考えるスピードが人より遅い。ほかの人のようにテキパキと仕事をさばけない。こんな自分は一生、「仕事がデキる人」にはなれないのかな……?
そう自信をなくしているあなたも、ぜひご安心ください。仕事の出来を決める要素はスピードだけではありません。むしろスピードにおぼれず、ゆっくり丁寧に取り組んだほうがいいケースもあるのです。
「熟慮断行」という言葉があります。意味は「十分に考えた上で、思い切って実行すること」。(引用元:goo辞書|熟慮断行 の意味・使い方)
考えるべき場面ではじっくり時間をかけて考え抜き、そして準備ができたらスパッとアクションを起こす。この「熟慮断行」のメリハリさえ心がけていれば、考えるのが遅いあなたも、仕事がデキる人になることができます。
では、具体的にどんなシーンで、どのように熟慮すべきなのか? 逆に、すばやく決断すべきときはどうしたらいいのか? 以下4つのポイントを押さえておきましょう。
1.「いったん否定」思考に時間をかけ、判断ミスを減らそう
仕事で問題が生じ、解決策を考えてみても、間違うことがよくある。最初にパッと思いついた考えから抜け出せず、本当の原因にたどり着けない……。
そんな事態を防ぐには、スピードにとらわれず「熟慮」を重ねることが大切です。
関西大学教授で『遅考術』の著者・植原亮氏によれば、人間の思考プロセスには以下の2種類があるそうです。
- 「直観」
「問題や課題を前に、パッと『コレが答えだ!』と思いつく」思考 - 「熟慮」
「最初に思いついた答えや仮説をいったん否定して『いや、それが答えではないのではないか』と意識的に考え」る思考。
(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|【9割の人が知らない】人間の脳に備わる2つの「考える仕組み」)
パッと見の印象や最初に思い浮かんだ考えに流されず、合理的に物事を判断するには「熟慮」が必要です。というのも、「直観」だけで物事を考えていると、以下のような判断ミスをしかねないから。植原氏がSTUDY HACKERのインタビューで語ってくれました。
たとえば、ファッションが好きでちょっと変わった服装をしている人が、仕事で大きな失敗をしたとします。すると、「普段から服のことばかり考えているから、仕事で失敗するんだ」というように、失敗の原因を探るときに、最初の思いつきに飛びついてしまうのです。でも、しっかりと検証してみないことには、「服のことばかり考えている」ことが失敗の本当の原因かどうかはわかりませんよね。
(引用元:STUDY HACKER|本当に頭のいい人はあえて「遅く考える」。下手に速く考えないほうがいい2つの理由)
では、どうすればうまく「熟慮」できるのでしょうか。植原氏は、「まずはいったん否定する」ことをすすめています(引用元:同上)。具体的な思考手順は、次の3ステップ。
- 思いついた考えや言われたことを、まずはいったん否定する。
(例)売上を増やすには、単価を上げればいいはずだ!
→単価を上げても売り上げは伸びないのではないか? - 条件を何度も確認する。
(例)売上には、リピート率や広告など、ほかの条件も絡んでいるはず……ということは、単価を上げればリピートが減るかも? - もっともだと思える仮説にたどり着くまで、あれこれ粘り強く考える。
(例)売上を増やすには、ほかにどんな手段があるだろう? マーケティングの本を読んだり、上司に相談したりして研究してみよう。
(1~3の太字部分は「ダイヤモンド・オンライン|誰でも「じっくり、深く考えられる」ようになる“3つのコツ”」より引用。例は筆者が作成)
この3ステップから成る「熟慮」の術を身につければ、判断ミスが少なくなるでしょう。あなたが短所だと思い込んでいる「考えるのが遅い」という点を、長所に変えられるかもしれませんよ。
2.「段取り」に時間をかけ、トータルで時間短縮を
仕事に取りかかる前の「段取り」も、じっくり時間をかけて考えるべきもののひとつです。
業務効率化コンサルタントの渡邉英理奈氏は、「仕事を完了させるまでのプロセスとスケジュールを曖昧」にすると、仕事の「やり直しやムダが発生」すると指摘しています。「段取り」にかける手間を惜しんで「なんとなく仕事に取り掛かる」と、想定以上に時間がかかったり、作業の抜け漏れが発生したりするのだそう。
(カギカッコ内引用元:渡邉英理奈(2018),『トヨタ社員だけが知っている超効率仕事術』, フォレスト出版.)
