
ふと「この1年で何ができるようになったんだろう?」と考えたとき、特別に何も浮かんでこない——。
じつはそれ、決して珍しいことではありません。
問題は「成長していない」ことではなく、「成長を記録していない」こと。だから思い出せないのです。
本記事では、小さな成長を可視化し、キャリアの武器に変える「成長のジャーナル」の書き方を解説します。
なぜ「記録」が必要なのか
私たちは日々、小さな判断や改善を繰り返しています。ところが、それらは習慣化した瞬間に「当たり前」になり、自分の成果として意識されなくなります。
さらに厄介な心理的傾向があります。
私たちは「できなかったこと」には敏感でも、「できるようになったこと」には鈍感です。これはネガティビティ・バイアスと呼ばれる心理傾向で、失敗(ネガティブな出来事や情報)は記憶に残りやすく、成功(ポジティブな出来事や情報)は薄れやすいとされています。*1
さらに、毎日少しずつ変化していると、自分自身の成長には気づきにくいもの。「成果がない」のではなく、「気づけない」だけなのです。
だからこそ、意識的に記録する必要があります。
心理学者バンデューラの自己効力感研究では、達成経験の積み重ねが「できる自分」という認識を強化することが示されています。*2
また、ライアンとデシの自己決定理論は、成長の証拠を自分で確認できる体験が内発的動機づけを高めると示しています。*3
つまり、成長の記録はモチベーションの燃料になるのです。
何を記録するか——3つの分類
成長はさまざまな要素が絡み合った結果です。すべてを書き出そうとすると大変なので、シンプルな3分類をおすすめします。
できたこと・学んだこと・改善点
それぞれの定義は以下のとおりです。
- できたこと
成果や行動の事実。数字で表せるものは数字で。「提案が採用された」「後輩への説明がスムーズにできた」など。 - 学んだこと
成功から得た教訓や気づき。「なぜうまくいったか」の言語化。「根拠を先に示すと提案が通りやすい」など。 - 改善点
失敗や不足の認識。次にどうするかのヒント。「期限設定が曖昧で遅延した」「見積もりが甘かった」など。
この3軸で書くと、成果・思考・課題がバランスよく残ります。
記録の具体例
- できたこと
→提案採用率が30%から65%に向上した
→顧客折衝で以前より落ち着いて対応できた - 学んだこと
→対象者ごとにメリットを数値で示すと意思決定が早まる
→相手の理解度に合わせて説明方法を変える重要性 - 改善点
→提案採用後のフォロー率がまだ60%程度で改善の余地あり
→見積もりの精度が甘く、スケジュールに余白が足りなかった

いつ・どう書くか
続かなければ意味がありません。ハードルを下げる工夫が必要です。
頻度:週1回でOK
毎日書こうとすると挫折します。週末に5分、1週間を振り返って書くくらいがちょうどいいでしょう。金曜の終業前や日曜の夜など、自分のルーティンに組み込めるタイミングを決めてください。
分量:各項目1〜2行
長く書く必要はありません。「できたこと」「学んだこと」「改善点」それぞれ1〜2行で十分です。5分で終わる量に抑えることが継続のコツです。
ツール:何でもいい
手書きのノート、スプレッドシート、Notionやメモアプリなど、自分が続けやすいものを選んでください。大事なのは「検索・振り返りができる形式」であること。紙のノートなら月ごとにインデックスをつける、デジタルなら日付を入れるなど、後から探せる工夫をしておきましょう。
どう活かすか——未来の自分への投資
蓄積された記録は、さまざまな場面で武器になります。
①停滞感の解消
「何も成長していない」と感じたとき、過去の記録を読み返せば前進の証拠が見える。調子が悪いときでも「進んでいる」という感覚が得られます。
②評価面談・異動・転職の材料
「何をやってきたか」を聞かれたとき、記憶に頼ると曖昧になります。数字と具体例が残っていれば、説得力のある自己アピールができます。
③自分の強みの発見
半年分、1年分を読み返すと、繰り返し出てくるパターンが見えてきます。「自分は何が得意で、どこでつまずきやすいか」が客観的にわかるようになります。
キャリアにおいて大切なのは「できる」ではなく「証明できるか」。その差が、チャンスをつかむか逃すかの分かれ道になります。
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成長は、記録しなければ消えていきます。
週に一度、5分でいい。「できたこと・学んだこと・改善点」を書き残すだけで、未来の自分が必ず受け取ってくれます。
今日から、まず1行。自分の未来のために、記録を始めてみませんか?
*1 錯思コレクション100|ネガティビティ・バイアス
*2 Bandura, A. (1977). Self-Efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change.
*3 Ryan, R. M. & Deci, E. L. (2022). Self-Determination Theory.
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。