伝わる言葉を操る人が知っている「生きた言葉」の学び方

ソファに座り読書をする人の手元

言いたいことは、頭のなかにあるはずなのに。いざ口に出すと、うまくまとまらない——。

会議で、商談で、ふとした雑談で。そんなもどかしさを覚えたことは、一度くらいあるのではないでしょうか。

一方で、その場の状況をすばやく読み取り、的確な言葉をスラスラと紡ぎ出す人もいます。この違いはどこにあるのでしょうか。

じつは、「頭の回転の速さ」には脳内での情報のもち方が深く関係しています。そして、その土台にあるのが語彙力です。

語彙力とは、語彙——自分のなかに蓄えられた言葉の集まり——を、場面に応じて選び、使いこなす力のこと。言葉をたくさん知っているだけでは、まだ半分なのです。

さらに、その語彙力を効率よく鍛える手段として注目したいのが小説。ビジネス書とは異なる形で、思考力や表現力を育ててくれます。

本記事では、なぜビジネスパーソンにとって小説が有効なのかを解説します。

なぜ「読書」がビジネスパーソンの武器になるのか

思考をうまく言語化できず、「もっといい感じにしたい」「しっくりこないんですよね」といった曖昧な表現に終始してしまう——。

これは、語彙不足のサインかもしれません。

だからこそ、読書を通じて語彙を豊かにすることは、ビジネスパーソンにとって大きな武器になります。

読書の主な価値として、次の3つが挙げられます。

① 語彙・表現力・思考の幅が広がる

相手や状況に応じて適切な表現を選ぶには、十分な語彙が必要です。

グロービス経営大学院経営研究科副研究科長の村尾佳子氏によると、「人間は、頭の中にある『言葉』を使いながら物事を考え」るのだそう。*1

つまり、語彙の差は思考の深さの差にもつながるのです。

② EQ(感情知能)が高まる

EQとは、「自分や他者の感情を正確に認識し、その感情を適切にコントロールしながら、目標達成や人間関係に活用する能力」のこと。*2

チームで成果を出す現代のビジネス環境では、IQだけでなくEQも欠かせません。特に文学作品の読書は、EQ向上との関連が報告されています。*3

③ 多様な価値観に触れられる

読書は、自分とは異なる人生や考え方を追体験する機会です。視野が広がり、物事を多角的にとらえられるようになります。

もちろん、課題解決のための知識が体系的にまとまったビジネス書や自己啓発書も重要です。しかし、感情を伴う追体験によって思考の幅を広げるという意味では、小説もまたビジネスパーソンの能力を磨く有力なツールなのです。

たくさんの本を運ぶ人の手元

語彙力は脳の「圧縮ソフト」。情報を瞬時にまとめる技術

「自分の意図を正しく伝えようとすると、話が長くなってしまう……」

そんな人も少なくありません。

その原因のひとつも、語彙力にあります。

たとえば、チームづくりについて話し合う場面を想像してみてください。

Aさん
「みんなが仲良く、ギスギスしないで、怒られるのを怖がらずに何でも言えるような、そういう空気感のあるチームにしていきましょう」

Bさん
「チームの心理的安全性を高めていきましょう」

Aさんの意図も理解できますが、表現としては回りくどく聞こえます。

一方のBさんは、「心理的安全性」という一語で複雑な概念を的確に表現しています。

語彙が豊富であるほど、複雑な状況を少ない言葉で整理し、効率的に伝えられるのです。

前出の村尾氏は、語彙力を高める方法として次の4つを挙げています。*1

  • 『どのような言葉が、どのような場面で、どのように使われているか』を意識して言葉への感度を高める
  • 特定のジャンルに偏らない読書を通して、新たに出会える語彙量を増やす
  • 自分とは異なる世代や性別、職業、価値観、ライフスタイル、趣味嗜好の人と交流する
  • インプットした言葉をアウトプットする

本にはさまざまな人物が登場し、多様な価値観や人生が描かれています。

そして、そうした言葉との出会いを最も豊かにしてくれるのが小説です。

なぜ「小説」なのか? 脳内でシミュレーションされる「生きた言葉」

カナダ・ヨーク大学の心理学者レイモンド・マー氏らの研究では、頻繁に小説を読む人は物語のなかに埋め込まれた社会的知識に触れる機会が多く、それが社会的スキルにつながる可能性が示されています。*4

たとえば、ビジネス書で「傾聴」という概念を学んだとしましょう。

知識として理解していても、実際の会話になると「どう聞けばいいのか」というテクニックばかりに意識が向いてしまうことがあります。

ビジネス書で得た言葉は、定義や概念として記憶されやすいものです。

一方、小説で出会った言葉は感情や状況、人間関係と結びついた状態で記憶されます。つまり、「知っている言葉」ではなく、「使える言葉」として脳内に蓄積されるのです。

主人公が理不尽な状況に反発する場面。悩みを抱えながら仲間に本音を打ち明ける場面。そうしたシーンを追体験することで、言葉は血の通った知識へと変わります。

だからこそ、現実の場面でも咄嗟に言葉を引き出せるようになるのです。

プレゼンテーションをするビジネスパーソン

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大切なのは、自分とは異なる人物の視点に身を置くことです。その経験が視野を広げ、新たな言葉との出会いを生みます。そして、出会った言葉を実際に使うことで、語彙はビジネスの武器へと変わっていきます。

今日、久しぶりに小説を開いてみませんか。

よくある質問(FAQ)

Q. 語彙力と語彙はどう違うのですか?

語彙は「単語」そのものではなく、自分のなかに蓄えられた言葉の集まり(総体)を指します。個々の言葉が「単語」、その集まりが「語彙」、そして語彙を場面に応じて選び、使いこなす能力が「語彙力」です。言葉をたくさん知っていても、適切に使えなければ、語彙力が高いとは言えません。

Q. ビジネス書を読んでいるだけでは語彙力は身につかないのでしょうか?

ビジネス書でも語彙は身につきます。ただし、ビジネス書で得る言葉は概念や定義として記憶されやすい傾向があります。一方、小説では感情や人間関係と結びついた文脈のなかで言葉に触れるため、「生きた言葉」として定着しやすくなります。「知っている言葉」を「使える言葉」に変えやすいのが、小説の特徴です。

Q. 語彙力が高いと、本当に仕事の成果につながるのでしょうか?

語彙力が高い人は、自分の考えを簡潔かつ正確に伝えやすくなります。また、複雑な状況を整理して説明したり、相手に合わせて表現を使い分けたりできるため、会議やプレゼンテーション、マネジメントなどさまざまな場面で役立ちます。

Q. 小説はどのジャンルを読めば語彙力向上に効果的ですか?

特定のジャンルに限定する必要はありません。むしろ、自分が普段触れない価値観や環境が描かれた作品を選ぶことで、新しい言葉や考え方に出会いやすくなります。現代小説だけでなく、古典文学や海外文学などにも挑戦してみるとよいでしょう。

Q. 読書が苦手でも語彙力を鍛える方法はありますか?

オーディオブックや短編集から始めるのもおすすめです。また、読んで終わりではなく、新しく覚えた言葉を会話や文章で実際に使うことで言葉は定着しやすくなります。少しずつでも継続することが大切です。

Q. 小説を読むと「頭の回転が速くなる」と言われるのはなぜですか?

小説では登場人物の感情や人間関係、状況の変化を追いながら物語を理解するため、脳内でさまざまなシミュレーションが行なわれます。その過程で言葉や社会的知識が蓄積され、実際の場面でも状況を素早く整理し、適切な言葉を選びやすくなると考えられています。

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。