「本を読んでも頭に入ってこない」「読んだはずの本の内容をすっかり忘れてしまった」……そんな経験はありませんか?
読んだ本の内容を忘れてしまうことは誰にでも起こりうること。読書好きの著者でもたまに内容を思い出せず、焦ることがあります。その原因は、本の読み方が悪いから。
今回は、記憶を定着させるのに最適なコーネル式ノート術を用いた読書法を、筆者の実践を交えてご紹介します。
【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している
- 本を読んでも内容が頭に残らない人の問題点1:5W1Hを意識せずに読んでいる
- 本を読んでも内容が頭に残らない人の問題点2:読書後にアウトプットしていない
- 読んだ本の内容を頭に残す「コーネル式ノート」
- コーネル式ノートをつくりながら読書をしてみた
- コーネル式ノート×読書は相性がよかった!
本を読んでも内容が頭に残らない人の問題点1:5W1Hを意識せずに読んでいる
『「記憶力」と「思考力」を高める読書の技術』(日本実業出版社, 2020)の著者で多読家の青山学院大学法学部教授の木山泰嗣氏は「記憶力を高める読書をするためのコツ」に「5W1Hを意識する」ことを挙げ、その理由を次のように述べています。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|本を「読んだ端から忘れる人」が知らない記憶術)
5W1Hが明確にならない文章は具体性がなく、読み手に伝わりにくいからです。ただし、日本語は、省略の文化をもっており、5W1Hのすべてがそろう文章ばかりではありません。
(引用元:同上)
たしかに、日本語の文章では読みやすさを重視して、主語や場所などが省略されていることは多いもの。たとえば、主語が筆者であることがあきらかな文章の文頭に、いちいち「私は~」と書かれていたら煩わしく、かえって読みにくいですよね。
足りない情報がある場合には、読み手側が「主語は誰か?」「場所はどこか?」「筆者はなぜそう考えたのか?」と推測しながら読まないと、内容を正しく把握することができません。具体的には、以下のように考えながら読むということです。
- 「過去」を振り返っているのか、「現在」の話なのか
- 会話文であれば「誰が」言ったのか
- 場所が出てくる場合は、このシーンは「2ページ前に記載された場所のまま」か、「別の場所に移動した」のか ……など。
5W1Hを意識して読まなければ、内容が記憶に残らないのももっともですね。
本を読んでも内容が頭に残らない人の問題点2:読書後にアウトプットしていない
読んだことが頭に入らないのは、読書後にアウトプットする作業をしていないからかもしれません。東京大学教授で脳科学者の池谷裕二氏は、次のように述べています。
多くの人は「記憶」というと、詰め込むもの、覚えるもの、入力するものだと勘違いしています。しかし、記憶力は出力しないと鍛えられない。
(引用元:Wedge ONLINE|記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です)
池谷氏は上記の根拠のひとつに、『Science』誌の研究報告を挙げています。そのレポートによれば、【単語を50個連続で見せたあとに、もう一度同じものを見せたグループ】よりも、【単語を50個連続で見せたあとに、思い出せる限り単語を言わせたグループ】のほうが、翌日のテストの点数が高かったのだとか。
つまり、記憶を定着させるためには、インプットの回数よりも、アウトプットが重要だということですね。“本を読みっ放しにする人” は、読んだ内容を思い返さないせいで、記憶の定着に失敗しているというわけです。
読んだ本の内容を頭に残す「コーネル式ノート」
「5W1Hを意識せずに読んでいる」「読書後にアウトプットしない」……といった問題点が思い当たる方には、コーネル式ノートがおすすめです。
コーネル式ノートとは、アメリカの名門コーネル大学の元教授、ウォルター・パーク氏が考案したノート術のこと。講義や読書でインプットした情報を、自分なりに整理しながらノートにアウトプットすることで、効率的に理解を深め、記憶を定着させることを狙ったメソッドです。
方法はシンプル。ノートの紙面を図のように3分割し、各スペースに以下の内容を書き込んでいきます。
- 「ノート」:インプットしたい情報の要点を簡潔に書く。
- 「キュー」:情報をインプットしたその日に、「ノート」のメモへの疑問や、記憶を引き出すためのキーワードを書く。
- 「サマリー」:インプットした情報を要約し、2~3行にまとめる。
