ビジネスパーソンが身につけておくべき基本的能力として、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。コミュニケーション力、文章力、プレゼン力など……。でも、決して忘れてはいけないものがあります。「数学力」です。
なぜ、今のビジネスパーソンには「数学力」が必要なのか。『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)や、ベストセラー『数学女子智香』シリーズ(日本実業出版社)、『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』(同上)でおなじみ、“ビジネス数学の専門家” 深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう)さんに詳しくお話をうかがいました。
文系理系なんて関係ありません。すべてのビジネスパーソンに求められる「数学力」というリテラシーの重要性に迫ります。
「学生数学」とは違う。ビジネスシーンで求められる数学力とは?
——深沢さんが専門とされている「ビジネス数学」、一般的にはあまり聞き慣れない言葉です。そもそも「ビジネス数学」とは何なのか、教えていただけますか?
深沢さん: 「数学」という言葉から多くの人がイメージするのは、三角関数や微分積分のような、学校で習ってきた「学生数学」でしょう。皆さんも覚えておいでのとおり、あのころ扱った数学の問題には、必ず正解がありました。その正解を導くためのプロセスを学び、正解できていれば「解けた」「良かった」となる。これが学生時代までの数学でした。
一方で、私が提唱している「ビジネス数学」とは “仕事で使う数学力” のことです。ビジネスの世界には、決まった正解は存在しません。したがって、そこで私たちに求められるのは、正解がない状況のなか、どう考えてどう結論を出していくか。そのときに必要になる「数学」や「論理」を活用する力を、包括して「ビジネス数学」と定義しています。
難しさを感じる必要はない。「ビジネス数学」は誰でも身につけられるスキルである
——学生時代の数学といえば、好き嫌いや得意不得意が明確に分かれる科目でした。「学生時代、数学が大の苦手だった……」「文系出身だから、数学の専門的な知識はない」といった人でも、この「ビジネス数学」というスキルを身につけるのは可能なのでしょうか?
深沢さん: 結論から申し上げると、誰でも可能です。ビジネス数学を習得するうえで、いわゆる “理系のお勉強” ができる必要はありません。べつに「sin(サイン)を微分したらcos(コサイン)になります」なんて知識は要らない(笑)。業務内容がよほど専門的である場合を除き、私たちビジネスパーソンに必要とされる数学のスキルは「論理思考」と「四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)」の2つだけです。
学生時代の経験から、「数学」と名がつくものに苦手意識を覚えたり拒否反応を起こしたりする人、多いはずです。私は、これは単なる “心の病” に過ぎないと思っています。「数学なんて無理!」と勝手に思い込んでしまっているだけなんですね。
でも、ちょっと考えてみてほしいのです。「思考」は誰でもできますよね。「四則演算」だって、できない人はいないはずです。こう考えてみると、ビジネス数学は決して難しいスキルではないのです。習得しようとさえ思えば、誰だって習得することができますよ。
「ビジネス数学」を通じて3つの能力が磨かれていく
——それを聞いて安心しました(笑)。では、ビジネス数学のスキルを身につけると、どんなメリットがあるのでしょう?
