
編集部より
「アンラッキー君と博士の教室」では、日常でつい感じてしまう「運の悪さ」や「うまくいかない感覚」を、科学の視点から読み解いていきます。主人公は、何かとうまくいかないぬいぐるみのアンラッキー君。そして彼を温かく見守る認知科学の専門家、バイアス博士です。
アンラッキー君の災難
あれ? あれれ? 会議を前に、アンラッキー君が慌てふためいています。
手帳をパラパラ、スマホをスクロール、デスクの付箋をひっくり返して……
アンラッキー君
重要なデータをメモしたはずなんだけど、どこに書いたっけ? 会議まであと3分なのに! どうして僕だけこんなに運が悪いの……?
アンラッキー君の頭上に、またしても黒い雲がもくもく。今日もアンラッキーが彼を襲った...…と思いきや。
博士
ふむふむ、また君かね。
白衣を着た博士が現れました。彼は認知科学の専門家、バイアス博士です。
博士
アンラッキー君よ、これは運の問題ではないぞ。君の脳のなかで情報があふれかえって、処理しきれなくなっているだけかもしれん。
アンラッキー君
え、脳のなかで……? でも僕、ちゃんとメモしたのに……どうして思い出せないんだろう……?
博士
よろしい、では一緒にこの現象を科学してみよう!
なぜメモが見つからないのか?
博士が黒板に図を描き始めました。
博士
メモをどこに書いたか思い出せないのは、君の脳がオーバーフロー状態になっているからじゃ。
スマホやメール、あれやこれやと日常で触れている大量の情報は、すべて脳に蓄積されていく。
その結果、脳が大量の記憶情報を前にして、整理する余裕がなくなってしまうのじゃよ。*1
アンラッキー君
なるほど……つまり、脳のなかが散らかったままだから、メモした場所の記憶を見つけられないってこと?
博士
そのとおりじゃ。脳は一度に扱える情報量に限りがある。だから、整理されていない記憶は曖昧になり、せっかくのメモもどこに書いたかわからなくなるのじゃ。
アンラッキー君
じゃあ、僕の運の悪さじゃなくて、脳のなかで記憶が整理されていないから毎回メモを探し回ってるってことかぁ。
あるある災難集
ここで博士は、「メモ迷子あるある」をアンラッキー君に優しく語って聞かせます。
博士
まず、付箋地獄じゃ。デスクにカラフルな付箋が50枚も貼ってある。
すると、「重要」「至急」「チェック」タグだらけで、逆に何も見つからないのじゃ。
博士
次に、アプリ乱立カオスじゃ。iPhone メモ、Notion、Google Keep……「あれ? これはNotionに書いたっけ? それともiPhone メモだっけ?」
博士
最後に、Slack検索地獄じゃ。「確か田中さんが送ってくれた資料はここに……」検索に5分もかけて、結局見つからず田中さんに「すみません、もう一度送ってもらえますか?」とお願いすることになる。
アンラッキー君は思い返してみます。
アンラッキー君
全部僕のことじゃないですか!
博士直伝!メモ迷子脱出の3つのTIP
博士
安心するがよい。脳が整理しやすいようにメモの仕方を工夫すれば、メモした場所を覚えやすくなるのじゃよ。
TIP 1 「日付+タグ+キーワード」命名法
博士
整理するためにタグ付けしたとしても、タグに同じような名前をつけるのは禁物。脳のなかで情報がごちゃ混ぜになり、干渉が起きてしまうのじゃ。*2
そこで、“2025/8/20_企画_売上目標_来年度” のように、日付やタグ、キーワードを入れて、検索の手がかりを複数つくるといいぞ。
思い出すためのヒントをたくさん用意することで、曖昧な記憶を呼び戻しやすくなるのじゃよ。
× 悪い例:「会議メモ」「重要資料」
○ 良い例:「2025/8/20_企画_売上目標_来年度」
TIP 2 情報の「一極集中化」
博士
いろんなところにメモをしたら、メモしたそれぞれの場所を覚えなきゃならん。これも脳に負担をかけてしまう行為じゃ。
メモの場所を一極集中させ、脳に負担をかけない工夫も大切じゃよ。
🖋紙のメモ → 📸写真撮影 → Notionに集約 -「迷ったらここ」という基地をつくる
TIP 3 週1「場所リハーサル」
博士
“メモした場所を思い出す時間” をつくるのも有効じゃ。過去の記憶を何度も思い出すことで、記憶が強化されるからじゃ。*3
- 毎週金曜日、5分間だけ
- 「プロジェクトAの資料はNotionの企画フォルダ」と声に出して確認
- 脳の検索経路を強化!
記録は「忘れてもいい許可証」ではない
博士
覚えておくのじゃ。『メモしたから覚えなくてもいい』と思うかもしれん。でも、メモは情報を『忘れてもいい許可証』ではなく『活用するため』のもの。検索性まで設計して初めて『第二の脳』となるのじゃ。

アンラッキー君
なるほど……! 僕がアンラッキーだったんじゃなくて、メモの仕方が科学的じゃなかっただけなんですね。
博士
そのとおり! 君のアンラッキーも、じつは認知バイアスが生み出していた幻想なのじゃよ。