私たちは様々な場面で目標を立てます。新年のような節目や新しく何かに挑戦するときには、目標を立てるという方がほとんどでしょう。
しかしそれと同時に、多くの方が「目標を立てるがなかなか達成できない」「目標に向けた頑張りが続かない」といった悩みを持っていますよね。
決意を新たに目標を立てても、目標の実現に向けた取り組み自体が続かなかったり、モチベーションが維持できなかったりして、目標を達成するのはなかなか大変なもの。忘れないために目標を書いた紙を壁に貼っても、毎日目にしている間にどんどん慣れてほとんど意識しなくなってしまった……などといったことを経験した方も多いのではないでしょうか。
自分が目標を達成できないのは、意志が弱いからだ……。そう考える方もいるかもしれませんが、実は目標をなかなか達成できないのには脳科学的な原因があります。それを取り除くことができれば、目標達成のモチベーションを強固に維持できる人になれるのです。
どうして目標に向けたモチベーションが維持できないのか?
目標を立てても達成できない、頑張り続けることができずどうしても怠けてしまう……。そういう事実に突き当たったとき、自分は努力の才能がないのではないかと思ってしまうかもしれません。しかし実は、人間は皆等しく、怠けることに傾きがちな脳の構造を持っています。目標を達成できない原因を知るために、まずは脳について理解しましょう。
脳には「大脳辺縁系」という部分があります。別名「古い脳」とも呼ばれるほど、進化の過程の比較的早い段階で発達しました。これは、情動など、動物としての根本的な機能を司っている重要な部位。この大脳辺縁系が、私たちの目標達成を阻害してしまうのだそうです。
目標を設定するとき、多くの人は「変わろう」と思っているはずです。そうでなければわざわざ目標を設定する必要はありませんよね。しかしこの大脳辺縁系は、その「変化」に警鐘を鳴らします。簡単に言えば、大脳辺縁系には変化を嫌う性質があるのです。なぜなら、動物が自然界で生きる上では変化というのはそのまま危険を意味するから。どこにどんな危険が潜んでいるか分からない、新たな天敵に出遭うかもしれない自然界では、環境や習慣を変化させてしまうことは非常にリスクが大きい行為。脳は本来、わざわざリスクを冒すよりも、今までの生活を続ける方が生存に有利だろうと考えるのです。
しかし人間は本能とは別に理性も持っているため、論理的に考えた「良い変化」を選ぶこともできます。そのことを考慮できず、無意識に変化を避け、現状維持に向かわせてしまうというのが、大脳辺縁系のちょっと困ったところなのです。
つまり私たちが目標に向けて努力するときには、現状維持を突破するためのちょっとした方策を講じてあげることが重要になります。
心の科学、神経言語プログラミング(NLP)
大脳辺縁系の働きに対抗して目標を達成するためには、その性質を踏まえた上でのアプローチが必要です。
そこで役に立つのが、言語学者のジョン・グリンダーと心理療法セラピストのリチャード・バンドラーによって1970年代以降に提唱された神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming:NLP)。NLPによると、人間の心理作用は脳の各働きやそれまでの経験から「プログラミング」をするように組み上げられているのだそう。そのプログラムを適切な神経言語で書き直してあげることで精神的な問題を解消する、というのがNLPの考え方です。元々は心理療法の一つとして誕生した技術ですが、現在ではスポーツやビジネスなどの幅広い分野でメンタルトレーニングの一環として取り入れられるようになっています。
そのNLPの中で目標を達成するために効果的とされているのが、「メタアウトカム」という考え方です。
メタアウトカムとは
メタアウトカムというのは、目標達成に向けたモチベーションを維持するために、目標達成後のイメージを明確に持つという方法です。
目標を設定するとき、多くの場合は具体的な数値や達成度を掲げるでしょう。実はそこに、挫折してしまう落とし穴が潜んでいるのです。なぜなら具体的な目標というのは、具体的なだけ印象が薄くなってしまうから。
例えばダイエットをしようとしたとき、「10キロ痩せる!」という目標を作ったとしましょう。そうしたら、毎日運動や食事制限をしながら、体重計で体重の増減を確かめますよね。すると、いつしかそのダイエットは数字の上でのゲームに過ぎなくなってしまうことがあるのです。そのような状況で、体重が思うように減らない期間が続くと、食事制限も運動もただ辛いだけの行動になってしまい、結果として努力をやめ、目標が達成できなくなってしまいます。つまり、具体的な数値の目標だけでは、目標と現実とのギャップが浮き彫りになってしまい、努力を続けることができなくなってしまうのです。
そうならないために必要なのは、「何キロ痩せるか」という目標に対するメタアウトカムとしての「痩せた後にどうなりたいか/何をしたいか」というビジョンなのです。
メタアウトカムを実践しよう
では、具体的にどうメタアウトカムを実践すればいいのでしょうか。
メタアウトカムの実践者として挙げられるのが、サッカーの本田圭佑選手。彼はプレイヤーとしてだけではなく、サッカースクールの経営や欧州サッカーチームのオーナーとして等、幅広く活躍しています。本田選手といえば、本田哲学とも言える強い精神力が印象的ですが、その強靭な精神力を支えているのが、“常に「その先」にあるサッカー界全体を担う”というビジョンなのです。
彼は才能とは環境がつくるものであると考え、才能ある選手を多く輩出するための環境を構築することを目指しているのだとか。そうしてサッカー界全体を動かすのだというビジョンこそが、彼自身のプレイヤーとして、そして経営者としての活躍を支えるメタアウトカムなのだと言えるでしょう。
本田選手の場合はスケールが非常に大きく感じられますが、私たちも身近なところからメタアウトカムを簡単に実践することができます。なぜなら、私たちが目標を立てて変化を手にしようとするとき、必ずその先には得たいものがあるはずだから。
先に挙げたダイエットの例で言えば、「10キロ痩せたらこんな服を着てみたい!」「スリムになった身体で友達と海に行きたい!」というように、目標を達成した先には「なりたい自分」がいるはずです。別の例として、TOEICでの高得点獲得が目標ならば、その英語力を使ってどんなことをしたいのかを強くイメージしましょう。海外へと足を運んで自在に世界を広げることもできますし、今までは敬遠していた英語の文章から様々な情報を得ることもできるはずですよね。
重要なのは、数値目標を達成することではなく、「なりたい自分」になること。これを明確にイメージできれば、目標達成に向けた取り組みがただのゲームになってしまうこともなく、自然とやる気が湧いてくるでしょう。メタアウトカムというものは、目標の先にある「なりたい自分」を自覚して、モチベーションを維持して努力をし続けるための重要な技術なのです。
*** せっかく目標を立てても、いつの間にか意識しなくなってしまったり諦めてしまったりするのはもったいないことだと思います。メタアウトカムを上手に利用して、設定した目標を着実に達成できるようになりましょう。
(参考) shyal.com|a simple mind hack that helps beat procrastination NLP学び方ガイド|目標設定でやってはいけないこと - NLPの目標設定3つのポイント Wikipedia│大脳辺縁系 Wikipedia│神経言語プログラミング Wikipedia│本田圭佑