新しい企画を出さなければいけないのに、何もアイデアが浮かばない。そもそも、何から手をつけたらいいものやら……。
そんなときに使えるのが、今回ご紹介する「アナロジー」という思考法です。アナロジー思考法を使うと、新鮮なだけでなく、会議で通りやすい「使える」アイデアをスムーズに生み出すことができます。
では、アナロジー思考とはいったいどんなものなのか? どんな風に活用できるのか? 詳しく解説していきましょう。
アナロジーとは「これは何かに似ていないか」と考えること
そもそもアナロジー(analogy)は、古代ギリシャ語のana-(沿って)+logos(論理)が語源であると言われ、日本語で直訳すると「類推」です。三菱重工業代表取締役会長、大宮英明氏は、アナロジーについて以下のように解説しています。
アナロジーとは、あることがらの意味合いを他のことがらへ、類似性に基づいて適用する方法などと説明されますが、要は「これは何かに似ていないか」「何かと共通性はないか」と考えることです。
(引用元:PRESIDENT Online|仕事に革命を起こすアナロジー思考とは -三菱重工業代表取締役会長 大宮英明氏 ※太字は筆者が施した)
たとえば「キャッチボールを楽しむには、相手が捕りやすい球を投げるべきだ」ということを学んだとします。これを単なるキャッチボールのコツに終わらせず、アナロジー思考を使って、ほかの分野に活かしてみましょう。つまり「キャッチボールのコツを、ほかのことにも応用できないか?」と考えてみるのです。
キャッチボール:相手が捕りやすい球を投げるべきだ
→会話:相手のレベルに合わせて話すべきだ
→交渉:相手のニーズを先回りして言葉を選ぶべきだ
→マネジメント:部下の性格に合わせて指導するべきだ
キャッチボールという事例から解釈を発展させ、結果として、「会話」「交渉」「マネジメント」という他ジャンルの学びを得ることができました。このように、ある分野の考え方を応用して他の分野に活かす思考が、アナロジー思考なのです。
アナロジー思考の活用例
アナロジー思考は、新しいアイデアを出したり、問題を解決したりすることに利用できます。
人材育成コンサルタントの清水久三子氏が紹介している例を参考に、アナロジー思考の活用例を見てみましょう。この例では「レストランの利益を向上させる」という問題を、他分野である「1000円の散髪屋」の成功例をもとに類推していきます。
アナロジー思考のやり方は、以下の4ステップです。
【ステップ1:問題を立てる】
まずは、アナロジー思考によって解決したい問題をはっきりさせます。今回の場合は「レストランの利益低迷」が問題ということです。
・問題:レストランの利益低迷
【ステップ2:参考となりそうな成功事例を探す】
次に、問題を解決するにあたり、参考になりそうな事例を探しましょう。あえて別の業界の成功例を持ってくると、新しい視点が生まれやすくなります。今回参考にするのは、1,000円カットの散髪屋です。
・成功事例:1,000円カットの散髪屋
【ステップ3:成功事例を分析し、仮説を立てる】
1,000円カットの散髪屋がなぜ繁盛しているのか分析し、パターン認識して、仮説を立てます。清水氏は、散髪屋の繁盛理由について「1,000円という価格の区切りがいいため」という仮説を立てました。
・仮説:価格の区切りがいいと、店が繁盛する
【ステップ4:仮説を使って問題を解く】
ステップ1で立てた仮説を、自分が抱えている問題に応用します。この場合は、「価格の区切りがいい」という成功要因をレストランに当てはめるのです。
・解決策:500円ランチと1,000円ディナーを始める
以上のように、「区切りのいい価格にする」という、飲食業界だけを観ていたら気づかないようなアイデアを考え出すことができました。あえて他分野からヒントをもらうことで新鮮な視点が得られるのが、アナロジー思考のメリットなのです。
同様に、「Uber」の成功事例を参考にしてみましょう。Uberは、近年注目を浴びている「一般運転手がタクシーのように乗客を運び、対価をもらうことができるマッチングサービス」です。清水氏の分析を参考にして考えると、以下のようになります。
