まだ「褒めて育ててる」の? 若手世代には、褒める代わりに○○せよ

腕を組んでいるビジネスパーソン

「……また、ひとり退職。どうして?」

与えられた仕事は完璧にこなし、突然の依頼にも対応してくれ、上司の前でも礼儀正しかった若手社員の突然の退職。丁寧に褒めて、期待も伝えていたのに——なぜ?

給与や職場環境に問題があったわけでも、ハラスメントがあったわけでもない。それなのに「静かな退職」を選ぶ若手社員に、戸惑いを感じているマネジメント層も多いのではないでしょうか。

じつは、多くの管理職が信じてきた「褒めて育てるマネジメント」が、Z世代をはじめとする若手社員には逆効果になっているケースが増えています。「本当に優秀な後輩」を育て、組織のパフォーマンスを上げるための新たなアプローチをご紹介しましょう。

「まだ"褒めて育ててる"の?」

「褒めて育てる」ことは、これまでマネジメントの基本手法として多くの管理職に実践されてきました。部下のモチベーションを上げ、組織の生産性を向上させる有効な手段として、たしかな実績を上げてきた手法です。

しかし近年、同じアプローチでZ世代をマネジメントしても、期待通りの成果が得られないケースが目立っています。これは若手が怠惰になったからではありません。むしろ、彼らの価値観や行動特性を正しく理解し、戦略的にマネジメントすることで、従来以上の組織成果を引き出せる可能性があるのです。

人事評価制度運用サービスを提供する「株式会社あしたのチーム」は、若手管理職が「Z世代社員のやる気を引き出すのに有効」だと思う方法の調査を実施しました。調査結果は以下のとおり。

Z世代社員のやる気を引き出すのに有効だと思う方法

株式会社あしたのチーム調査結果(複数回答、n=216)*1

1位
「褒めて自信を持たせる」(49.1%)
2位
「『期待している』と励ます」(41.2%)
3位
「確実にこなせる難易度の仕事を与える」(40.7%)

上位2つはまさに従来の「褒めるマネジメント」。Z世代は「叱られる教育」への耐性が低いため、多くの管理職が「褒める手法」を選択するのは合理的な判断といえます。

とはいえ、さらに調査を詳しく見てみると、「褒めて育てる」方法全般が効果的とは言えないようです。管理職がZ世代と関わるうえで「NGだと思うコミュニケーション」を調査したところ、次のような結果が出たのです。

⚠️ 注意すべき落とし穴

先の設問でZ世代社員のやる気を引き出すには褒めることが有効という回答でしたが、褒めるのも人前では良くないことが判明しました。*1

「ほかの社員がいる前で褒める」ことは、承認欲求を満たし、モチベーションの向上に効果があると考えられてきました。ところが現在では、この手法が若手の生産性を下げる要因になっている可能性があるのです。

つまり、従来の成功パターンを踏襲するだけでは、組織のパフォーマンス最大化は期待できないということです。

会議中の従業員

褒めて育てる vs 褒めないで育てる

組織として最大の成果を出すために、従来の「褒めて育てる」方法と新しい「褒めないで育てる」方法を戦略的視点から比較検討してみましょう。

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褒めて育てる派

「褒めることで部下のパフォーマンスが向上する」と考えるのは、人間の心理から見れば当然のことです。

シンクタンクのパーソル総合研究所で業務効率化、IT化の促進などに携わった加藤利恵氏は「褒めること」に対する利点を3つ挙げています。*2

✓ モチベーションが向上する

他人から期待されることによって、作業の成果が上がる「ピグマリオン効果」が期待できる

✓ 「褒めが連鎖」し、心理的安全性につながる

褒めてくれた人に、直接褒めて返す「直接的互恵性」、褒められたら別の誰かに褒めて返す「間接的互恵性」が生まれる

✓ 幸福度が上がる

快楽物質であるドーパミンが放出される 

褒めないで育てる派

金沢大学融合研究域融合科学系教授 金間大介氏は「協調性はある」けど「仕事に対してはどこか消極的」であるZ世代の特性を「いい子症候群」と名づけています。*3 

「いい子症候群」の若者はとにかく目立つことを嫌がります。人前で褒められることさえも「圧」だと考えているのです。*3

Z世代は終身雇用制度の崩壊、経済成長の停滞、将来の不確実性を目の当たりにして育ちました。その結果、リスク回避傾向が強く、目立つ行動を控える特性を持っているのです。

