皆さんは誰かを本気で応援したり、本気で成功を祈ったことはありますか?
こうして期待をかけることは、残念ながら結果には直接影響を与えることはありません。しかし、この「期待する」という行為には、結果をも左右するほどの驚くべき心理的な効果があります。それがアメリカの教育心理学者が提唱した「ピグマリオン効果」と呼ばれるものです。今回はこの「ピグマリオン効果」による「期待と成果」のお話です。
ピグマリオン効果とは?
ピグマリオン効果とは、1964年にアメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された、「人間は期待された通りの成果を出す傾向がある」という説のこと。キプロスの王ピグマリオンが自分で彫った象牙の女性像を愛し続けた結果、彫像が本物の人間の女性になったというギリシア神話にちなみ、ピグマリオン効果と名づけられたそうです。近頃では、少女漫画「青空エール」の中で、主人公の大介がヒロインのつばさを勇気づける言葉として登場し、話題となりました。
「ピグマリオン効果」って知ってる? 人は期待された通りの効果を出す傾向があるんだって。 ローマ時代に王様が人形に恋して、その人形が人間になったって神話がもとなんだって。 自分じゃなくても、他の誰かが信じる事でも結果は出るんだって。 俺はお前はやれるって信じてるよ。 (引用元:「青空エール」1巻|河原和音著|集英社)
この効果には、興味深い実験があります。
「成績の優秀な生徒を集めたクラス」と「成績の悪い生徒を集めたクラス」を作り、それぞれのクラスの担任に逆のことを伝えました。「成績の良い生徒のクラス」の担任には「あなたのクラスは成績の悪い生徒のクラス」だと伝え、「成績の悪い生徒のクラス」の担任には「あなたの担当するクラスは成績の良い生徒のクラス」だと伝えて、それぞれのクラスを指導させたのです。その結果、「成績の良い生徒のクラス」の成績は下がり、「成績の悪い生徒のクラス」の成績は上がりました。
期待がモチベーションを引き出す
上述したピグマリオン効果の実験では、教師が生徒に対して期待を持って指導したため、生徒がその期待に応えようとしたことが大きく起因したと考えられます。すなわち、モチベーションに差異が生じたのです。「あなたたたちは優秀な生徒です。成績はもっと伸びます。」と応援してもらった生徒と、「君たちは落ちこぼれだから、どうせ次のテストもダメだろう」と言われた生徒では、どちらがやる気をもって学習に取り組むかは明白です。
また、期待を表すのは言葉だけとは限りません。むしろ、言葉ではない要素によって期待が伝わるとき、相手は偽りのない期待だと思い、よりその期待に応えたいというモチベーションが引き出されます。
人はコミュニケーションにおいては、「言葉以外の非言語な要素で話し手の93%の印象が決まってしまう」と言われています。 言葉よりもそれ以外(表情、しぐさ、視線、声の質、テンポなど)の部分により大きな影響を受けるということです。 (引用元:モチベーションアップの法則|ピグマリオン効果)
実験で良い成績をあげた生徒たちも、教師の言葉だけでなく態度からも嘘のない期待を読み取り、それによってモチベーションが高まったのだと考えられます。
一方、成績が落ちてしまった生徒たちのように、誰かに対して良い期待をかけず、ネガティブなメッセージを与えることで本当に悪い結果が出てしまうことを、「ゴーレム効果」といいます。この心理作用のもとでは、モチベーションが減退させられることで、本来のパフォーマンスすら発揮できなくなってしまうこともあるのです。
ピグマリオン効果とゴーレム効果に見る「期待と成果」の関係から、誰かに対して、応援の気持ちや成功を祈るメッセージを伝えることは、相手のモチベーションを高めることにつながり、良いパフォーマンスを引き出すことにつながると言えるのです。
ただし、過度な期待を押し付けてしまうと、かえってプレッシャーとなってしまい逆効果になりかねません。本気で期待しているときほど、意識せずとも気持ちは伝わっているものです。時には相手を思いやりそっとしておいてあげることも大切ですね。
*** いかがでしたか? 家族や身近な人の中で、これから受験や就職活動などを控える人がいる方も少なくないでしょう。ぜひ相手を気遣いながら、このピグマリオン効果を信じてみてはいかがでしょうか。またあなた自身も、誰かの期待に応えようと頑張ることで、思った以上の結果を得ることができるかもしれませんよ。
(参考) モチベーションアップの法則|ピグマリオン効果 All About|期待を込めれば人は伸びる「ピグマリオン効果」 「青空エール」1巻|河原和音著|集英社 (2008)