるか」を考え、いろいろな方法を試し、自分に合ったやり方を見つけてみましょう。

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1万時間の法則について解説したうえで、少しずつでも努力を続ける方法を紹介しました。皆さんもぜひ、数十時間、数百時間と練習を重ねていってください。1万時間に至らなくとも成果は現れますよ。

(参考)
StudyHacker|一流シェフが “道端の雑草” をみて新メニューを思いつくカラクリ。「発想のスパーク」はどうすれば生まれるのか?
StudyHacker|「良い習慣」を長く続けられない人が知らない大切なこと。
Malcolm Gladwell (2008), Outliers: The Story of Success, New York, Little, Brown & Co.
Ericsson, Anders K., Ralf Th. Krampe, and Clemens Tesch-Romer (1993), “The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance”, Psychological Review, Vol. 100, No. 3, pp. 363-406.
The Guardian|Blow to 10,000-hour rule as study finds practice doesn't always make perfect
YouTube|最初の20時間 — あらゆることをサクッと学ぶ方法 | ジョシュ・カウフマン | TEDxCSU
ダイヤモンド・オンライン|藤原和博流「100万人に1人」の存在になる方法

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