【ステップ1:問題を立てる】
・問題:レストランの利益低迷
【ステップ2:参考となりそうな成功事例を探す】
・成功事例:Uber
【ステップ3:成功事例を分析し、仮説を立てる】
・仮説:空き資産(Uberの場合、一般運転手の時間や車)を有効活用できる点が、ニーズをとらえている
【ステップ4:仮説を使って問題を解く】
・早朝やディナー前などの空き時間をレンタル自習室として提供する
このように、アナロジー思考をうまく取り入れることで、あらゆるものを学びのチャンスに変えることができるのです。
アナロジー思考力を鍛えるには
最後に、アナロジー思考力を鍛える方法を3つご紹介します。
1.謎かけを考えてみる
日本の伝統的な話芸の1つである謎かけ。「Aと掛けて、Bと解く。その心は、C」というのが基本的な型になります。ビジネスコンサルタントの細谷功氏によると、謎かけはAとBの隠れた共通点Cを見つけ出すというアナロジーの遊びであるため、思考のトレーニングになるのだそうです。
たとえば、「生クリームと掛けて、お金と解く。その心は、どちらも“ケーキ(景気)”には欠かせません」という謎かけ。ここでは、生クリームとお金という、一見何の関わりもなさそうな言葉どうしが結びついています。
もちろん、同音異義語を見つける言葉遊びの側面が強いですが、キャッチコピーのヒントを見つけたいときなどに役立つのではないでしょうか。
2.自分の業界との共通点を常に探る
細谷氏は、「自分の仕事や問題との共通点を探そうとするアンテナを、常に張っておくべきだ」と言います。
アナロジー思考を活用するためには、必要以上に個別の事象を特殊視しないことが重要です。ついつい我々は「自分のいる業界は特殊だから」とか、「自分の立場は○○さんとは違うから」という思考に陥ってしまい、経験の積み重ねの少ない人や視野の狭い人ほどこうした落とし穴にはまりがちです。
(引用元:ITmedia エグゼクティブ|「アナロジー思考」――新しいアイデアは「遠くから借りてくる」? (1/3) ※太字は筆者が施した)
先述のレストランの例でいえば、散髪屋の成功を「業界が違うから」と他人事にせず自分事にすることで、新しいアイデアを生むことができました。「どこかに自分の世界との共通点はないか?」と常に意識しておくことで、アナロジー思考のスイッチが入り、気づきのキッカケが生まれるのです。
3.情報を浴びる
前述の大宮氏は、情報をシャワーのようにたくさん浴びることの重要性を説いています。新聞をくまなくチェックするなど、日々生きた情報に接していると、次第にそれらの情報の間に共通点するパターンが理解できるようになり、頭の中で整理されていくのだそうです。
たとえば、“厚労省の不正統計問題” と “吉本芸人の闇営業問題” は一見無関係のニュースですが、「身内同士だとつい倫理観が甘くなってしまう、日本人的体質」という共通項を持っているのではないか、と考えることができます。このように、一見関連がなさそうな情報も深読みすることで、個別の事例にとどまらない一般性のある学びを得ることができるのです。
また、アナロジーを使うには、もととなる成功事例を知っている必要がありますから、その観点からも、多くの情報を知っておくに越したことはないでしょう。
***
アナロジー思考の概要と、その実践方法を解説しました。アイデアに煮詰まったとき、新しい視点が欲しいときなどには、ぜひ活用してみてくださいね!
(参考)
コトバンク|アナロジー
Wikipedia|類推
PRESIDENT Online|仕事に革命を起こすアナロジー思考とは -三菱重工業代表取締役会長 大宮英明氏
東洋経済オンライン|考えが「浅い」と言われる人が知らない思考法
ITmedia エグゼクティブ|「アナロジー思考」――新しいアイデアは「遠くから借りてくる」? (1/3)
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。