この特性を理解せずに「賞賛こそが最大の励まし」と考えて「褒めるマネジメント」を行なうと、期待する成果を得られないどころか、逆効果になるリスクがあるのです。

⚠️ Z世代の特性「いい子症候群」

協調性はあるが仕事に対してはどこか消極的

⚠️ 目立つことを嫌がる傾向

人前で褒められることさえも「圧」だと考える

⚠️ リスク回避傾向が強い

終身雇用崩壊、経済停滞を見て育った世代 

リスクの例

プロジェクトで成果を挙げた若手を会議の場で「今回の案件は○○さんの貢献が大きかった」と評価したとします。管理職としては当然の人事評価のつもりでも、当の若手社員は注目されることで萎縮し、次回以降のパフォーマンス低下を招く可能性があります。

褒めるのではなく、フィードバックで伴走せよ

では、Z世代から最大限の成果を引き出すためには、どのようなマネジメント戦略が有効なのでしょうか?

💡 新しいアプローチ:「寄り添って伴走する」

前出の金間氏は「寄り添って伴走する」イメージで、マネジメントすることをすすめています。真正面から向き合えば若手社員が圧力を感じるため、横並びで支えることが大切なのです。

これは決して若手に迎合することではありません。むしろ、彼らの行動特性を理解したうえで、組織として求める成果を効率的に達成するための戦略的手法なのです。

加えて、金間氏は「日頃からこまめにフィードバックしておく」ことを提案しています。その根拠として、「一般社団法人日本能率協会による『2022年度 新入社員意識調査』」の結果を挙げています。

Z世代が求めるフィードバック

一般社団法人日本能率協会「2022年度 新入社員意識調査」

「部下が意欲や能力を高めるために上司や人事へ期待すること」という設問に対して、回答者の6割が「成長や力量に対する定期的なフィードバック」と回答。*3

金間氏いわく、Z世代の社員は自信をもてないため「自分の行動と結果の因果関係」を常に知りたがっている傾向があるとのこと。この特性を活用し、業務の取り組み方や成果物に対する評価を「具体的に伝える」ことで、管理職が期待する成果により近づけることができるのです。

「フィードバックは具体的に」とはいえ、長く丁寧に伝える必要はありません。金間氏は「『なにができていて』『なにができていない』のかを端的に伝えればOK」と述べています。*3 

📝

効果的なフィードバックの実例

<資料に関してのフィードバック>

「要点が整理されていて、結論がわかりやすいね。ただ、専門用語が多めだったので、次回はクライアント目線でもう少しわかりやすい表現にすると、提案が通りやすくなるよ」

<クライアント対応のフィードバック>

「相手の話を遮らず聞いて、間を置いて返事をしていた点は優秀でした。事前に類似事例を調べておいて提案に説得力を持たせれば、成約率をさらに高められますよ」

【フィードバックが効果的な理由】

  • 「できていること」「できていないこと」両方を伝えるため、「上司が気を遣って褒めている」とは感じにくい
  • 改善点が明確なため、どこを努力すればいいのか見通しがつく
  • 結果としてパフォーマンスが向上し、自信につながる

現代のマネジメントでは、単に「褒める」だけでなく、行動や成果に基づいたフィードバックによって組織の生産性を最大化する姿勢が求められます。それによって、若手社員は「成長できている」「会社に貢献できている」根拠を見つけられるため、自信につながります。

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期待や賞賛で後押しするよりも、説得力のあるフィードバックでパフォーマンスを向上させませんか?

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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