プレゼン失敗で『人生終了』? ”破局思考” という脳の罠【アンラッキー君と博士の教室 vol.1】

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編集部より

「アンラッキー君と博士の教室」では、日常でつい感じてしまう「運の悪さ」や「うまくいかない感覚」を、科学の視点から読み解いていきます。主人公は、何かとうまくいかないぬいぐるみのアンラッキー君。そして彼を温かく見守る認知科学の専門家、バイアス博士です。

大事なプレゼンで、緊張のあまり失敗

朝9時、重要なプレゼンテーションが始まります。

壇上に立つアンラッキー君は、震える手でスライドを切り替えながら話し始めました。

アンラッキー君
それでは、今四半期の売上について...…

次の瞬間、緊張のあまり頭が真っ白に。なにを話せばいいのかわからなくなってしまいました。

アンラッキー君
あの……えーっと……

会議室の空気が重くなるのを感じるアンラッキー君。冷や汗が止まりません。 なんとかもち直してプレゼンを終えたものの、アンラッキー君は自分の席に戻ると机に突っ伏してしまいました。

アンラッキー君
はあ……今日は最悪だ。もうダメだ。全部ダメになった。明日からみんなに顔向けできない。きっと昇進の話もなくなるし、信頼も失った。僕はもう終わりだ……。
博士
博士
ほほう、ひとつの出来事で『すべて』を決めつけておるな。

博士がアンラッキー君にコーヒーを手渡しながら微笑みます。

博士
博士
アンラッキー君よ、キミはいま『破局思考』という認知の罠にはまっておるぞ。
アンラッキー君
破局思考? でも実際に失敗したんです!
博士
博士
失敗は部分的なものじゃ。だが脳は「これで全部終わりだ」「最悪の結果になる」と考えてしまうことがある。これが『破局思考(Catastrophizing)』と呼ばれる思考のクセじゃ。

『破局思考』に陥ると、脳ではどんなことが起きるの?

博士はゆっくり話し始めました。

博士
博士
「破局思考」は、ネガティブな出来事を大げさに考えてしまう認知のクセじゃ。一部がだめなだけなのに、「全部だめ」「いつもできない」と予測がいきすぎてしまうのじゃよ。
アンラッキー君
ああっ! たしかにプレゼンが失敗しただけなのに、いままでの努力もこれからのキャリアも全部だめになった気がしてた……。
博士
博士
さらに破局思考になると、脳内では特徴的な変化が起きるのじゃ。まず、扁桃体が過活動状態になる。*2
アンラッキー君
扁桃体って、感情を処理する部分ですよね?
博士
博士
その通り! そして同時に、前頭前野の抑制機能が低下する。つまり、感情の暴走を止めるブレーキが効かなくなるのじゃ。 *2
アンラッキー君
つらいとき、つらいという気持ちが制御できなくなるってことか。まさにいまの僕のことだ……。

あなたも経験ありませんか?

読者の方のなかにも「破局思考」に陥りがちだという方はいませんか?

たとえば——

 

◇1通のクレームで「もう自分の信用はゼロになった!」と思い込む

  • 客先から1件のクレーム電話を受ける
  • 「もう信用はゼロだ。今後仕事は全部なくなる。キャリアも終わりだ」と思い込む
  • しかし実際は、ほかの99件は好評価

◇テストで点が悪いと「もうこの科目はダメだ」と思い込む

  • テストで60点をとって 「やっぱり自分には才能がない。勉強しても無駄だ」と思い込む
  • しかし実際は、単なるケアレスミスであり、次のテストで挽回できる余地が大きい

文章として読むと「自分はそんな極端な考え方はしない」と感じるでしょう。 しかし、実際にショックが大きい出来事に遭遇すると、このような「破局思考」に陥ってしまうこともあるのです。

オフィスのデスクで悲しげな表情を浮かべるアンラッキーくん

「破局思考」から脱出するふたつの対策

アンラッキー君
でも、今日みたいに失敗した日は、どうしても『破局思考』になっちゃうよ。どうしたらいいんだろう?
博士
博士
心配するでない。科学的な対策があるぞ!

1. 感情を書き出す

行動科学専門家の永谷研一氏は、「ノートや手帳などに、『その日の中の一番強い自分の感情』として、自分がどんな気持ちだったかを書く」ことをすすめています。こうすることで、「自分の感情を客観的に見るクセ」をつけることができ、思考が極端になっていることに気づきやすくなるのです。*3

たとえば——

8/3 プレゼン失敗。悲しい、恥ずかしい!もう全部だめ、最悪

このようにノートに書き出してみましょう。書いた内容を改めて見てみると、「ちょっと思い詰めているかも。少なくとも『全部だめ』ってことはないな」と客観的にとらえられるようになります。

2. 脳内でネガティブな言葉のあとに「でも」を付け足す

1で紹介した「感情を書き出す」対策をしても、「破局思考」がクセになっている場合、なかなか抜け出せないこともあります。そんなときの対策として、脳科学者の西剛志氏は、ネガティブな言葉のあとに「でも、〇〇はできた・よかった」と付け足すことを提案しています。*4 理由は以下の通り。

  • 前頭前野にある「視聴覚ミラーニューロン」は、言葉をイメージに変換する細胞。運動野という部分に隣接している
  • 視聴覚ミラーニューロンが言葉をイメージに変換するたびに運動野が活性化され、体感覚も刺激される
    →その結果、どんな言葉を自分に投げかけるかによって、実際の体感覚や行動が変化すると考えられる *5

たとえば——

先輩に注意された! 仕事ができないやつだと思われただろうな。
『でも』指摘をちゃんとメモして、次回からできるように対策できた
 
 

 

このように「でも」を付け足すことで、「破局思考」から脱出し、いい面にも目を向けられるようになるのです。

笑顔のアンラッキーくん

失敗だけに注目せず、全体をフラットに見よう

博士
博士
覚えておくのじゃ。失敗は全体ではなく、人生という大きなキャンバスの『点』に過ぎない。ネガティブな思い込みに気づくことが大切じゃよ。
アンラッキー君
そうですね! 今朝のプレゼンも、たしかに詰まったけど、その後はちゃんと説明できました。質問にも答えられたし。
博士
博士
そうじゃ!それが現実じゃ。一部の失敗だけに注目してはいかん。すべてをフラットに見ることじゃ。
アンラッキー君
今度から、事実と感情を分けて考えるようにします。『今日は最悪』じゃなくて『今朝のプレゼンは改善の余地があった』って考えてみます!
博士
博士
それでこそ、破局思考から解放された『現実視点』の持ち主じゃな!
【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。

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