
※記事内の手書きノート画像はすべて筆者が作成した
昨日も、クライアントとの打ち合わせが長引き、帰り際に上司から新しいタスクを追加で依頼された――。
「どう考えても時間が足りない」「誰にも相談できない」……そんな不安や苛立ちを抱えたまま電車に揺られる。
気づけば頭のなかは同じ悩みのリフレインでいっぱい。家に着いても気持ちは切り替わらず、眠りも浅い。翌日の会議では集中できず、つい言葉がきつくなり、チームの雰囲気まで悪くしてしまう……。
これは決して特別なケースではありません。むしろ、多くのビジネスパーソンが経験していることではないでしょうか。
ストレスをため込んだままでは、集中力や判断力が鈍り、キャリア成長のチャンスを逃しかねません。
そこで役立つのが「クリアリングノート」です。ノートとペンさえあればできるこのシンプルな方法は、感情を整理し、ストレスを建設的な思考に変える強力なツール。
日々の仕事のパフォーマンスを高め、キャリアを前進させる習慣として活用できます。
感情と事実を切り分ける「クリアリングノート」
クリアリングノートは、人材戦略コンサルタントの大嶋祥誉氏が提唱する感情コントロール法です。彼女自身、外資系コンサルティング企業で常に高いプレッシャーのなか働いてきた経験から、このメソッドを体系化しました。*1
方法はシンプルで、次の3つのステップです。
- ノートの左ページに、いまの気持ちをただ書きなぐる
- ノートの右ページに、左ページの自分へ「アドバイス」を書く
- 書き終えたら内容を見直し、冷静に行動プランを考える
ポイントは「感情を感情のまま処理するのではなく、解決すべき問題に変換して処理する」こと。*1
こうすることで、ネガティブな気持ちに振り回されず、次に取るべき行動を明確にできます。これは問題解決力や意思決定力といった、キャリアに直結するスキル強化にもつながるのです。

科学的に裏づけられた効果
「ただ書くだけで本当に効果があるの?」と感じる人もいるかもしれません。しかし研究によって、書き出すことの効果は実証されています。
ネガティブ感情の書き出しはストレス軽減に効果的
テキサス大学オースティン校教授のジェームズ・ペネベーカー氏が大学職員を対象に行なった実験では、トラウマ的体験を文章にしたグループの欠勤率が大幅に減少したそう。*2
ネガティブな体験やそれに対する感情を抑圧せずに表現することで、心身の不調が軽減されたのです。
手書きが脳を落ち着かせる
感情を手書きした人の脳波はリラックス状態を示すアルファ波が優位になります。*3
思考が整理され、冷静さを取り戻す効果が期待できるのです。
自分へのアドバイスで思考力を鍛える
感情を書き出すだけでなく、右ページでアドバイスを書くために「自分は何が嫌だったのか?」「どうすればよかったのか?」と考えることで、建設的思考が磨かれます。
これは課題解決力やセルフマネジメント力の強化につながります。

筆者の実践と感じた効果
筆者の実践の様子をご覧いただきながら、クリアリングノートのやり方をご紹介します。
ノートはA5サイズのルーズリーフを使いました。見開きにして、左ページに感情を吐き出します。
「ジャーナリング」の普及・啓発を進める吉田典生氏は、書くときは時間を決めて、その間は手を止めないよう呼びかけています。*3
そこで筆者はタイマーを5分にセットし、思いつくまま気持ちを書き出してみました。

左ページに、思いつくまま気持ちを書き出した
左側のページを書き終えたら、右のページに移ります。
前出の大嶋氏によると「気分転換のため、ペンの色を変えるのもお勧め」ということなので、ペンを持ち替えて実践。
右ページでは有名人やフィクションの主人公、尊敬する人など、自分なりの『賢者』になったつもりで左ページへのアドバイスを書きます。*1
たとえば「仕事のチェックを長時間待たされた」という左ページの内容に対して、「相手も忙しかったのかも」「次は自分から声をかけてみてもいいかも」といった具合に自分へのアドバイスを書いていきます。

右ページに、左ページの自分へのアドバイスを『賢者』になったつもりで書いた
クリアリングノートは毎日書く必要はありません。ネガティブな気持ちの時だけ書きましょう。*4
筆者は、1回目は職場でイライラしたとき、2回目は仕事に関する不安があるときに書きました。2回目に書いたクリアリングノートは以下のとおり。

左ページに仕事に関する不安を書き出し、右ページでそれに対するアドバイスを書いた
仕事のイライラや将来への不安を書き出したところ、頭の中が整理され、次に何をすべきかが明確になりました。
特に「右ページで第三者目線のアドバイスを書く」ことで、感情的になりやすい場面でも冷静に対応できるようになったのを実感しています。
感情をため込んでパフォーマンスを下げるのではなく、その日のうちに整理することで、翌日の仕事にすぐ集中できる――これはあなたの大きな武器となるはずです。

こんなときに書いてみて。クリアリングノートの使い方
1. 不安を整理したいとき
まず「締め切りに間に合うか不安」「メンバーとの連携がうまくいかない」といったモヤモヤを書き出します。
その後、右ページに「最優先タスクを切り出す」「相手に確認をとる」など、行動レベルのアドバイスに落とし込みます。
2. 人間関係の摩擦に冷静に対処したいとき
感情のまま相手にぶつかるのではなく、まずノートに吐き出します。
そのあとで「相手の背景を考えよう」「次はこう伝えよう」と整理すれば、コミュニケーションの改善に直結します。
3. 勉強に集中できないとき
「勉強が進まない」「集中できない」と感じたら、そのまま感情を書き出しましょう。
そのあとに「時間を区切ってやる」「小さな目標を立てる」といった学習改善策を導き出すことで、学習効率も高まります。
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クリアリングノートは、特別な準備も費用も不要。必要なのはノートとペンだけです。
- ストレスを言語化して冷静さを取り戻す
- 課題解決力やセルフマネジメント力を高める
- 感情に振り回されず、集中力を維持する
これらはすべて、キャリアアップに欠かせない力です。1日5分でもいいので、「ストレスを感じたらノートを開く」という習慣を取り入れてみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 PHPオンライン|マッキンゼーで学んだ「2冊のノート」の感情コントロール術
*2 James W. Pennebaker, Martha E. Francis (1992), “Putting Stress into Words: The Impact of Writing on Physiological, Absentee, and Self-Reported Emotional Well-Being Measures,” American Journal of Health Promotion, Vol.6, No.4, pp.280-287.
*3 日経ビジネス|手を動かし、「書く瞑想」をしよう
*4 AMERICAN PSYCHOROGICAL ASSOCIATION|Speaking of Psychology: Expressive writing can help your mental health, with James Pennebaker, PhD
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。