心に響くプレゼンテーションを行うには、説得力のある話し方や、効果的なジェスチャー、アイコンタクトなどのテクニックが必要です。実は、それらをトレーニングできる楽しいゲームがあるのです。「ビブリオバトル」と名づけられた、本を用いて行うゲームです。さっそくご紹介しましょう。
ビブリオバトルとは
ビブリオバトルとは、4人揃えば気軽に始められる「書評ゲーム」のことです。必要なものは、自分が他者にお薦めしたい本と、5分のプレゼン時間と、時計だけ。2007年に、当時京都大学大学院の学生だった谷口忠大氏(現立命館大学理工学部教授)が考案しました。ギリシャ語のbiblion(本)という言葉が由来しています。
このゲームに勝つためには、自分が薦める一冊を聴衆が読みたくなるよう魅力的に表現・提示し、紹介しなければなりません。そのため、プレゼンテーション能力を鍛える強力なトレーニングとして注目されているのです。
また、谷口教授は、「人に本を薦め、薦められた本を読むというのは、ひとつのコミュニケーションとして重要であり、それを通じてお互いを知り合う機会にもなる」と話しています。皇學館大学文学部国文学科准教授の岡野裕行氏も、ビブリオバトルの本質は「異なるバックグラウンドを持った人間同士のコミュニケーション」だと述べています。そして、ビブリオバトルのキャッチフレーズは 「人を通して本を知る、本を通して人を知る」。
つまり、このゲームは、ビジネスパーソンにとって必要不可欠なプレゼンテーション能力と、コミュニケーション能力を鍛えてくれるゲームなのです。
ビブリオバトルの方法
ビブリオバトルは、とてもシンプルなゲームです。方法は次のとおり。
【用意するもの】:一冊の本と、時計 【参加人数】:4~6人ぐらい 【ルールとやり方】:
1.発表参加者が、読んで面白いと思った本を持ち寄る 2.ひとり5分の持ち時間で、順番に本を紹介する 3.発表のあと、参加者全員で本に関するディスカッションを2~3分行う 4.「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員で行う(ひとり1票) 5.最も多くの票を集めた本が「チャンプ本」となる
ビブリオバトルがビジネスパーソンにとって役立つ6つの理由
ビブリオバトルを行うことは、なぜプレゼンテーションやコミュニケーションの強力なトレーニングになるのでしょう。その理由を6つ挙げました。
1.要点を絞りつつ魅力を十分に伝えなければならない
プレゼンテーションの時間が3分ではなく5分なのは、本のアウトラインだけではなく、自分の意見や感想を織り交ぜるようにするため。そうすることで、より本の良さを伝えられるからです。しかし、この5分間というのがなかなか曲者。スッキリとうまく絞り込み過ぎると時間が余り、熱を入れて話そうとすると短く感じます。したがって、要点を絞りつつ、魅力を十分に伝える能力が鍛えられます。
2.聴衆の心をつかまなければ勝てない
このゲームで「チャンプ本」を決める理由は、ゲーム性を持たせることによって、発表者が本の魅力をどう伝えるか、どうわかりやすく説明するかを熟考するようになるからです。限られた時間内で、最大限の効果を出すために努力すればするほど、プレゼンテーションの質を上げる訓練になります。
3.聴衆の反応を感じながらプレゼンできる
事務的な要素があると参加者全員で楽しめるゲームにならないので、ビブリオバトルでは原稿用紙やレジュメを用意しません。そのため、プレゼンする側は、聴衆の反応を感じながら行うことができます。アイコンタクトやジェスチャー、声の抑揚など、「こうするといい反応が返ってくる」といった感覚をつかんでいけるでしょう。コミュニケーションのコツも学べます。
4.広告宣伝部長を体験できる
プレゼンテーションの観点だと、このゲームで自分が薦める本は、ある意味ひとつの商材です。それを、あなたが広告宣伝部長となって、少しでも売り上げを伸ばそうと紹介するわけです(もちろん、実際には売りません)。プレゼンテーションは、サービスや商品、仕組みなどの情報を提示し、理解・納得を得る行為。決して上手に行うことが目的ではなく、理解と納得を得ることが目的です。それが明確になっていることも、このゲームの利点です。
5.様々な意見を持つ人とディスカッションできる
このゲームでは、発表のあと参加者全員で本に関するディスカッションを数分間行います。多様な本を持ち寄る人々とのディスカッションは、いいコミュニケーションの訓練になるはずです。わかりにくかった点や、判断するための質問が飛び交うので、プレゼンの過不足も認識できます。また、揚げ足とりや批判が禁止され、楽しい場になる配慮が必要とされています。コミュニケーションには重要な「場の雰囲気をよくする」ための配慮も身につくでしょう。
6.人前で話すことに対し免疫力がつく
ゲームの回数を重ねることで、必然的に人前で話す機会を増やせます。自分にとって思い入れがあるものを、人に薦めようと夢中になれば、人前で話す際の緊張も和らぐはず。そうして知らず知らずのうちに、人前で話すことに対し免疫力がついていくでしょう。
*** ぜひ、勉強会で、あるいは職場でのスキルアップに、「ビブリオバトル」をご活用ください。
(参考) 岡野 裕行(2016),「ビブリオバトルを通して読書について考える」,66巻,10号,pp.513-517. ビブリオバトル|ビブリオバトルとは Wikipedia|ビブリオ