当サイト『STUDY HACKER』の記事をはじめ、ビジネス関連の記事のなかには、「書く」ことを推奨する内容のものも数多くあります。では、そもそも「書く」ことのメリットはどんな点にあるのでしょうか。
お話を聞いたのは、習慣化コンサルタントとして多くのビジネスパーソンをサポートし、著書『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』(ダイヤモンド社)を上梓した古川武士(ふるかわ・たけし)さん。そのメリットとあわせて、世のなかにあふれる「書く」メソッドのなかから自分が身につけるべきものを選ぶ条件についても、解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
「書く」と思考を整理できて、やるべきことが明確になる
その目的が何かにもよりますが、「書く」ことの大きな効果は、「思考を整理できて、やるべきことが明確になる」点にあると私は考えています。
「考える」場合、どうしても「頭のなかで」考えるというイメージが先行します。ところが、頭のなかだけで考えようとすると、どうしても「あちらを立てればこちらが立たぬ」「この方法ではこんなメリットがあるけれど、こんなデメリットも出てきてしまう」など、互いにぶつかり合うような、さまざまな異なる考えが浮かんで頭のなかが混乱してしまいます。
なぜなら、頭のなかだけで考えているうちに思考が広がりすぎて、そもそもの考える「目的」を見失いがちだからです。ところが、紙に書き出して考えればそのようにはなりにくい。
たとえば、ある総務部員が、「社員の生産性が上がるようにオフィスのレイアウトを変更してほしい」と指示を受けたとします。頭のなかだけで考えると、先の例ではありませんが「このレイアウトだとAさんにはいいかもしれないが、Bさんからは苦情を言われそうだ」のような考えがいくつも浮かんで、迷い悩んでしまいます。
でも、紙に書き出すとどうでしょうか? まず、「社員の生産性が上がるレイアウトを考える」と目的をはっきりと書き出します。そうすれば、その目的を見失うことはなくなるでしょう。そして、オフィスのキャパシティーや必要なデスクの数といった条件も書き出します。どんなに理想的なレイアウトを考えたところで、その条件内に収まらなければ実現できないのですから、それらの条件は絶対条件です。
すると、「いくつかの絶対条件を満たすレイアウトのなかで、最大公約数的になるべく多くの社員の生産性が上がるレイアウトを見つける」とやるべきことが明確になります。そのため、誰かひとりの社員から苦情が出るのを恐れることなく、「これがいま実現できるベストだ!」とレイアウトを見つけられるでしょう。このように、「思考を整理できて、やるべきことが明確になる」ことに「書く」行為の最大のメリットがあるのです。
身につけるべき「書く」メソッドにある、ふたつの条件
そして、そのメリットは、仕事だけにおいて力を発揮するものではありません。私は、著書『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』(ダイヤモンド社)において、「放電・充電日記」を通じて「心、生活、人生を整えて自己実現する」ことを提案しています。いわば、「人生を変える」ということです。それができるのも、「書く」行為に「思考を整理できて、やるべきことが明確になる」効果があるから。
ただ、「書く」ことに大きなメリットがあるからといって、なんでもかんでもただ書き出せばいいわけではありません。世のなかには、多くの「書く」メソッドが存在します。それらのなかから自分が身につけるべき「書く」メソッドには、ふたつの条件があると私は考えています。
ひとつは、「自分と相性が合っている」こと。放電・充電日記の詳細については次回の記事に譲りますが(『心のもやもやを晴らすシンプルな方法。正直に「好き・嫌い」で分けるだけでいい』参照)、その放電・充電日記もすべての人に合うわけではないでしょう。
自分と相性が合わないことを無理にやろうとすると、どうしてもストレスを感じてしまうもの。そのため、結局はやらないということになってしまいますし、たとえ始めてみたとしても長続きしにくいのです。
「やり方」が決まっているメソッドのほうが、「書く」ことに集中できる
それから、身につけるべき「書く」メソッドのもうひとつの条件は、「やり方が決まっている」こと。その反対に「自由度が高い」というといいことのように感じるかもしれませんが、やり方、手順が決まっていないと迷ってしまうのも、人間がもつ特徴のひとつです。
たとえばトレーニングをしようとジムに行ったとき、いろいろな器具が並んでいますよね。そこで「自由にトレーニングをしてください」と言われても、初心者なら何をしていいのか迷ってしまうでしょう。
でも、「これだけやっておけばいい」とトレーナーに指示をされたらどうでしょうか? 迷うことなくトレーニングに集中できますよね。「書く」メソッドにも、まさに同じことが言えるのです。
もちろん、なかには「自由度が高い」手法のほうが「自分と相性が合っている」人もいるでしょう。そういう意味では、とにかくいろいろな「書く」メソッドを「試してみる」ことがいいかもしれません。
ただ、そうするなかで、「これが世のなかでいいと言われていることだから、やらなければならない」といった気持ちで試すのではなく、あくまでも「これは自分と相性がいいだろうか」という視点をもって試すことを心がけてほしいと思います。
【古川武士さん ほかの記事はこちら】
「習慣化」が仕事力を上げる——習慣化コンサルタント・古川武士さんインタビュー【第1回】
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【プロフィール】
古川武士(ふるかわ・たけし)
1977年生まれ、大阪府出身。習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの現場から「習慣化」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術をもとに、個人向けの習慣化講座、企業向けの行動変容・習慣化研修を行なっている。真の自己実現の鍵は書くことであると考え、著者自身の経験と豊富なコーチング経験から、「感情ジャーナルメソッド」を開発。活用した体験者から「人生が変わった!」「やりたいことが見つかった!」という声が寄せられている。『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』(ダイヤモンド社)、『30日で人生を変える「続ける」習慣』『新しい自分に生まれ変わる「やめる」習慣』(以上、日本実業出版社)、『マイナス思考からすぐに抜け出す9つの習慣』『力の抜きどころ』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は多く、計22冊95万部を超え、中国・韓国・台湾・ベトナム・タイでも広く翻訳されている。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。