「業務を振り返る習慣は大切」。上司や周囲から言われても、具体的なメリットがわからず習慣化できない人もいるのではないでしょうか。しかし、研究例や専門家によれば、振り返りの習慣をつけることは、マインドやパフォーマンスの向上に効果大なのだとか。
今回の記事では、振り返り習慣のメリットと、振り返りがしやすくなる「YWT」のフレームワークをご紹介。筆者もYWTでの振り返りを実践し、大きな発見がありましたよ。
振り返りを習慣にすることのメリット
そもそも、振り返り習慣には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ハーバード・ビジネス・スクールがコールセンターで実施した研究(2014)によると、1日15分の振り返りをした従業員は、何もしなかった従業員と比較して、10日後のパフォーマンスが23%も優れていたとのこと。(Harvard Business Review|Why You Should Make Time for Self-Reflection (Even If You Hate Doing It) より)
研究者らは、振り返りには「目標達成能力に自信をもてる(=自己効力感)」メリットがあると考察しています。(HBS Working Knowledge |Learning By Thinking: How Reflection Improves Performance より)
「振り返る→改善する」というステップにより、パフォーマンスが向上するだけでなく、「この案件を達成できる!」という自信もつくのですね。
グロービス経営大学院教員の村尾佳子氏は、マインド面での変化に着目しています。村尾氏によれば、振り返りの習慣があると、「客観的に自分をみる」ことができ、「自身の感情や行動をコントロールしていくことの意識が強まる」のだそう。(カギカッコ内引用元:GLOBIS CAREER NOTE|リフレクション(内省)とは?人材育成で注目される理由と実践方法)
加えて、振り返り(リフレクション)の専門家で昭和女子大学キャリアカレッジ学院長の熊平美香氏は、振り返りをする際に「自分の感情を俯瞰的に認知し、言語化すること」のメリットについて、こう語っています。
物事に対して、自分がどんな思いを抱いているのか。うれしいのか、残念なのか。そうやって、あえて感情を言葉にすることで、どうしてその気持ちが生じたのか、背景が見えてきます。
例えば、「どうしてこの時に緊張してしまったのか」。それを言葉にして理解することで、次に緊張しそうなシーンを予測できるようになるんですよ。
(引用元:WORK MILL|ちょうど良く振り返るには? 個人やチームの成長を促す「リフレクション(内省)」のコツ)
例として、新規のクライアントを前に緊張してしまったことを振り返るとしましょう。そのときの感情を「初対面だと挨拶以外の言葉が思い浮かばず、不安になる」と言語化すると、「緊張したのは、初対面の相手と話したからだ」とわかりますよね。
すると、「次に初対面の人に会う場合には、事前に雑談のパターンを用意しよう」と対策を立てられます。その結果、行動・感情の両方をコントロールしやすくなるわけです。
ちゃんと振り返りができないのはなぜ?
上で説明したように、振り返りは、業務の改良のみならず、コントロール力・自己効力感の向上など、マインド面の成長にも役立ちます。ただ、そう理解していても、振り返りの習慣をどうしてもつけられない人もいるはず。それにはどのような問題が考えられるのでしょうか。
1. 反省になっている
「振り返り」をするつもりが、自分を責める「反省」になると、振り返りそのものに苦手意識をもちやすくなるようです。
前出の熊平氏は、反省と振り返り(リフレクション)の違いについてこう述べています。
反省は、自分の良くない点を思い返して「申し訳ない」「自分のせいで」と責めたり追及したりするので、ネガティブな感情に振り回されてしまいがちですよね。それだと、学びの機会にはつながらないと思うんです。
リフレクションの場合、過去の経験をもとにするのは同じですが、「成功も失敗も全ての経験に価値がある」という考え方をします。
(引用元:同上)
たとえば、「上司の指示を聞き洩らした」という事実に対し、「上司の指示を聞き洩らすなんて無能だ」と責めるのが反省。一方、「指示の聞き洩れがあるから、必ずメモを用意しよう」と建設的に考えるのがリフレクションです。
もしあなたに自責癖があるのなら、事実と感情を切り離して言語化するようにしてみましょう。
2. 振り返りの頻度が適切でない
日々やるべきことが詰まっているにもかかわらず、「毎日やる」などスケジュールに合わない振り返りをしようとする人は、振り返りの習慣をつけられない可能性があります。
習慣化コンサルタントの古川武士氏いわく「『ベビーステップ』こそが、行動や継続の神髄」。「これならできる! 」と思えるような小さなことから始めるのが大切なのだそうです。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|「勉強や運動」が続かない人が陥りがちな勘違い)
「毎日継続しないと」と考える完璧主義思考は、挫折のもととなります。“これくらいの間隔なら続けられる” と思える、自分のスケジュールに合った振り返りをしてはいかがでしょう。
3. あいまいな目標で振り返りをしている
「仕事の質を高める!」のように目標が漠然としていると、振り返りがしづらくなる可能性が。目標は具体的に設定しておくことも、振り返りを継続させるポイントです。
コーナーストーンオンデマンドのマーケティングシニアディレクターだった小谷敦子氏は、具体的な目標を立てるには、以下5項目の頭文字をとった「SMARTゴール」というフレームワークが参考になるとしています。
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(実現可能)
- Relevant(適切に最終目標に沿っている)
- Time-bound (期限が定められている)
(上記項目は、東洋経済オンライン|仕事時間を減らした人の「振り返り」という習慣 より引用)
