「センス」とは、一般的に「物事の微妙な違いを感じ取る感覚」といったものです。それが活きるシーンはさまざまですが、もちろん仕事もそのひとつ。『センスは脳で磨かれる』(クロスメディア・パブリッシング)という著書もある脳内科医の加藤俊徳(かとう・としのり)先生に、仕事能力の向上につながるふたつのセンスとその磨き方を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
仕事の出来を左右する「必要な情報をどんどん受け取れるセンス」
仕事能力の向上に直結するセンスというと、じつに多くのものがあると私は考えています。ここでは、なかでも重要だと思われるセンスについて解説しましょう。
そのひとつが、「必要な情報をどんどん受け取れるセンス」です。
上司と打ち合わせをしたり顧客と商談をしたりする場で、「必要な情報をどんどん受け取れるセンス」が欠けていたとしたら、相手が求めていることの重要なポイントを的確に把握することができません。そんなことでは、たとえそのあとに必要とされる仕事の遂行力がどんなに長けていたとしても、結果が的外れのものになってしまう可能性が高まります。
では、そういった情報を受け取るためにはどんなことが必要でしょうか? 言語能力を磨くことだと思った人も多いでしょう。たしかに、私たち人間は言葉を使ってコミュニケーションをとります。しかし、コミュニケーションは言葉だけで行なわれるものではありません。
言葉そのものだけではなく、口調や抑揚といった相手の話し方やその流れ、相手の表情やしぐさ、相手が置かれている状況など、言葉になっていない部分——いわゆる、ノンバーバル(非言語)の部分にこそ受け取るべき必要な情報が潜んでいるということは少なくありません。それどころか、コミュニケーションのじつに9割以上がノンバーバルで行なわれているとする説もあるほどです。
そう考えると、大切なのは「情報を受け取る間口を広げる」こと。言葉だけにこだわりがちな人は、知識にこだわる人という見方もできます。一方、情報を受け取る間口が広い人は、その場で得た自分自身の感覚を重視します。そういう意味で、先入観をもたずにアートなどに触れることも、情報を受け取る間口を広げる方法のひとつになりえるでしょう。
言葉や知識にこだわる人は、「これは無名のアーティストの作品だから特にいいものではないし、観る価値もないだろう」といったふうに、情報を受け取る間口を狭め続けることになります。対して、情報を受け取る間口が広い人は、知識などにこだわらず、無名のアーティストの作品であってもその場で得た自分の感覚を大切にして「これはすごい!」とアートを楽しみ、情報を受け取る間口をさらに広げていけるのです。
自分の成長を左右する「自分が上るべき階段を自分でつくれるセンス」
また、特に若手のビジネスパーソンにとっては、「自分が上るべき階段を自分でつくれるセンス」も、仕事能力の向上には重要です。
大人になるまでのあいだは、小学校、中学校、高校、大学……と、私たちは階段式に成長していきます。その過程では、カリキュラムとして順に学ぶべきこと、いわば階段が設定されており、それをただ上ればいいだけでした。
ところが、社会に出ると、成長するための階段を誰かが設定してくれるということはありません。自分が上るべき階段を自分でつくれない人は、その場で成長が止まってしまうのです。私がこれまでに会った人のなかにも、医師や弁護士といった、社会的に見れば地位の高い仕事に就きながらも、自分が上るべき階段を自分でつくれるセンスがおそらくなかったがために、そのあとは高い評価を得るような仕事をできないという人たちもいました。これは本当にもったいないことです。
もちろん、医師や弁護士ではない人であっても、ビジネスパーソンとしてしっかり成長していくためには、自分が上るべき階段を自分でつくれることが大切です。このセンスは、「自己評価できるセンス」と言い換えてもいいでしょう。
「上司にほめられたい」といった他者評価ばかりを気にしていては、自分が上るべき階段を自分でつくるセンスは磨かれません。なぜなら、他者評価は、社内政治や人間関係など本来の力とは別のものに大きく左右されるからです。
そうではなく、「いまは目標の20%くらいに達しているな」というふうに、自分の成長曲線に対して自分の尺度をもって自己評価し、目標に向かって邁進していくことが大切なのです。
若手は若手らしく「気楽にひたむきに学ぶ」ことが大切
そうするためには、常に自分を振り返る、自己チェックする習慣を身につけることが重要になるでしょう。
特に若いビジネスパーソンの場合、まだ慣れていない業務があったり、どんどん新しく触れる仕事があったりして、つい仕事に追われるだけの毎日を送ってしまいがちです。でも、そうなってしまうと自分を振り返ることができませんから、当然ながら自己評価するセンスは磨かれません。毎日でなくて週に1回であっても、いまの自分の成長具合を振り返る癖を身につけてほしいと思います。
そして、若手であれば若手であることのメリットを活かしてください。そのメリットとは、「ひたむきに学べる」ということ。若手であれば、「いまはできないことがあって当たり前」です。だからこそ、おごることなくひたむきに学ぶことができます。
これは、私自身の経験によって得た考えです。28歳のとき、私が初めて国際学会に行ったときのことでした。当時の私は、英語の読み書きはできても、聞いて話すことがほとんどできないような状態。講演を聴いても、内容が頭に全然入ってこないのです。その国際学会で得られることを100%だとすると、「私は1%くらいしか得られていないな」と思いました。
でも、そこで、「じゃ、来年は5%くらいを得られるようになればいい」と思ったのです。ゼロと言ってもいい状態から5%になったとしたら、それはそれで大きな成長ですよね。そう考えると、「頑張ろう!」と思うと同時に、本当に気が楽になったのです。若くて「いまはできないことが当たり前」だからこそ、変に力むことなく気楽に、そしてひたむきに学ぶ——。そう心がけてほしいと思います。
【加藤俊徳先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
脳が衰えやすい人の「危険な仕事習慣」。脳は何歳になっても成長する一方で、老化も速い
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【プロフィール】
加藤俊徳(かとう・としのり)
1961年、新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家であり、「脳番地トレーニング」を提唱する。小児から高齢者まで1万人以上を診断・治療。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」を創業。また、加藤プラチナクリニックにて、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法により、薬だけに頼らない脳トレ処方を行う。『ビジュアル図解 脳のしくみがわかる本』(メイツ出版)、『「優しすぎて損ばかり」がなくなる 感情脳の鍛え方』(すばる舎)、『大人の発達障害 話し相手の目を3秒以上見つめられない人が読む本』(白秋社)、『1万人の脳を見てわかった! 「成功脳」と「ざんねん脳」』(三笠書房)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。