深沢さん: ビジネス数学を通じて、私は3つの能力が磨かれていくと考えています。「論理思考」と「数的思考」と「数学的スキル」です。
1つめの「論理思考」とは、皆さんもよく耳にする “ロジカルに考える” ということですね。当然ですが、人に何かを説明するうえで、論理的に筋が通っているかどうかは非常に大事です。それが重要な意思決定の場であれば、なおさらでしょう。論理的に抜け漏れなく組み立てられているものがあったほうが、相手の納得を得るための武器にもなります。
2つめの「数的思考」とは “数字で考える” ということ。たとえば「部署の生産性を上げよう!」と思い立ったとします。これ自体は非常にいい話ですが……そもそも「生産性」を数的に表現することができなければ、生産性を上げることなんてできないのです。
実際にあったエピソードをご紹介しましょう。以前の研修で、ある受講生の方に「あなたの目標は何ですか?」とたずねる機会がありました。その方は「生産性を上げることです」と答えます。私は「“生産性を上げる” とはどういうことですか?」と聞いてみました。すると、今度は「仕事を効率化することです」と返ってきたのです。そこで、私はさらに「それでは、“仕事を効率化する” とはどういうことですか?」と問いかけてみました。その方は、悩んだあげく、次のように答えたのです。「……生産性を上げることです」と(苦笑)。
作業時間をどうするのか、成果物の量をどうするのか、売り上げをどうするのかなど、数字を使った思考ができなければ、具体的なアクションが明確になるはずもありませんし、成果を観測することだってできません。数的思考、とても大事です。
最後の「数学的スキル」は、もう少し実践寄りです。例を挙げれば、「これまでのデータから、広告費と売り上げの関係を、このような式で表すことができます。したがって、広告費〇円に対して売り上げ△円と見込めるため、来年度広告予算としてX円を希望します」といった説明ができる能力。非常に数学的な行為ですよね。
自分の頑張りが正しく伝わる! 「ビジネス数学」を身につける重要な意義
——ここまでのお話を聞いていると、「ビジネス数学」の根底には「誰かに何かを伝える」という大きな目的が潜在しているように見受けられます。
深沢さん: おっしゃるとおりです。私はビジネス数学の専門家として長く仕事をしていますが、私も「ビジネス数学の本質とは何か?」「その根底には何があるのか?」について、自分自身によく問います。結論は、やはり「伝える」という部分に行きつくんです。
自分の頑張りや成果を正しく伝えられるようになる。非常にシンプルですが、これこそが、ビジネス数学というスキルを身につける重要な意義なのではないかと思うのです。
「すごく頑張りました」と言っただけでは、その頑張りは伝わるはずもありません。一方で、「前期は〇〇だったのに対し、今期は△△まで数字を伸ばすことができました」「残業を〇時間も削減した一方で、売り上げを△円増加させました」なんて伝え方ができたらどうでしょう。どちらのほうが、頑張りが正当に伝わるかは、一目瞭然ですよね。
ビジネスパーソンの皆さんは、みんな頑張っています。頑張っていない人はいない。でも、その頑張りをうまく伝えられていない人が多いんですね。どんな仕事も、自分ひとりで考えただけでは完結させられません。誰かにその考えを正しく伝え、ゴーサインを得たり、さらなる知恵をもらったりして初めて、仕事は先へ先へと動いていきます。
デキる人は、数字を使い、数字で伝えます。ぜひ、この「ビジネス数学」のスキルを活用して、自分の成果や頑張りも上手に伝えられる人になってほしいですね。
【プロフィール】 深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう) ビジネス数学の専門家。 日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。 予備校講師や外資系企業での管理職を経て研修講師として独立。数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンを劇的に変えてしまうその独特な指導法が「史上最強にわかりやすい」と好評。担当した講義は100%リピート依頼がくる人気講師である。 大学でも教鞭をとる傍ら指導者育成にも従事し、ラジオ番組のパーソナリティなどメディア出演も多数。さらに作家として著作は国内で累計13万部超。一部は海外でも翻訳され多くのビジネスパーソンに読まれる。 公益財団法人日本数学検定協会が認定した国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」である。
BMコンサルティング株式会社代表取締役 一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事 多摩大学非常勤講師 パールハーバープロダクション所属
★ビジネス数学.com ~深沢真太郎オフィシャルウェブサイト~ http://www.business-mathematics.com
*** 「ビジネス数学」は誰でも身につけられるスキルである。伝える力を高める “コミュニケーションツール” のひとつとして、積極的に使っていきたいものですね。
次の第2回では、“数字を使える人” になる方法について、詳しく探っていきます。
■第2回『デキる人は数字を使う! 「数字力」を磨く大切な習慣』はこちら ■第3回『「数学コトバ」でコミュニケーションが捗る! ビジネス数学から生まれる『伝える技術』』はこちら