「速読したがる人」に欠けている大事な視点。“読むのが遅い” は無理に克服しなくていい。

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「速読」だけでなく「瞬読」という言葉まである昨今、本を読む速度が遅いことに劣等感を抱いている人は決して少なくないはず。

でも、読むのが遅いからといって劣等感を抱く必要はありませんよ。読書スピードが遅いことで劣等感を感じなくてもよい理由と、速読コンプレックスからの解放で得られるメリットについて説明します。

“平均的な読書速度” はじつは遅い?

新日本速読研究会の『ビジネスマンのためのマルチ頭脳活性化ハンドブック―頭の回転を速くする驚異の「速脳術」』(1995年)によると、日本人の平均的な読書速度は1分あたり400字程度。また、インサイト・ラーニング代表取締役の、箱田忠昭氏が2009年に著した『「できる人」のシンプル手帳術』には、日本人の平均的な読書速度が1分あたり600字とあります。

英語ではどうでしょうか。英国心理学協会のWebメディア「Research Digest」の記者であり、神経科学博士でもあるマット・ウォーレン(Matthew Warren)氏は、何年にもわたるさまざまな見積もりによれば、最も平均的な読書速度は1分あたり300語だと説明しています。

しかし、「実際の平均的な読書速度はもっと遅い」と調査もあるそう。ベルギー・ヘント大学のマーク・ブライスベルト(Marc Brysbaert)教授が、1901年から2019年の間に行なわれた190の研究をまとめた結果、成人の平均的な英字の読書速度はノンフィクションで238語/分フィクションで260語/分であると推定できたそうです。

ただし、英語以外の言語に関する研究は少ないため、確固たる結論を引き出すことはできなかったとのこと。とはいうものの、実際の読書速度について、一般的に知られている平均速度の “8割” ぐらいに見積もってもいい可能性が生まれたのは確か。「自分は平均的な速度と比べて読書が遅い」と気に病む必要はないのです。

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スロー・リーディングのいいところ

次に、「読むのが遅い」というコンプレックスを捨てるため、スロー・リーディング(遅読)のいいところを掘り下げていきましょう。スロー・リーディングにおける最も大きなメリットは、この2つです。

  • 本の内容をしっかりと理解できる
  • 本の内容をじっくりと味わえる

1987年とかなり前ではありますが、カナダ・ビクトリア大学のマイケル・マーソン教授(心理学)は、こんな実験を行なったそうです。まず被験者を、

Aグループ:通常スピード群(約240語/分)
Bグループ:スキミング群(約600語/分)
Cグループ:速読群(約700語/分)

の3グループに分けて文章を読ませて理解度を測定しました。テストの結果、速く読んだBグループとCグループは、通常の速度で読むAグループよりも成績が悪かったのだとか。

ただし、この実験が行なわれたのは1987年なので、以後の30年間で速読法はかなり進化したはずです。有益な速読は、内容の理解度は下げず、読書速度だけを引き上げるといいます。つまり、現在の速読法なら、速さは上がっても理解度が下がることはないかもしれませんね。

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スロー・リーディングは感情に届く

スロー・リーディングを提唱する芥川賞受賞作家の平野啓一郎氏は、読法を「旅」にたとえ、こう述べます。

空き時間でザッと見て回るのと(速く読む)、丹念に歩いて回るのでは(じっくり時間をかけて読む)、同じ場所に行ったとしても理解度に大きな差が出る

文章の機微をとらえ、感じ入りながら読む――それが内容への理解度を高め、より記憶に残りやすくなることは容易に想像できますよね。「記憶力日本選手権大会」で4回連続優勝した池田義博氏も、記憶の際、脳は感情が伴った情報を優先すると言います。

また、本の内容に刺激されて読書を中断し、思考を自由自在にめぐらせて、新しいアイデアを浮かばせることもあるでしょう。速読をしていては、文章をすばやく読み進めることばかりに意識が向いて、浮かびかけたアイデアを取りこぼしてしまいそうですよね。

感情に届く速度だからこそ、スロー・リーディングの恩恵は大きいのです。

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本と心身との調和が一番大事

これまでの内容から、スロー・リーディング(遅読)はコンプレックスになるどころか、むしろ有益だとわかりました。しかし、だからといって「速読」が悪というわけではありません

書評家・随筆家の山村修氏は、著書『遅読のすすめ』のなかで、本をじっくりかみしめて読むことによって情景が表れ、呼吸・心拍が整い、心と体がうまくそろうと述べ、読書とは「本と心身とのアンサンブル」だと伝えています。

逆をいえば、仕事で急きょインプットが必要となった本を、アドレナリン全開にして超速で読んだとしたら、それもある意味「本と心身とのアンサンブル」だといえるでしょう。

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何よりも大切なのは、本と心身との調和なのです。

***
平野啓一郎氏は、速読コンプレックスから解放されることが、読書を楽しむ秘けつだと言いました。

したがって、本をよりよく読むコツは「心身との調和であり、速読コンプレックスからの解放で得られるメリットとは「本を楽しめることです。

本と自分のリズムの調和を何よりも大切にして、読書を楽しみ、役立ててくださいね。

(参考)
Research Digest|Most Comprehensive Review To Date Finds The Average Person’s Reading Speed Is Slower Than Previously Thought 
PsyArXiv|How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate
新日本速読研究会(1995),『ビジネスマンのためのマルチ頭脳活性化ハンドブック―頭の回転を速くする驚異の「速脳術」』, PHP研究所.  
箱田忠昭(2009),『「できる人」のシンプル手帳術』, イースト・プレス. 
山村修(2002),『遅読のすすめ』, 新潮社.
平野啓一郎(2006),『本の読み方 スロー・リーディングの実践』, PHP研究所. 
ブックオフオンラインコラム|時間をかけて本を読む「遅読」のメリット|速読をする必要はない?!  
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版|米国で速読ブームが再燃-読書アプリも続々誕生  
タウンワークマガジン|記憶力4回連続日本一の池田義博さんに聞く、誰でも暗記が得意になる超・記憶術

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