皆さんは最近、仕事でどれくらい“成功”していますか?
例えば、「営業も企画もそれなりに考えて取り組んでいる。その割になんだか勝率が低い。もっと成功確率を上げたい」そんな悩みを抱える若手社会人の方は多いのではないでしょうか。一生懸命考えて営業しているのになかなか契約に至らなかったり、練りに練った企画のアイデアが採用されなかったりすると、やるせない気持ちになってしまいますよね。
そこでこのコラムでは皆さんに、最近話題の「確率思考」を紹介します。
これは、確率と数字にこだわった新しい発想法。仕事だけでなくプライベートにも役立つはずです。
「確率思考」とは?
確率思考とは、「勝てる戦い(戦略)」だけを探す思考法です。そして、勝てる戦いとは、「勝てる確率が最も高い」戦いのこと。
古代中国の兵法書『孫子』の故事に「彼を知り己を知れば 百戦殆うからず」という言葉があります。これは、「自分や相手のことをよく知って戦いに臨めば、何回戦っても敗れることはない」という意味。このように古くから、自分と相手を分析してから戦いに挑むことは基本とされていました。
この確率思考の考え方は、現代のビジネスにも通用するものです。例えば、2010年当時経営難に陥っていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の業績をV字回復させたことで知られるマーケター森岡毅氏は、確率思考を実践したビジネスを行っている人物の一人。森岡氏はその著書の中で次のように述べています。
達成したい目的があるとき、(目的設定の)次になすべきことは、その目的が達成できている時の状況を想像力と数値を使って徹底的に考えることです。
(カッコ内は筆者にて補った) (引用元:森岡毅著,今西聖貴著(2016),『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』,角川書店.)
「数字に熱を込めろ」の「数字」とは、情緒を排した成功確率の高い戦略のことを意味しています。
(引用元:同上)
森岡氏の言うように、確率思考をするにはまず、自分自身の時間や資源をどこに集中すれば成功の確率が最も高まるのかを考えるところから始める必要があります。そうすることで、物事を効率よく成功に導くことができるのです。
「確率思考」を実践するには
では、どうすればこの確率思考を日常的に実践できるようになるのでしょう。ポイントは次の3つです。
【1】数字から逃げない
まず大事なのは数字と向き合うことです。
仕事で何かの施策を提案する際には、その方法を実践することで売上がどれだけ上がるのか、顧客がどれだけ増えそうか、といったようなことを数字で示す必要があります。数字は、人の気分によって変動するものではありませんし、嘘もつきません。ですから施策と数字をセットで示すことで、提案に説得力を持たせることができるのです。
大事なことは「成功しそう」な戦略を考えることではありません。「成功する確率が高い」と客観的に言える戦略を考えることなのです。
【2】試行回数を増やす
ビジネスにおいて勝負に挑む時は、その物事について、ある程度の回数をこなすべきです。
例えば、勝率の高い営業パーソンでも失敗することはあるでしょう。景気や顧客との相性、運など、多くの不確定要素が存在するからです。だから勝率95%だからといって、その確率の高さに慢心を起こして1回しか営業しないと、運悪く失敗するかもしれません。
しかし、根気強く100回、1,000回と営業を重ねれば、確率が収束し、95%という勝率に近い結果が得られるはずです。特に営業では、こうした分母、つまり試行回数を増やすことは重要視されています。
【3】確率の低い事例に引きずられない
人は、たとえ確率が低くても印象的な出来事に影響を受けやすいもの。
例えば、飛行機事故で死ぬ確率は、自動車事故で死ぬより圧倒的に低いでしょう。しかし、飛行機事故が起こると、その悲惨さをマスコミが大々的に報じます。そのことで統計以上の意味を感じて、飛行機に対してネガティブなイメージを持ち、飛行機に乗ることを尻込みしてしまう人もいるのです。
このように、「(良くない意味での)奇跡の大当たり」が自分にも来ると錯覚し、確率的に優位な状況を捨てて結果的に損をすることは、本来避けなければなりません。
「確率思考」のメリットと活用方法
上記の3点を踏まえたうえで確率思考を実践すると、以下のことができるようになります。確率思考によって得られるメリットと、その具体的な活用方法について紹介しましょう。
・合理的な意思決定が行える
確率思考を行うと、自分の情緒やイメージを捨てて、確率と数字に基づいた意思決定ができるようになります。
思い入れがあるからといって、利益の出る見込みの少ない企画を進めるべきか。 友人が当たったからといって、その場の気分で宝くじを買うべきか。 最近飛行機事故が起きたからといって、旅行手段の選択肢からその会社の飛行機を外すべきか。
確率と数字をベースにリスクとリターンを想定し、リターンが大きければ実際に実行する。そんな合理的な判断が可能になるのです。
・無駄なことをする手間が省ける
確率思考に基づくということは、すなわち、目的に対して最も見込みのある相手や手段を選ぶことです。
証券会社の営業ならば、資産を全く持たない相手に株は売れません。 目先にまとまったお金が必要なら、ギャンブルより短期バイトを探すほうが実現性が高いはず。 スーツを着る機会の少ない恋人に、高いネクタイをプレゼントして喜んでくれるでしょうか。
確率や数字に注目すれば、間違った方向にアプローチしてしまうことを防ぐことにもなるのです。
確率思考について学べる本
確率思考の重要性がお分かりいただけたでしょうか。最後に、確率思考について学べる書籍を紹介したいと思います。
一口に確率思考と言っても、人によって様々な捉え方、活用法があります。いろいろな人が実践する確率論を取り入れて、自分だけの確率思考を磨いてみてください!
P&Gでのマーケティング職を経て、USJの業績をV字回復に導いた伝説的なマーケター森岡毅氏と、その相棒アナリスト今西聖貴氏が執筆した、確率思考のノウハウ本です。前半はUSJを成功に導いた思考法や戦略の本質について、後半では著者らが実際に使う売上の数式モデルが紹介されています。高校数学の範囲でわかるように説明されているので、特に理系の方は一読の価値ありです。
東大理学部で学んだ高学歴者でありながら、卒業後はプロのポーカープレーヤーとしての道を選んだ奇才が執筆した書籍です。著者の木原直哉氏は、日本人初のポーカー世界選手権優勝者。ポーカープレーヤーの目線から、「勝つために必要なこと」や「チャンスを逃さない技術」など確率思考の心構えに主眼を置いて書かれています。
著者の小島寛之氏は、東大の理学部数学科、同大学院経済学研究科で学び、その後経済学博士号を取得した人物です。この書籍は、株や抜き打ちテストといった日常的な出来事に確率を絡め、分かりやすく解説しています。データの読み取り方や経済学的発想を学ぶことができる良書です。
(参考) 森岡毅著,今西聖貴著(2016),『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』,角川書店. 木原直哉著(2013),『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』,中経出版. 小島寛之著(2005),『使える!確率的思考』,筑摩書房.