社会人である以上、自分の仕事でしっかりと成果を挙げたいものです。そのために何よりも重要なものとして「睡眠」を挙げるのは、スタンフォード大学のアソシエイトディレクター、アスレチックトレーナーという立場で多くのアスリートを指導する山田知生(やまだ・ともお)さん。そして、「一流のビジネスパーソン」には睡眠に関して “ある共通点” があると言います。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
パフォーマンス発揮のために欠かせない「睡眠」
仕事で大きな成果を挙げようと思うのなら、寝る間も惜しんでがむしゃらに働くようなことは絶対におすすめできません。なぜなら、睡眠には心身を疲労から回復させるという重要な働きがあるからです。睡眠不足のまま働き続ければ、脳にも身体にも疲労がたまり、その結果としてパフォーマンスは下がりますから、大きな成果を挙げることなどできるはずもないのです。
つまり、成果を挙げるためにまず重要となるのは、きちんと睡眠をとることになります。そうするための方法にはいくつかありますが、朝に強い光を浴びることもそのひとつです。
私たちの身体は、太陽の光を浴びた15〜17時間後に「メラトニン」という眠気を引き起こすホルモンが分泌されます。仮に朝7時に起きて朝日を浴びた場合、夜の10時から0時頃になると自然にぐっすりと眠れるようになります(『【スタンフォード最新知見】幸福感を得てパフォーマンスを高める「脳コンディション」の整え方』参照)。
また、ただ朝日を浴びるだけでなく、夕方以降に浴びる光のコントロールも良質な睡眠を得るためには重要です。せっかく朝日を浴びたとしても、夜になってもスマホやタブレット、PCなどから強い光を浴び続けてしまうと、臓器などの活動をつかさどる「自律神経」のうち、活動的になっているときに働く「交感神経」が優位になり、なかなか寝つけなくなってしまいます。
仕事を終えてオフの時間になったら、部屋の明かりを暗くして、スマホなどは通知を切って見ないようにしましょう(『本当に仕事ができる人に備わる「自分をオフにする能力」。磨くための簡単な2つの方法』参照)。
睡眠の質向上のために、朝にはとにかく「外に出る」
ただ、これらのことをいかに意識していたとしても、実際にいい睡眠がとれているかどうかは自分ではわからないものです。そこでおすすめするのが、スマートウォッチです。私は時計型ではなく、指輪の形をしたスマートリングを使っています。それらの多くは、「スリープモニター」と呼ばれる睡眠記録機能をもっています。
ある日の私の記録を見てみると、ベッドに横になっていた時間は7時間20分でした。そのうち実際に眠っていたのは7時間10分。横になっていたにもかかわらず眠れていなかった時間はわずか10分ですから、この日はいい睡眠がとれていたと言えそうです。
でも、別の日の記録は、横になっていたのが7時間30分に対して眠れていたのは6時間30分。寝つきが悪かったのか寝起きが悪かったのか、いずれにせよ横になっていながら眠れなかった時間が1時間もありますから、この日の睡眠はいいものではなかったことがわかります。
もちろん、ただこれらの時間を記録するだけでは睡眠の質を向上させることにはなかなかつながりません。そこで、スマートウォッチやスマートリングの「光度計」機能も使ってみましょう。もしかしたら、よく眠れていなかった日には、朝に浴びた光の量が足りなかったのかもしれません。こうして自分の行動をモニターしながら、よりよい睡眠をとることに意識的になってほしいのです。
そして、朝にたっぷりと光を浴びるには、とにかく「外に出る」ことに尽きます。同じ日の同じ時間帯であっても、屋内か屋外かで光の強さは大きく異なります。光の明るさを表すルクスという単位で言えば、私が過去に計測したデータでは、あるの日の朝に窓越しに計測した明るさは3,400ルクスでした。一方、屋外ではなんと11,600ルクス。
メラトニンの分泌量は、日中に浴びる光の量に左右されます。なぜなら、メラトニンの原料である「セロトニン」という神経伝達物質は、日中に強い光を浴びることでその分泌が促されるからです。日中にたくさんの光を浴びてセロトニンが大量に分泌されると、睡眠時に分泌されるメラトニンも増えるのです。そのため、朝はとにかく外に出ることを意識してください。
週末の寝だめは翌週からのパフォーマンスを低下させる
そして、これこそがいわゆる「一流の人」の多くがやっていることだと思います。私が勤めるスタンフォード大学があるのは、シリコンバレー。もちろん、周囲にはGoogle社やApple社など世界的な大企業が林立しており、そこに勤める一流のビジネスパーソンもたくさん住んでいます。
そんな彼ら彼女らの多くが、朝になると近隣のハイキングコースを歩いたり走ったりしているのです。まさにそれは、朝の強い太陽光をしっかり浴びていることを意味します。しかも、彼ら彼女らの多くに共通する特徴として、「平日と休日の差がほとんどない」ことも挙げられます。平日も休日も変わらず、朝にはウォーキングやランニングをしているのですね。
みなさんのなかに、週末になると寝だめしている人はいませんか? 平日と休日の起床時間の差が大きい生活は避けるべきです。たとえば平日は7時に起きている人が、休日には11時まで寝ていたとしたらどうなるでしょう? 体内時計が土日のあいだにずれてしまいます。そのぶん、就寝時刻も後ろ倒しになるでしょう。
でも、また月曜日が来れば朝7時に起きなければならないのですから、それでは十分な休息がとれているとは到底言えません。月曜日からいきなりパフォーマンスが低下した状態で仕事に臨むことになるうえ、普段の体内時計に戻るまで2〜3日かかるために、成果を挙げることにもつながりにくいと言えるでしょう。
重要なポイントは、日頃から朝の太陽の光をたっぷりと浴びること、そして平日と休日の差をつくらないことです。これこそが「一流の習慣」なのだと私は思います。
【山田知生さん ほかのインタビュー記事はこちら】
【スタンフォード最新知見】幸福感を得てパフォーマンスを高める「脳コンディション」の整え方
本当に仕事ができる人に備わる「自分をオフにする能力」。磨くための簡単な2つの方法
【プロフィール】
山田知生(やまだ・ともお)
1966年生まれ、東京都出身。スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター、同大学アスレチックトレーナー。24歳までプロスキーヤーとして活動したのち、26歳でアメリカ・ブリッジウォーター州立大学に留学し、アスレチックトレーニングを学ぶ。同大学卒業後、サンノゼ州立大学大学院でスポーツ医学とスポーツマネジメントの修士号を取得。2000年、サンタクララ大学にてアスレチックトレーナーとしてのキャリアをスタートさせ、2002年秋にスタンフォード大学のアスレチックトレーナーに就任する。スタンフォード大学スポーツ医局にて19年以上の臨床経験をもち、同大学のアスレチックトレーナーとして最も長く在籍。これまでに、野球、男子バスケットボール、男子・女子ゴルフ、男子・女子水泳チームなどを担当している。2007年にアソシエイトディレクターに就任したあとは、臨床開発でスポーツ医局に大きく貢献、同局プログラムのさらなる改革・促進に取り組んでいる。著書に『スタンフォード式 脳と体の強化書』(大和書房)、『スタンフォード式 疲れない体』(サンマーク出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。