小谷氏は、具体的な目標を定めれば「目標を達成したかどうか、明確に振り返る」ことができる、と述べています。振り返りをしやすくするためにも、自分の伸び具合を確かめるためにも、「SMART」で具体的に目標を設定してみましょう。
振り返りにおすすめのフレームワーク「YWT」とは
振り返りの習慣がつかない理由がわかったところで、ここからは、より振り返りがしやすくなる方法をご紹介しましょう。「YWT」というフレームワークです。
YWTとは、日本能率協会コンサルティングが考案した振り返りの手法。以下3つのプロセスの頭文字をとっています。
- Y=「やったこと」
- W=「わかったこと」
- T=「次にやること」
こちらが一般的なフォーマットです。紙を三分割して各内容を書き出します。
(ここまでのYWTの説明参考:JMAC|YWT(やったこと・わかったこと・次にやること))
振り返りの専門家、森一樹氏は、同じく振り返りに使われるフレームワークのKPT(※)と比較しながら、YWTの利点について解説しています。
(※KPT……Keep(よかったこと)、Problem(問題)、Try(トライすること)の3項目で振り返る手法)
森氏によれば、KPTでは「Problemを解消すること」に焦点を向けやすいのに対し、YWTは「わかったこと」を見る過程があるため、「プラス面での気づきに思考を向かせやすい」のだとか。そのため、「学びを次に活かす」という「学習志向」になるのが、YWTの特性なのだそう。
(カギカッコ内引用元:Qiita|KPTとYWTの違いは?~KPTがうまくいかない理由と、YWTの特性を考える)
YWTなら、反省モードを避け、肯定的に振り返りができるわけです。自分を責めがちで振り返りが苦手な人に適していると言えそうですね。
「YWT」で仕事を振り返ってみた。これなら続きそう!
これまで振り返りの習慣がなかった筆者も、今回3週間にわたりYWTで仕事の振り返りをしてみました。業務の効率化を図るのが狙いです。筆者が設けたルールは以下のとおり。
- 週の終わりに振り返る
- 週の始めに目標を設定する
- 「Y(やったこと)」のスペースに、そのときの感情も書いてみる
第一週の始めに掲げた目標は「記事Aの実践着手と記事Bの執筆7割完了」です。進捗具合がわかるように数字を使い、ハードルの高すぎない設定にしました。一週めを終えた時点での振り返りはこちらです。
感情も書き出せるよう、Yのスペースは広く設けています。一週めの振り返りで、それまであいまいにしていた問題を直視。感情とセットで振り返ると、仕事の効率を下げる要因は「考えすぎ」や「私生活の不安」による疲れだと気がつきました。
第二週、第三週が終わったあとの振り返りは以下のとおりです。
実践した効果「問題への適切なアプローチが見つかる」
YWTのフレームワークを使うと、「自分はなんて仕事が遅いんだろう……」という自己否定感に陥ることはありませんでした。YWTの手順で、個々の問題を冷静に整理して考えられたからだと思います。
また、紙に書いたのもよかったのだと思います。精神科医の樺沢紫苑氏によれば、書くと「頭の中の漠然とした考えが整理され(中略)打開策にも自分で気づける」とのこと。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|仕事に価値を見出せない人に共通する三大悪習慣)その効果はたしかに感じられました。
というのも、午後になると疲労感が高まり集中力が低下し、仕事の能率も下がる――という悪循環にはまっていた筆者。このことについて紙に書きながら冷静に振り返ってみたところ、その疲労の原因は、“不安を抱えあれこれ考えすぎること” だと判明しました。そこで、始業前に「不安を書き出す」という対処法を試してみたところ、疲労感が改善され、以前より集中力が続くようになったのです。
振り返りの習慣を通じて疲労感が解消されたことは驚きでした。YWTのフレームワークを使ったことで、問題への適切なアプローチに気づきやすくなったのだと考えています。
注意すべき点「振り返りのタイミング」
一方で、振り返りをするタイミングも大切だと感じました。じつは筆者は当初、夜に振り返りをしようと試みたものの、夜はプライベートの時間になり、仕事のことと向き合うには適しませんでした。
ですので、仕事のことを振り返るなら、くつろいでしまう前の「仕事終わりにすぐ振り返る」ことを推奨します。カフェに寄る、通勤時間にデジタルツールで振り返る、などもひとつの手かもしれません。
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業務を定期的に振り返れば、仕事の困難を乗り越える工夫が思い浮かびます。そのプロセスが、自信および、働くことの喜びにつながるはずですよ。
(参考)
JMAC|YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)
HBS Working Knowledge |Learning By Thinking: How Reflection Improves Performance
Harvard Business Review|Why You Should Make Time for Self-Reflection (Even If You Hate Doing It)
東洋経済オンライン|仕事時間を減らした人の「振り返り」という習慣
GLOBIS CAREER NOTE|リフレクション(内省)とは?人材育成で注目される理由と実践方法
WORK MILL|ちょうど良く振り返るには? 個人やチームの成長を促す「リフレクション(内省)」のコツ
東洋経済オンライン|「勉強や運動」が続かない人が陥りがちな勘違い
Qiita|KPTとYWTの違いは?~KPTがうまくいかない理由と、YWTの特性を考える
東洋経済オンライン|仕事に価値を見出せない人に共通する三大悪習慣
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。