学びたいという気持ちはあっても、なぜか続かない――。学びに割ける時間が限られた社会人なら、そのような経験があるのではないでしょうか。そこで、ベネッセコーポレーションで社会人向けリスキリング事業の責任者を務める飯田智紀さんに、学びを継続するためのポイントを聞きました。その鍵は、「自己効力感」にあると言います。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
飯田智紀(いいだ・とものり)
1983年生まれ。株式会社ベネッセコーポレーション執行役員。社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)。ソフトバンクグループ株式会社にて経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。2015年9月にベネッセコーポレーションに入社。2018年4月よりUdemy事業を中心とした社会人向けリスキリング事業の責任者となり、2024年4月より現職。
※(株)ベネッセコーポレーションは、日本におけるUdemy社の独占的事業パートナーです。
小さな目標を設定して成果を出してこそ、「自分にはできる」と思える
学びとは、基本的に長い時間をかけて行なってようやく成果につながるものです。そういう意味では、継続することがなによりも大きなポイントとなると言えるでしょう。学びの継続のために大切な要素はたくさんありますが、「自己効力感」もそのひとつです。
自己効力感とは、「目標を達成するための能力を自らがもっていると認識する」ことを指し、端的に言えば「自分にはできる」「きっとうまくいく」という感覚です。逆に、「自分にはできない」「うまくいかない」と思っている人が意欲的に学び続けられるでしょうか? 答えは「NO」です。
実際、私たちが約1,000人の社会人を対象に行なったリスキリングに関する調査では、リスキリングに向かえない理由のひとつとして、自己効力感の低さが見えてきました。加えて、自己効力感をもって学びを継続している人たちの学び方には、以下のような3つの共通する特徴があることもわかったのです。
- 目標を設定し、必要に応じて修正する
- 無理なく、少しずつレベルアップする
- アウトプットを重視する
1つめは、「1. 目標を設定し、必要に応じて修正する」という特徴です。「とにかく学ばなければならない」と、目標をもたずにやみくもに学びを始めたところで、それは行き先や手段も定めずに旅に出かけるようなものですよね。ですから、いずれ旅をやめてしまうのは目に見えています。「なぜ学ぶのか」「どう学ぶのか」といった目標を設定してこそ成果につながりますし、成果が出るからこそ「自分にはできる」という自己効力感も育まれていくのです。
また、旅にも学びにも想定外のトラブルはつきものです。そこで最初に定めた目標に固執してしまうと、「これは難しい」と投げ出してしまいかねません。ですから、必要に応じて柔軟に目標を修正することも不可欠です。
アウトプットをすることで、よい循環が生まれる
その目標設定にも関わることですが、「2. 無理なく、少しずつレベルアップする」というのも、自己効力感をもって学びを継続できる人の特徴です。壮大な目標を立ててしまうと、「これは大きな壁だ……」と感じてしまい、スタートする前に「自分には無理だ」と諦めてしまいかねません。
「バイトサイズ(bite-size)」という言葉がありますが、日本語で言えば「ひと口大」になるでしょうか。たとえば、大きな象をどう食べるかというのを想像してみてください。そのまま丸焼きにして食べるのは難しいですよね。ただ、ひと口大に切り分けるといったように、少しずつ処理していくことができます。学びにもその感覚で臨んでほしいと思います。
小さな目標を少しずつクリアしていくことで、「やり遂げた」という小さな達成感を積み重ねていくことになり、それが日々の学びを継続するためのエネルギーとなってくれます。
最後は、「3. アウトプットを重視する」という特徴です。資格を取得するなど学びによってスキルを得たところで、それを活かしたアウトプットをしなければ、質を上げるのは難しく、なにができるようになったのかも見えづらくなります。
一方で、アウトプットをすればそれ自体が成果ですし、さらに繰り返し行なえばアウトプットの質の向上にもつながります。アウトプットの結果、失敗に終わることもあるでしょう。でも、他者からフィードバックされることで、初めてわかることもあります。これは、アウトプットしなければ絶対に得られないものです。
あるいは、アウトプットの結果、大きな達成感を得られたり、そのアウトプットにより他者から感謝をされたりすることもあると思います。それらはそのまま、次なる学びへのモチベーションとなってくれるものです。
新たに学びたいことに出会ったら、途中で切り替えてもいい
このように学びを継続できる人も、場合によってはなんらかの問題に直面することもあります。社会人にとっては、「Aについて学んでいるうちにBについて学びたくなったが、両方を学ぶ時間は確保できない」といったこともよくある悩みです。
もしAが、現在進行形で携わっている仕事にどうしても必要なものであれば、やはりAについてきちんと学び通すべきでしょう。でもAが、自らの興味関心から自発的に学んでいるようなことであれば、いったんAをやめてBを学んでいいと思うのです。そうしてBを学んでから必要ならばAに戻るといった、軽いスタンスでかまいません。
そもそも、Bのことがすごく気になりながらもAを学び続けるのは精神衛生上もよくありませんし、集中力だって削がれて当然です。そうすると、Aの学びの成果もなかなか出ないのではないでしょうか。
また、「せっかくAを学んできたのだから、最後までやらなければこれまでの時間や労力が無駄になる」という、いわゆる「サンクコスト(埋没費用:事業や行為に投下した資金や労力といった投資のうち、事業や行為の撤退・縮小をしても戻ってこない投資)」の意識がこの悩みの裏にあることもあります。
でも、考えてみてください。Aを学んでいたからこそ、その周辺にあったBという本当にやりたいことに出会ったのなら、それまでのAの学びは決して無駄な投資などではなく、大いに意味のある投資と言えるはずです。
【飯田智紀さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。