最小限の努力で高い評価を得て、プライベートも充実させたい。誰しも、「ラクして速く」仕事を終えたいのが本音でしょう。
そのコツを聞いたのは、『ラクして速いが一番すごい』(ダイヤモンド社)という、そのままずばりの著書がヒットしている松本利明(まつもと・としあき)さん。大手外資系コンサルティング会社を渡り歩き、数多くの優秀な人材を目の当たりにするなかでたどり着いた、「ラクして速く」仕事を進める極意とはどんなものでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子
向いている仕事だけをして、苦手な仕事は得意な人にお願いする
これまで長くコンサルティングに関わってきたなかで、リーダー候補を選抜・育成するということも行なってきました。そのなかで気づいたのは、どんなに優秀でも「なにもかも完璧という人はいない」ということ。
それでも、会社には高く評価されている人がいますよね。では、どんな人がそうなるかというと、けっしてスーパーマンというわけではなく「自分に向いている仕事をしている人」が該当します。得意な仕事をしているから、「ラクして速く」仕事を進められ、周囲の評判もどんどん上がっていくというわけです。
とはいえ、苦手な仕事が回ってくることもあるでしょう。そういうときは、それが得意な人にお願いしてしまえばいいのです。
誰しも得意不得意があります。わたしは細かい作業が苦手でチェックが甘いタイプ。請求書のゼロの数を間違うなんてこともやってしまうほどです(笑)。瞬間的に記憶することも苦手ですから、立ち食いそば店に勤務していたら注文のミスもしてしまいそう。おそらくすぐにクビになるでしょうね。でも、ものごとを概念的に大きく捉えたり、新しいコンセプトをつくったりするのは得意という一面もある。
そういうふうに、自分はもちろん、他人の得意不得意も把握して、苦手な仕事は周囲の人にやってもらいましょう。
周囲に仕事をお願いするときにはいくつかコツがあります。まずは得意不得意を含めて相手の「キャラクターを知る」こと。そして、相手は「キャラクター」なのですから「あきらめる」「割り切る」ということも重要でしょう。
『西遊記』の猪八戒に孫悟空が如意棒を渡して「使え!」と言ったところで、使えるわけがありません。相手を変えようだとか、思った通りに動かそうと思ったところでキャラクターは変わらないものです。キャラクターに合っていて、しかもその人の評判が上がるような仕事をお願いすれば、角を立てずに「ラクできる」のです。
それから、「空・雨・傘」という考え方も重要ですね。きちんと「報・連・相」をしているのに周囲との仕事がうまく回らないというときは、たいていどこかにそれぞれの認識のちがいがあるものです。それを回避するのが、「空・雨・傘」。
「空を見ると曇ってきた(事実)。雨が降りそうだから(洞察)、傘を持っていこう(打ち手)」と覚えてください。 ↓ 「事実を伝えるときに(空)、どうなりそうか(雨)。ゆえにどんな行動をすればいいか(傘)」
上記のようにして、セットで相手に伝えるのです。
恋人同士が花火大会に出かけたとしましょう。彼氏が「綺麗だね」と言っても、花火が綺麗なのか、星が綺麗なのか、それとも浴衣姿の彼女が綺麗なのか、その言葉だけではわかりません。それでも、恋人同士なら「そうだね」となんとなく通じ合い、なんの問題もないでしょう。
ですが、ビジネスの場ではそういうわけにはいかない。同じ「空」を見て認識を共有しているつもりでも、見ている部分がちがう場合もあります。きちんと事実を伝えないと、指示やお願いの受け取り方がちがってしまい、大きな問題に発展することもあるのです。ただ仕事をお願いするだけでは駄目。自分やチームが置かれている状況がどうなのか、どうなりそうなのか、なぜその人にその仕事をお願いしたいのか、それらを正直に伝えましょう。
妙な駆け引きなどはするべきではありません。「相手の行動を真似たら親近感を覚える」といった交渉テクニックを解説した本も数多く出回っています。ただ、交渉の専門家か詐欺師でもない限り、そういったテクニックは意味がないと言っていいでしょう。人の気持ちを操ろうなんて思うと、だいたい失敗します。「真正面から素直に」お願いすべきですね。
優秀な人から「普通の人とのちがい」を聞き出す
ラクして速く仕事を終えるには、周囲に仕事をお願いすることのほか、当然、自分の仕事も速く進めなければなりません。それができない人の多くは、仕事を「速く終える」ことと「すぐにやる」ことを取り違えています。そういう人は、真面目で一生懸命ゆえに仕事を頼まれた瞬間に全力投球ではじめる。でも、なにも段取りができていないから、ミスが起きたり手戻りが発生したりと、結局は「ラクせず遅く」なるのです。
優秀な人は、速く終えるための計画を練ることからスタートします。とはいえ、ただ計画を練るだけでも意味はありません。こうすればうまくいくという「成功の要因」を計算しておく必要があります。そうでなければ、計画通りに進まなかった場合、結局「ただ一生懸命に頑張る」ということになってしまいます。オセロで言えば、目の前の駒をひっくり返すことばかりに集中するという状況です。
そうではなくて盤上の四隅を押さえる、つまり「要所を押さえる」のです。仕事というのは、すべてにおいて完璧を求められるわけではありません。真面目で一生懸命な人ほど完璧を求めますが、それは自分だけのこだわりという場合も多いもの。どこに力を入れるべきなのか、要所を押さえることが重要です。それができないと、ただの「手抜き」ということになりますからね。
とはいえ、そういう眼力を養うのはそう簡単なことではありません。では、どうするか。答えは簡単です。優秀な人に聞いてしまいましょう。「カンニングは駄目」と言われるのは学生のときまでです。
ただ、「この仕事をうまくやるにはどうすればいいですか?」という聞き方では30点というところ。「普通の人とどこがちがうんですか?」と聞きましょう。普通の人には優秀の人とのちがいがわかりませんが、優秀な人は「自分のやり方が普通の人とどうちがうか」がわかっています。ただ、普段から意識しているわけではないので、あえて聞かないと言葉に出てこないのです。
「ラクして速く」仕事を進めるための大きなポイントは、自分に向いている仕事をして「苦手な仕事は得意な人にお願いする」こと。そして、自分の仕事を速く終えるために「優秀な人に普通の人とのちがいを聞く」こと。つまりは、周囲の人をうまく使うことに尽きるのかもしれませんね。
【松本利明さんのほかのインタビュー記事はこちら】 無駄な仕事はとことん切り捨てる! ラクして速く仕事を終わらせるための「捨てる技術」 1週間の予定を月曜日に立ててはいけない理由とは?――時間に追われない「賢い仕事術」
【プロフィール】 松本利明(まつもと・としあき) 1970年12月12日生まれ、千葉県出身。人事・戦略コンサルタント。HRストラテジー代表。外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサージャパン、アクセンチュアなどを経て現職。これまでに5万人以上のリストラをおこない、6000人を超える次世代リーダーや幹部の選抜・育成に関わる。そのなかで「人の持ち味に合わせた育成施策をおこなえば、ひとの成長に2倍以上の差がつく」ことを発見。体系化したそのノウハウを数多くの企業に提供し、600社以上の人事改革と生産性向上を実現する。著書に『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)もベストセラー。新刊は『5秒で伝えるための頭の整理術』(宝島社)』など。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。