集中力がすぐに途切れる。アイデアがなかなかひらめかない。その悩みは、もしかしたら仕事をする「デスク」を考察することで解決できるかもしれません。自分にピッタリの環境を整えて、仕事の効率を上げまくりましょう。
集中できないのは、場所選びが悪いから
メガネのJINSで有名な株式会社ジンズホールディングスが実施した、興味深い実験があります。それは、異なる職種の3人のオフィスワーカーに、「公園」「にぎやかなカフェ」「静かなカフェ」「ワーキングスペース」「図書館」「自分のオフィス」の6箇所で仕事をしてもらい、それぞれの場所での集中力を比較するというもの。
結果、6箇所のうち最も集中できない場所は、なんと普段仕事をしている「自分のオフィス」だったのです。
この結果を医学博士の石川善樹氏は以下のように分析しています。
企画書作成や文書執筆など、長時間かつ継続的な集中を必要とする作業を行う場合、会議・電話・メール処理など突発的なタスクが常時降りかかってくるオフィスは、集中する環境として不向きなことがあります。
(引用元:JINS MEME|オフィスを出たら集中力が上がった?「場所」の違いから見る「集中力」の変化)
つまり、じっくり取り組むパソコン作業からスピーディーな対応が求められる電話やメールの対応まで、すべてを同じ場所で行なおうとするから集中できないのですね。
石川氏いわく、最も集中できる環境というものは、人や作業内容によって違うとのこと。だからこそ、自分が集中できる場所を正しく把握し、作業をはかどらせることができる場所を求めることは、仕事の生産性向上に大きな意味をもつと言います。
【提案】デスクをふたつ用意しよう
石川氏の話から、自分の仕事内容に合った環境を用意することの大切さはわかりました。では、「資料作成のような集中すべき仕事」と「自由なアイデアを出すような創造的な仕事」という、一見相反する仕事を両立させたかったら、いったいどんな環境を用意したらいいのでしょうか?
そこで筆者が提案したいのは、ずばり「デスクをふたつ用意する」ことです。
作業療法士で、脳の機能を活かした人材開発を行なう菅原洋平氏によると、集中するためには片づいたデスクがいいとのこと。理由は、脳の省エネができるからです。整頓されたデスクは物の配置が決まっているので、置かれた物を見るたびに脳が余計な認知コスト(頭を使うことで消費する脳のエネルギー)を使わずにすむのだそう。
また、創造力を発揮するには適度な刺激が必要なので、物が置きっぱなしのデスクがいい、と菅原氏。さまざまな物が置かれたデスクでは、仕事と関係ない情報が視界に入ります。そうした余分な刺激が、脳内で新しい神経のつながりをつくりやすくし、アイデアのひらめきを促すとのこと。
以上のことから、「2種類のデスクを用意できれば最高の仕事環境になるはずだ!」と考えました。
実際にふたつのデスクで仕事をしている人も紹介しておきましょう。アメリカの作家、画家であるオースティン・クレオン氏は、パソコンやスマートフォンだけを置いた「デジタルデスク」でロジカルな仕事をし、文房具などが多く置かれた「アナログデスク」でクリエイティブな作業をしているそうです。
「ふたつのデスク」具体的にはこうつくる!
筆者の造語ですが、ここからは整頓されたデスクを「ロジカルデスク」、物が置きっぱなしのデスクを「クリエイティブデスク」と呼び、具体的にそれぞれのデスクをどう実現するかを解説しましょう。
ロジカルデスク:「収納の7割」で物の配置をキープ!
ロジカルデスクのポイントは「物の配置が決まっていること」。そこで、片づけアドバイザーの石阪京子氏が提案する「物の量は『収納スペースの7割』まで減らす」という方法を実践してみましょう。石阪氏いわく、「収納の7割」というのは人間が管理できる物の量の限度。これを保てば、物を出すのも片づけるのも簡単になるので、デスクが散らかりません。
その7割に入れるぶんとして優先すべきは、いつかではなく「いま本当に使う」物。たとえば、いつか読むつもりで置いている本、当面使わないペンやメモ帳は、処分するかデスクとは関係ないところに片づけます。もらった置物なども、自分が本当に好きなものでなければここには置きません。これらは、後述のクリエイティブデスクのほうにまわすのもいいでしょう。
「作業に関係ないものは、原則置かない」が基本ですが、少しの観葉植物は置くべきです。豊橋技術科学大学と長崎大学が行なった研究によれば、視界に占める緑の割合が10〜15%の環境にいるとき、集中できて最も仕事のパフォーマンスが高くなるとのこと。ただし、緑を増やしすぎるとかえってストレスになるので、パソコンモニターの横に観葉植物を置く程度がちょうどよいでしょう。
同時に、デスクとセットになるイスにもこだわってみてください。前出のジンズホールディングスが開発した “世界一集中できる場所” Think Labのエグゼクティブディレクター井上一鷹氏によれば、人間は下を向くとロジカルな分析に適した「収束思考」になるとのこと。収束思考に入りやすくするには、体が自然と前のめりになる座面のイスを選ぶといいそうですよ。
クリエイティブデスク:「色」で創造力を刺激!
クリエイティブデスクでは「仕事と関係ない物を置く」ことがポイント。ロジカルデスクには置けなかった、いつか読みたい本やいろいろな文房具類、同僚からのお土産でもらった物などはこちらに置くといいでしょう。
ここで注目したいのが「色」の効果です。カナダのブリティッシュコロンビア大学の実験によると、青色には創造性を高めて新たな発想を生み出しやすくする効果があるのだとか。青系の物を、視界に入る位置に置いてみてはいかがでしょう。ただし、寂しさや不安定な気持ちを招くといったネガティブな作用もあると言われています。さりげなく視界に入る程度にとどめておくといいのかもしれません。
また、イス選びにもポイントがあります。上記の井上氏によれば、人間は上を向いたときに、クリエイティブな発想を促す「発散思考」になるそう。ロジカルデスクとは反対に、後ろにもたれかかりやすいイスがおすすめです。
集中できるロジカルデスクと、ひらめきやすいクリエイティブデスクの条件をまとめると、こうなります。
デスクをふたつも用意できない人へ
2種類のデスクを用意することを提案しましたが、そもそも「家にもオフィスにも自分のデスクをふたつ用意するなんて実現できない」という方も多いことでしょう。しかし、デスクがひとつでも、ここまで述べてきた2種類のデスクの特徴を念頭に置けば、自分が整えるべき仕事環境が見えてくるはずです。
たとえば、データ分析や資料作成のようなロジカルな仕事が多い人は整頓されたデスクを、企画の立案や商品開発のようなクリエイティブな仕事が多い人は物が置きっぱなしのデスクを目指してみてはいかがでしょう。もしくは、仕事の種類によってデスクの整頓の度合いを調整することもできると思います。
また、仕事場所を自宅やオフィス以外に求めるときにも、同様の考え方が役立ちます。なかなか集中できないときは整然とした図書館を選んでみたり、アイデアがひらめかないときにはインテリアで飾られたカフェを選んでみたりすれば、より仕事の効率がアップするのではないでしょうか。
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仕事をするデスクとは、言い換えれば「人生のたくさんの時間を過ごす場所」。デスクこそ、あなたが一番力を発揮できる場所になるよう、願っています。
(参考)
JINS MEME|オフィスを出たら集中力が上がった?「場所」の違いから見る「集中力」の変化
菅原洋平 (2019), 『「疲れない」が毎日続く! 休み方マネジメント』, 河出書房新社.
オースティン・クレオン著, 千葉敏生訳 (2012), 『クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために』, 実務教育出版.
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【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。