
職場で次々とタスクをこなし、帰宅してもやることが目白押し――そんな毎日を、ただ流されるように過ごしてはいないでしょうか。でも、その日常のなかに、あなたが気づかないまま眠っている「宝物」があるかもしれません。著書や講演を通じて「振り返り」の意義と手法を伝えてきた山田智恵さんは、「振り返りこそが人生をより豊かにし、成長を後押ししてくれる強力なツール」だといいます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
山田智恵(やまだ・ともえ)
1977年生まれ、東京都出身。株式会社ダイジョーブ代表取締役。慶應義塾大学法学部・慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)卒業。父親が経営する会社に入社するも、2009年にリーマンショックのあおりを受けて、民事再生を申請。創業者である父と家族全員が会社を去ることとなり、一家全員無職になる。人生に絶望するも、2010年からノートを使った振り返りをはじめ、そこから人生が好転。転職した一部上場企業ではソーシャルメディア事業部部長として活躍し、外資系ベンチャー企業の役員を同時に務め、日本ではじめてインスタグラム・マーケティングの本も出版する。2016年に株式会社ダイジョーブを起業。自身が実践していた、自己理解を深める内省手法を「ミーニング・ノート」というメソッドにまとめ、講演やワークショップを実施している。著書に『ミーニング・ノート 1日3つチャンスを書くと進む道が見えてくる』(金風舎)、『できる100の新法則 Instagramマーケティング』(インプレス/共著)などがある。Instagram/山田智恵(ともえ)内省デザイナー
「振り返り」とは、単なる「反省」ではない
「振り返り」と聞くと、どのようなことをイメージするでしょうか? それこそビジネスパーソンのみなさんなら、うまくいかなかった点やその要因を洗い出して改善策を考えるといった、「反省」を思い浮かべたかもしれません。
しかし、振り返りで反省を始めてしまうと、ネガティブなことばかりに意識が向かい、その結果、落ち込んだり「自分はだめだ」と自己否定をしたりして、前向きな気持ちがくじかれてしまいかねません。
でも、冷静に振り返ってみれば、たとえばこれまでになかった経験をした、自分がなにに関心をもっているのかということに気づけた、すてきな人と出会えたなど、日々のなかでたくさんのものを受け取っているはずです。
そういったものを私は、「無形資産」と呼んでいます。自分の関心に気づければ将来進みたい道が見えてきますし、出会った人との縁を大切にすれば互いの成長にもつながっていきます。こうした経験はすべて無形資産となり、これからの人生に大きな力を与えてくれるのです。
そう言うと、無形資産はポジティブなものごとに限られると思われるかもしれませんが、そうではありません。たとえば、仕事で大きなミスをして落ち込んでしまったということも、その経験があったからこそ将来的に同じようなミスをした後輩に寄り添って励ますことができるなど、資産となることもあるでしょう。
つまり、重要となるのは、ものごとをどのように認識するかという「とらえ方」なのです。しかし、ただ流されるように日々を送ってしまえば、せっかくの資産をみすみす見逃すことになってしまうでしょう。だからこそ、振り返りの習慣によって、自分が受け取っている資産を知ってほしいのです。
そして、振り返りの際にはノートに書き出すようにしてください。心理学的には「外在化」と言いますが、書き出すという行為によって、自分とのあいだに適切な距離をつくり、関係性としてとらえ直すことができます。その結果、出来事のなかにあった意味や学び、次につながる可能性に気づきやすくなります。

ビギナーのための「4つの振り返りスキル」
ただ、そうは言っても、どのように振り返ったらいいかわからないという人もいるはずです。実際、そういった声は私のもとにもたくさん寄せられています。そこで、わたしが提唱している7つの「振り返りスキル」のなかから、振り返りに慣れていない人でも取り入れやすいものを紹介しましょう。
ビギナーのための【振り返りスキル】
- ① 切りわける
- ② 意味づける
- ③ 絞る
- ④ つなげる
これらは振り返りのスキルであると同時に、思考法でもあります。振り返りを行なうときはもちろん、頭のなかがごちゃごちゃになって考えがまとまらないといったときにも、ぜひ活用してください。
まずは、「①切りわける」というスキルです。ものごとを「自分で変えられること」と「自分で変えられないこと」に切りわけることで、自分にできることに注力できるようになります。
たとえば、先に例に挙げた「大きなミスをして落ち込んでしまった」というケースにも言えますが、すでに起きてしまった「出来事」は変えられないのに対し、それをどうとらえるかという「主観」は変えることができます。両者を切りわけて主観を変えることで、その出来事を無形資産にすることができるのです。
その主観を変える際に力を発揮するのが、「②意味づける」スキルです。これは、自分に起きた出来事に価値や可能性を見出すためのものです。
ネガティブな出来事に遭遇したとき、イライラや怒り、悲しみといった負の感情を抱いたり落ち込んだりしてしまうことは避けられません。でも、そのまま放置してしまっては、「嫌な出来事だった」というだけで終わってしまいます。
そうではなく、その出来事から得た気づきや学び、「今後はこうしよう」という決意などよかった面を探し、意識的に価値や可能性を見出すように心がけてください。その出来事のとらえ方は、確実に変わるはずです。

偶然に頼らず、「つながりの種」を自ら見つける
「③絞る」スキルは、日々のたくさんの出来事から、なにが自分にとって大切なのか、優先順位を見つけ出すためのものです。
振り返りを習慣化すると、「この出来事についてはもう少し深く振り返っておきたい」「今後はこういうことも大事にしていこう」といった思いをいくつももつことが出てきます。しかし、選択肢が多いほど人間は迷って意思決定できなくなるものですし、そもそも使える時間も有限です。そこで、「いまの自分にとって本当に大事なものはどれか?」という視点で絞ることが大切なのです。
「④つなげる」スキルは、自分に起きる出来事がなににどうつながっていくのか、関連性を見出すためのものです。みなさん自身にも経験があると思いますが、過去の経験や出来事、出会った人などがつながり、あるとき思いもよらぬ未来にたどり着くことは珍しくありません。
このスキルで大切にしたいのは、偶然を無理にコントロールすることではありません。偶然のなかに芽生えていた「つながりの種」に気づき、それをそっと育てていくことです。
振り返りノートを見返していると、「この出来事とあの日出会った人には、なにかか通じるものがあるかもしれない」と感じる瞬間があります。そうした気づきがあれば、次に会ったときにその話をしてみるなど、小さな一歩を踏み出すこともできます。
偶然をきっかけに生まれたつながりに、自分なりのかかわり方を重ねていく。それが、「つなげる」スキルです。
振り返りとは、出来事を反省材料として処理する作業ではなく、日々の経験のなかに潜む無形資産を掘り起こす行為です。振り返りスキルを使って出来事を整理し、価値を見出し、優先順位を立て、そして未来へとつなげていくことで、日常はたしかな成長の源に変わります。振り返りの習慣が、自分の人生を自分で育てていくための強い味方になってくれるはずです。

【山田智恵さん ほかのインタビュー記事はこちら】
1日たった5分、“チャンスを拾える人” になる習慣【ウィークリーページ】(※近日公開)
理不尽な出来事ほど、あとで一番リターンが大きくなる。“ワンデー振り返り” という逆転習慣(※近日公開)
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