(参考:Cornell University Learning Strategies Center|The Cornell Note Taking System)
(画像引用元:STUDY HACKER|理解が進んで記憶が定着! 「コーネル式ノート術」で「資格試験勉強」がかなりはかどる)
ノートやキューに覚えておきたい重要なポイントや疑問を書き出すためには、「筆者が言いたいことはなにか?」「どうしてそう思うのか?」など、5W1Hを意識しながら読み進めねばなりません。また、サマリーでは、「要するにこういうことだ」と内容を自分なりの言葉で要約するため、必然的にインプットした記憶を引き出す作業をすることに。アウトプットもしっかり実践できます。
したがって、コーネル式ノートを使えば「5W1Hを意識せずに読んでいる」「読書後にアウトプットしない」というふたつの問題点を、まとめてうまく解消できるのです。
コーネル式ノートをつくりながら読書をしてみた
お金の勉強に勤しむ筆者もコーネル式ノートを活用して、ジャーナリスト池上彰氏の著書『経済のことよくわからないまま社会人になった人へ』(ダイヤモンド社, 2022)を読んでみることにしました。
今回は、自宅にあったB5サイズのコクヨのキャンパスノートと、書いた内容が見やすくなるようゼブラの3色ジェルボールペンを使用します。
1:ノートに線を引いて3つのスペースに分ける
ノート・キュー・サマリーを書くため、紙面に線を引いて3つのスペースをつくります。
2:ノートスペースに「本を読んで覚えておきたい内容」を書く
次に本を読みながら、「覚えておきたい」と思った内容を、以下のポイントをふまえながらノートスペースにメモしていきます。
- 箇条書きにする(丸写しを防ぎ、要点を簡潔にまとめるため)
- 強調したいことは赤、追加のメモは青のペンを使う
- 必要に応じて波線や矢印などの記号を用いる(重要なキーワードに波線を引くなど)
3:キュースペースに「ノートスペースのメモに対する疑問や重要なキーワード」を書く
次にノートスペースのメモを読み返し、疑問に感じたことや、内容を思い出すときの手がかりになりそうな重要キーワードを、その日のうちにメモします。
筆者の場合は、「株式投資をするなら損する覚悟も必要?」「『株』とはお気に入りの会社をお金で応援する行為」など、メモを眺めながら浮かんだ疑問や重要に感じたキーワードを書き込んでみました。
4:サマリースペースに「本を読んで理解した内容」を書く
続いてサマリースペースに、本を読んで理解した内容を自分なりの言葉で要約したものを書き込めば、コーネル式ノートのできあがりです。
サマリーには本書で学んだことに加え、「株式投資は損をする可能性もあるため、お金の余裕があるときに」といった、自分が投資をするにあたって役立ちそうな心構えもメモしておきました。
コーネル式ノート×読書は相性がよかった!
次々と新しい本を読み漁りたくなってしまう筆者自身、これまでは読んだ内容がうろ覚えになることもしばしば……。筆者にとって馴染みの薄い経済に関する本は、読んでも内容がなかなか頭に入らず困っていました。
そこでコーネル式ノートをつくりながら前出の本を読んでみると、次のようなメリットを実感できました。
- 本から得たいと思っていた知識を効率的に探し出せる
- 自分の言葉でメモするため、「これはこういうことか!」と腑に落ちるまで考えられる
- 自分なりの言葉で説明できるくらい、理解が深まる
今回は、1章分(35ページ)のテキストを読みながら見開き1ページ分のノートを書くのに1時間半くらいかかりました。しかし、コーネル式ノートを実践してから数日後のいまでも、前出の本の内容をしっかり覚えられています。
手を動かして頭を使い時間をかけたぶん、記憶を深く脳に刻み込めたように感じました。「読書をしても内容が身につかない」とお悩みなら、コーネル式ノートがおすすめですよ。
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「本を読んでも内容が頭に残らない」方は、ぜひコーネル式ノートを試してみてください。これまでにない充実した読後感を味わえるはずです。
東洋経済オンライン|本を「読んだ端から忘れる人」が知らない記憶
Wedge ONLINE|記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です
Cornell University Learning Strategies Center|The Cornell Note Taking System