向上心があるビジネスパーソンなら、洞察力や問題解決の能力、創造力など、あらゆる能力を高めてレベルアップしたいと思うはず。もちろん、それは積極的に知識を増やし、常にチャレンジすること、また、経験と失敗、改善を重ねることで、自ずと成されていくでしょう。
そのうえで、まだ何かいい方法があれば取り入れたいと考えるならば、「明晰夢」を誘引してみてはいかがでしょう。さまざまな研究から、新たなことが発見されています。さっそくご紹介しましょう。
夢が仮想現実になる「明晰夢」とは?
夢を見ているとき、「あ、これは夢だ」と気づくことはありませんか? 夢だと自覚しながら見ている夢を「明晰夢(Lucid dreaming)」といいます。面白いことに明晰夢を見たことがある人は、夢の中の状況を自分でコントロールできると語ります。
“たびたび”というほどではありませんが、筆者にも経験があります。悪党に囲まれている状況で夢だと気づくと、「現実ではないから自分に都合よくできる」と感覚的に察知するのです。すると、完璧に取り囲まれているにもかかわらず、スルリスルリと悪党の手から逃れたり、映画のスーパーヒーローのように手から強力な風を起こしたりと、都合のいい展開に運んでしまいます。
また、低空を飛んでいる夢を見ていて夢だと気づくと、「現実じゃないから、もっと高く飛べるはず」と察知します。すると、徐々に高度が上がっていくのです。そうなると不思議にも、なおさら「これは夢だ」と実感します。
まるで映画の主人公になったみたいに「楽しめる」という利点もありますが、実はそれだけではありません。なんと、潜在的なメリットをもたらしてくれるようなのです。
明晰夢が認知機能を高める?
何度も繰り返し明晰夢を見る人は、問題解決力や洞察力といった認知機能が優れていると、英リンカーン大学の心理学者らが2014年6月に発表したそうです。2010年にスポーツ心理学誌において掲載された小規模な研究においても、興味深いことが示されています。
研究チームは明晰夢を見る人に対し、「寝る前に20回コーヒーカップにコインをトスして入れ、就寝し、睡眠中にも自分が練習していることを夢見るように」と指示したそう。そして翌朝、明晰夢を見ない人も加え、再びコインをカップに入れてもらうと、
A 夢の中でトスを成功したグループ B 夢の中でトスを失敗したグループ C 明晰夢を見ないグループ
の3グループのうち、Aの「夢の中でトスを成功したグループ」が、一番正確にコインをカップに入れることができたそう。
明晰夢の研究を行うスイス・ベルン大学スポーツ科学研究所のダニエル・エルラッハー教授によれば、明晰夢を見る人は、創造力を高めたり、問題を解決したり、身体能力を高めたりするために、そのテクニックを利用しているのだとか。
だからといって、ときおり空を飛ぶ明晰夢を見る筆者が「ついに空を飛べました!」ということにはならないし、何か問題にぶつかったとき、夢の中のようにスーパーパワーでなんとかなるといったこともないでしょう。しかし、もしもプレゼンテーションや面接、スポーツなどの明晰夢であれば、いかがでしょう。かねてイメージトレーニングの有効性が伝えられていますが、これこそ究極の仮想現実によるイメージトレーニングではないでしょうか。
では、どうしたら「明晰夢」を見ることができるのでしょうか。
「明晰夢」を見やすくする方法 1
アデレード大学心理学科の客員研究員デンホルム・アスピー氏らが、2017年にDreaming誌で発表した研究結果では、ある方法で明晰夢を見る機会を増やすことが可能だと示しています。その方法とは、明晰夢導入手続きのこと。Mnemonic Induction of Lucid Dreamsの頭文字をとって「MILD」と呼ばれています。具体的な方法は
1.睡眠5時間でいったん起きる 2.「夢を記憶する」と何度も唱え、見ていた夢を思い出す意識を高める 3.明晰夢を見ている自分を思い描く 4.2と3を行ったら再び就寝する
というもの。MILDを実施して5分以内に眠りにつくことができた人は、成功率が46%近くに達したとのこと。これまでの明晰夢誘引法は成功率がかなり低かったそうなので、これは大きな成果です。この方法は、 将来行うことを記憶する能力「展望的記憶」に対して働くのだそう。アスピー氏は、こうした行動で「夢を記憶しようとする意思が形成され、明晰夢につながる」と話しています。
「明晰夢」を見やすくする方法 2
もうひとつ、明晰夢誘引の助けになりそうな方法があります。それは、夕食で意識的にビタミンB6を摂取すること。アデレード大学のアスピー氏らによる新しい研究(2018)では、就寝前に摂取するビタミンB6が、見た夢を鮮明に思い出すことに役立つと分かりました。
このような研究が、約100名の参加者という大規模かつ多様な人々のグループで行われたのは、初めてなのだとか。そして、プラセボ=偽薬による対象試験を行ったこの研究によって、「ビタミンB6が夢を呼び戻す能力を向上させる」と示されたとのこと。
明晰夢を見るようになるには、夢を想起させることが非常に重要だといわれています。つまり、就寝前のビタミンB6摂取が、明晰夢の誘引を助けるひとつの方法だと示唆されたわけです。
ビタミンB6は、全粒穀物、マメ科の植物(豆類やインゲン、えんどう豆など)、バナナやアボカド、ホウレンソウやジャガイモ、ミルク、チーズ、卵、赤肉、レバー、魚など、さまざまな食品に含まれているので、「ジャンクフードだけを食べて就寝する」を避けるだけでも、グンと明晰夢に近づけるかもしれません。
*** MILDで明晰夢を成功させた人は、睡眠不足にはならなかったそう。つまり、MILDは睡眠の質を下げないということです。よろしければ、ぜひお試しください。
(参考) 科学検定|【科学ニュース】明晰夢はトレーニングで習得可能! WSJ|明晰夢の利点―覚醒時の能力向上に利用 The University of Adelaide|Want to remember your dreams Try taking vitamin B6 Study Hacker|成功したいならイメージ力を磨け! ほんとうに効果のあるイメージトレーニング4つのポイント Wikipedia|明晰夢