手っ取り早く終わらせるつもりでも、結局はミスを招き、多くの時間を損する結果になるのです。
そこで、渡邉氏が提唱する次の要領に従い、時間をかけて丁寧に仕事のスケジューリングをしてみましょう。この作業には、慣れても「1時間」、慣れていなければ「2時間」ほどかかるそうですが、やり直しやムダを減らせるので、最終的には「数日単位で時間を短縮できる」と言います。(引用元:同上)
- 目的地を確認
(例)4月1日にセミナーを開催しよう - 最短ルートをつくる
(例)企画案完成→日時・場所確定→講師ブッキング→宣伝→設営→開催 - 制限時間から逆算して、スケジューリング
(例)1月中に企画案を完成→2月7日までに詳細確定→2月中に講師をブッキング→……
(1~3の太字部分は同上書籍より引用。例は筆者が作成)
見切り発車で作業を始めると、結果的に効率の悪い進め方になったり、ミスを発生させたりする可能性があります。考えるのが遅いといっても、段取りを考えるところで時間を使うぶんには、トータルで見て効率的だと言えるのです。
3.「3プラン」に絞れば、スピーディに決断できる
仕事においては、時間をかけて悩んでいられないこともあるものです。
即決を下す度胸が必要――そんなスピード重視の場面なのに、あれこれと迷ってしまい、なかなか判断できない。考えるのが遅い人のなかには、そう悩む人もいることでしょう。
こうしたことに心当たりがあるなら、株式会社フロンティアコンサルティング代表取締役社長で、脳科学に詳しい上岡正明氏が提唱するテクニックを使ってみましょう。(以下カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|仕事が遅い人が「良いと信じている3大悪習慣」)
それは、「プランは3つ程度に留め」るという方法。その根拠として、上岡氏は「思考力や集中力に直結」する脳の「ワーキングメモリ」を挙げ、こう述べています。
選択肢が増えれば増えるほど、あなたのワーキングメモリは浪費され、身動きが取れず、かえって迷いに支配された散漫な働き方になってしまいます。
(引用元:東洋経済オンライン|仕事が遅い人が「良いと信じている3大悪習慣」)
あなたが、迷いに迷って決められない……というとき、それは選択肢が多すぎるせいかもしれません。そこで、上岡氏がすすめるように以下3つの選択肢に絞り、そのなかから選ぶようにしてみましょう。
- 直感で考えたA
(例)直感的には「赤」がいい気がする - 論理的に考えたB
(例)でもコンセプト的には「オレンジ」が似合っている - まったく別の切り口で考えた逆張りのC
(例)逆に、寒色の「青」はどうだろうか
(太字部分は同上資料より引用。例は筆者が作成)
たとえば、資料のデザインについて、どんな色をベース(基調)につくろうか悩んだとします。資料において色使いは大事な要素ではあるものの、状況にもよりますが、何十分もかけてじっくり考えるほどのものではありません。こんなときには、上記のように「3プラン」をサッと考え、その3色のなかから即決しましょう。
それほど重要性が高くない物事をスピーディーに判断したいときは、上記の戦略が役立つはずですよ。考えるのが遅く、悩みすぎて決められない人におすすめです。
4.「ちょっと速め」を意識して仕事しよう
ここまで、時間をかけて考える方法と、時間をかけずに考える方法の両方をご紹介してきました。どちらのスタイルもあるように、仕事は「とにかく速くやればいい」というものでも、「常にじっくりやればいい」というものでもありませんよね。
どんなに仕事が速くても、アウトプットのクオリティが低かったり、ミスが多くやり直しになったりすれば意味がありません。かといって、ゆっくり仕事をしすぎて納期を過ぎたり、納期ギリギリになったりしてしまうのももちろんNG。
そこで、東京海洋大学教授でキャリアコンサルタントの小松俊明氏は、こう述べています。
一番理想的なのは、一定のクオリティは保ちながらも、スピードは「ちょっと速め」を心がけることだ。その結果、平均より正確だとか、平均より優れているという人は能力が高いし、どこの職場でも重用されるだろう。
(引用元:プレジデントオンライン|仕事が「雑で速い人」vs「丁寧で遅い人」どちらがエラくなるか? ※太字による強調は編集部にて施した)
丁寧すぎるせいで仕事が遅い。スピード重視で仕事が雑――そのあいだをとれば、質もスピードも適切なレベルになるというわけですね。
「デキる人」と思われたいからと言って、何も猛烈なスピードで仕事を仕上げようとする必要はありません。たとえば、締切の数時間前、あるいは1~2日前などにちょっとだけ早い「マイ締切」を決めておき、その期日を目指すようにしてみてはいかがでしょうか。
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「考えるのが遅い」というのは、活かし方次第で長所にもなりうる資質。上記4つのポイントをふまえ、「熟慮断行」のメリハリをつけて仕事に臨むようにしましょう。
(参考)
goo辞書|熟慮断行 の意味・使い方
STUDY HACKER|本当に頭のいい人はあえて「遅く考える」。下手に速く考えないほうがいい2つの理由
ダイヤモンド・オンライン|【9割の人が知らない】人間の脳に備わる2つの「考える仕組み」
ダイヤモンド・オンライン|誰でも「じっくり、深く考えられる」ようになる“3つのコツ”
渡邉英理奈(2018),『トヨタ社員だけが知っている超効率仕事術』, フォレスト出版.
東洋経済オンライン|仕事が遅い人が「良いと信じている3大悪習慣」
プレジデントオンライン|仕事が「雑で速い人」vs「丁寧で遅い人」どちらがエラくなるか?
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。