「あの時、決断していれば…」 後悔先に立たず。ビジネスチャンスは、一瞬の判断で、大きく変わります。
しかし、「決められない」「先延ばしにしてしまう」という悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか? それは、あなたの能力不足ではなく、「決定回避の法則」という脳のメカニズムが原因かもしれません。
この記事では、多くのビジネスパーソンを悩ませる「先延ばし癖」の正体を、社会心理学の実験結果を交えながら解説。さらに、先延ばしの癖を克服し、迅速な決断でチャンスをつかむためのトレーニング法を紹介します。
今日からあなたも「決められる人」に変身し、ビジネスを成功へと導きましょう。
- 「先延ばし」の裏に潜む「決定回避の法則」
- なぜ決められない? 「決定回避の法則」が働くメカニズム
- ジャムの実験:選択肢が多いと売れない?
- 「決定回避の法則」が招く、機会損失
- 「決定回避の法則」を克服する、5つのステップ
- 「選択肢を減らす」ことが、チャンスを生む
「先延ばし」の裏に潜む「決定回避の法則」
ビジネスで成功を収めるためには、迅速な意思決定が不可欠です。
しかし、現実はどうでしょう? 会議で意見を求められても、すぐに答えられない。重要な決断を先延ばしにし、タイミングを逃す。そんな経験、あなたにもありませんか?
じつはそれ、あなたの性格の問題ではなく、「決定回避の法則」(選択過剰、決定麻痺)という人間の性質が原因かもしれません。
人は選択肢が多すぎると、決定を先延ばしにしたり避けたりする傾向がある、というこの法則。仕事、特にビジネスの場面で、多くの「機会損失」を生んでいる可能性があります。
なぜ決められない? 「決定回避の法則」が働くメカニズム
なぜ、人は選択肢が多いと、決められなくなってしまうのでしょうか? そこには、以下のような、脳の働きが関係しています。
決定回避が起こる4つのメカニズム
選択肢を吟味する際、脳は大量のエネルギーを消費。選択肢が多いほど疲労が蓄積し、判断力が低下します。
人は損失を避けることを優先する傾向があります。「ほかの選択肢の方がよかったかも」という後悔を恐れ、決定を先送りにしてしまいます。
選択肢が増えるほど比較検討すべき情報も増加。情報処理の負担が限界を超え、思考が停止してしまいます。
選択肢が多いほど「最善の選択」へのプレッシャーも増大。完璧を求めすぎることで、かえって決断が難しくなります。
これらの要因が複雑に絡み合い、「決められない」状態を引き起こしているのです。
ジャムの実験:選択肢が多いと売れない?
社会心理学者のシーナ・アイエンガー教授による実験です。スーパーマーケットの試食コーナーで、ジャムの種類を変えて検証しました。
- 実験1: ジャム24種類を陳列
- 実験2: ジャム6種類を陳列
結果は興味深いものでした。24種類の方が多くの人が立ち寄りましたが、実際の購入は6種類の方が10倍も多かったのです。
つまり、選択肢が多い方が人の関心を惹きやすいものの、選択肢が多すぎると購買意欲を低下させ、「決定回避」を引き起こしてしまうということがこの実験から明らかになりました。
これは「選択のパラドックス」と呼ばれ、アイエンガー教授の著書「選択の科学」でも詳しく解説されています。
「決定回避の法則」が招く、機会損失
「決定回避の法則」は、ビジネスパーソンにとって、大きな「機会損失」をもたらす可能性があります。
- 仕事でのチャンス損失
転職、昇進、起業など、重要な機会を「決められない」ことで逃してしまいます。ビジネスでは即断が求められるため、この損失は致命的です。 - 時間とエネルギーの浪費
延々と悩み続けることで、貴重な時間と精神力を消耗。決断できないことでストレスが蓄積し、仕事の生産性も低下します。 - 日常生活の質の低下
食事や買い物など、些細な選択にも過度に悩むことで、不必要なストレスが発生。本来なら楽しめるはずの日常が苦痛に変わってしまいます。
「決められない」ことが、いかに大きな「機会損失」につながるか、お分かりいただけたでしょうか?
「決定回避の法則」を克服する、5つのステップ
では、どうすれば「決定回避の法則」を克服し、「決められる人」になれるのでしょうか?
決定回避が「選択肢の多さ」によってもたらされるのですから、基本は選択肢を減らすこと。そのような環境の整備から始めていくことで、段階的に「決める力」は身に付いていきます。
- 「選択肢は多ければいい」という思い込みを捨てる
- 選択基準をあらかじめ決める(価格、納期、機能など)
- 完璧を求めすぎず、「十分よい」選択を目指す
- 情報収集に時間制限を設ける
- 日常の些細なことから練習(メニュー選び、メール返信など)
- 小さな決断の積み重ねで決断力を鍛える
- 自分なりの決断ルールを決める(「迷ったら直感を信じる」など)
- 「型」で意思決定のスピードと精度を高める
- 決められない時は客観的な意見をもらう
- 第三者の視点で選択の質を高める
「選択肢を減らす」ことが、チャンスを生む
選択肢をあえて「減らす」ことは、ただ決断をラクにするだけではありません。むしろ、よりよい結果につながることが多いのです。なぜなら、選択肢が少ないほど各オプションを深く検討でき、本質的な部分により多くの時間と労力を注ぐことができるから。その結果、表面的な比較ではなく、質の高い意思決定が可能になります。
ここでは、日常の場面で、「選択肢を減らす技術」を、どのように応用できるか、具体的な方法を提案します。
ビジネスシーン別・選択肢の「減らし方」の例
アジェンダと論点を絞り込むことで、効率的な進行と迅速な意思決定を実現
メッセージを3つ以内に絞り、簡潔にまとめることで説得力のある資料に
ターゲットと機能を明確に絞り込み、ユーザーニーズに合致した製品を開発
「選択肢を減らす」習慣は、まず簡単なことから始めるのがコツです。
たとえば朝の服選びを前夜に済ませたり、ランチの選択肢を3つに限定したりするところから。これらの小さな実践が定着してきたら、メール確認の頻度を決めておくなど、仕事の場面でも選択の幅を意識的に制限していきます。
習慣化のポイントは、無理のない範囲で継続すること。小さな決断での成功体験を重ねることで、より重要な場面での決断も自然とできるようになっていくはずです。
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「決定回避」は誰もが経験する自然な心理現象です。この傾向を理解し、適切な対処法を知ることで、よりすばやい決断ができるようになります。
選択肢を減らすなどの具体的な技術を身につければ、ビジネスの意思決定もよりスピーディーに。結果として、より大きな成果へとつながるはずです。
今日から、即断即決の習慣づくりを始めてみませんか?
シーナ・アイエンガー 著、櫻井祐子 訳|選択の科学(文藝春秋 2010)
大谷佳乃
「なぜ?」という疑問を大切に、日常に潜む人とモノとの関係性を独自の視点で読み解くライター。現在は、私たちが何かを選ぶときに働く「見えない力」に注目し、そのメカニズムを探求中。休日は、古書店で先人たちの知恵に触れるのが、自分にとっての「特別な時間」。