「不安や悩みごとが常に頭から離れない」
「ストレスがたまっていて、どう対処すればよいかわからない」
「リラックスできない」
このような悩みを抱えている方は、少なくないのではないでしょうか。
心配ごとや不安にとらわれて、自分が過ごしている今この瞬間を楽しむことが難しくなっていませんか? 心理学では、そのような状態をマインドレス、つまり「心を失った状態」と表現します。そのような状態で毎日を過ごしていれば、ストレスがたまり続け、大切なことに集中力を注げなくなってしまうのだとか。
マインドレスの状態を抜け出す方法のひとつが、「感情日記」です。毎日、ほんの数分間日記を書くだけで、ストレスが減り、心が安定するなどの効果を感じられますよ。以下で詳しくご紹介しましょう。
感情日記の書き方
習慣化コンサルタントで『こころが片づく「書く」習慣』の著者である古川武士氏いわく、思っていることを書き出すだけで、頭の中が整理され、マインドレスとは逆の状態であるマインドフル、つまり「今ここ」に集中できる状態になるそう。
古川氏のすすめる感情日記の書き方をご紹介しましょう。
- 毎日、感情を揺さぶった出来事をひとつ書く
嬉しかった出来事などのポジティブなことでもよいですし、怒りや悲しみなどのネガティブな感情でもかまいません。
- それに対して思ったことを書く
その出来事について、思ったことを書き出します。誰かに見せるわけではないので、取りつくろうことなく、感情のままに書き出しましょう。愚痴ばかりになってしまっても大丈夫ですよ。
- どのような感情になったか、それを数値化(%)する
感情の度合いを数値化します。数字は自分の感覚で決めましょう。あとから振り返ったときに、自分がどのような出来事で、どれくらい感情的になるのかを見返せます。
毎日書くことによって、自分の感情のパターンを把握できるようになります。起こったことに対して、モヤモヤと鬱憤をためるのではなく、それを書き出して、さらに感情の度合いも記すことで、客観視できるようになり、解決策も考えられるようになるのです。
「感情日記」は心身の健康につながる
欧米では、感情日記は、「エクスプレッシブ・ライティング」「エモーショナル・ディスクロージャー」などと呼ばれ、「精神ストレスをやわらげる療法」として長年研究されています。
『日記を書くと血圧が下がる――体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』の著者であり、精神科医で医学博士の最上悠氏によると、文章を書くことの効果は、心だけでなく体そのものにもあるのだそう。同氏いわく、「外科手術を受ける前の患者が3日間、1日15分かけて文章を書いたところ、術後の傷口の回復が早かった」という研究結果があるのだとか。また、がんの痛みや腰痛、喘息の症状が緩和されることもあるよう。
もちろん、科学的治療のような効果があるわけではありませんが、メンタルの状態は、体の健康にも影響を与えるということです。たしかに、上司からプレッシャーをかけられたときに偏頭痛がしたり、親友と喧嘩したときにお腹が痛くなったりと、心の調子が体の症状として現れた経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
最上氏自身も「日記療法」を臨床で試しています。同氏いわく、以前はどんなに薬を調整しても血圧が170mmHGより下がらなかった患者に日記を書いてもらったところ、日記を始めた3週間後には、100mmHG台前半まで下がったのだそう。ほかの患者でも、同様の結果を得られたと言います。
感情日記を書くとストレスに強くなる
メンタリストのDaiGo氏も、感情日記を実践し、毎日仕事が終わったあとに20分間、感情を書き出しています。
同氏によると、人は自分の感情を抑えたり、自分をよく見せようとしたりすると、メンタルが弱ってしまうのとか。しかし、紙に書くことで、そのストレスが軽減されるのだそう。「人に話すとスッキリする」という人もいますが、DaiGo氏いわく、人に話す場合は、つい自分をよく見せようと本音を言わなかったり、相手によって話す内容を変えたりするため、不安が消えることはほとんどないのだそう。だからこそ、誰にも見せない日記に書くことで、自分の本当の感情と向き合えるのでしょう。
感情日記を続けることで、短期記憶を司る「ワーキングメモリ」のキャパシティが向上するという研究結果もあります。ノースカロライナ州立大学のキティ・クライン氏と北テキサス大学のアドリエル・ボールズ教授が、被験者である学生らに大学についての考えや感情を書かせ続けたところ、7週間後、そのほかのトピックについて書かせた学生らよりもワーキングメモリのキャパシティが向上していたのだそう。ワーキングメモリの容量が向上すると、心が安定し、感情のコントロールがうまくなり、ストレスにも強くなるという研究結果が出ています。
ほかにも、感情日記には「苦手な人が許容できる(スルーできる)ようになっていく」効果もあるそう。「職場に苦手な人がいるけど、業務上しかたなく関わらなければならない……」という方は多いはず。苦手だけれど避けられない相手がいる場合は、うまくスルーする力をつけ、振り回されなくするのが得策ですね。
感情日記を書いてみた
実際に、筆者が感情日記を5日間実践してみました。
日記の中から一部を抜粋してご紹介します。
1/13
【できごと】
週はじめなので調子が出なかった。お客さんからの資料が届かず残業になってしまった。
【思ったこと】
仕方のないことだと分かっているけど、今日は定時で上がって歯医者に行きたかったので、イライラした。
【感情(%)】
不快感 70%
1/14
【できごと】
先輩がミスをしたのに、私の責任だと取引先に報告されてしまった。さすがに勘弁してほしい……。
【思ったこと】
許せない! 次の上司との面談時に先輩と違うチームに移れるか相談しよう。
【感情(%)】
怒り 95%
嫌な感情を言葉にしてみたところ、本当にストレスが軽減したように感じました。日常の中で感じる小さなイライラはなかったことにしてしまいがちですが、実際は頭の片隅に残っていて、それらが蓄積していたのかもしれません。
このように書き出して、さらに感情の度合いを数値化することで、自分の気持ちを改めて認識できました。辛い気持ちが浄化された感覚もあります。書き出すことで、起こった出来事を客観視できるため、今後の解決策を考えるきっかけにもなりました。
1/16
【できごと】
上司に渡した資料がすごく良かったとほめられた。
【思ったこと】
誰も気づいてくれないと思ってた。こだわって作ったから嬉しい。
【感情】
嬉しさ 80% 感動 60%
加えて、このように嬉しかった出来事も書き出すことで、仕事で疲れていても「実際は幸せな出来事もあったのだ」と気づけたのも良かったです。感情日記は、メンタルを安定させるのに有効だと感じます。
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めまぐるしい現代を生きる私たちは、たくさんの仕事を抱えたり、苦手な人と関わらなければならなかったり、プレッシャーを感じたりと、ストレスの溜まる要因に囲まれています。頭の片隅で常に仕事のことが気になっていて、休んでいるときも、気持ちが休まらないという方も多いかもしれません。そのようなビジネスパーソンに、ぜひ感情日記を試してみていただきたいです。
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。
(参考)
Newsweek|日記を書くと血圧が下がる? 健康づくりに役立つ感情日記とは何か
東洋経済オンライン|「感情を紙に書く」習慣でストレスは減らせる 1日20分、その日思ったことを書き出すだけ
古川武士(2018), 『こころが片づく「書く」習慣』, 日本実業出版社.
Klein, Kitty and Adriel Boals (2001), “Expressive writing can increase working memory capacity,” Journal of Experimental Psychology General, Vol. 130, No. 3, pp. 520-533.