「落語」が雑談力アップに効く意外な理由。どうすれば “超一流の雑談力” が身につくのか?

「落語」が雑談力アップに効く意外な理由。どうすれば “超一流の雑談力” が身につくのか?

何気ない会話や「雑談」が、人間関係、そして仕事の可能性を大きく広げることもあります。「雑談力」を磨きたいと思いながらも、雑談自体があまりに日常的なものであるがゆえに、その方法が思いつかないという人もいるでしょう。

お話を聞いたのは、約1700社の社員研修を手がける株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループの代表・安田正(やすだ・ただし)さん。「コミュニケーションのプロ」がおすすめする「雑談力アップトレーニング」とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

気の利いた話ではなく「気の利いた話し方」ができるのが雑談上手

そもそも会話自体が苦手というような雑談の「初心者」には、まず「話すことより聞くことを意識する」ことをおすすめします(『雑談上手は「2:8」を意識する。初対面で相手の心をつかむためのシンプルなルール。』参照)。とはいえ、聞くこともそう簡単なことではありませんよ。「うんうん」とうなずくのも、タイミングが違えばおかしなことになりますからね。しっかり聞くにはどうすればいいかというと、「相手の話に興味を持つ」のです

雑談が下手、コミュニケーションが下手な人は、他人への興味がないということがほとんど。人の話に興味を持てば、きちんと聞くことができますから、自然に雑談が成立するようになるのです。

でも、「実際に興味がないからしょうがない」という人もいるでしょう。どんな人も赤の他人のことには基本的にはそれほど興味はありませんからね。

そういう場合は、「興味があるふりをする」のです。でもそうするには、瞬間的に「この人の話に興味がある」と思い込まなければならない。そのトレーニングを繰り返すうち、雑談の間はしっかり相手に興味を持って話を聞くことができるようになるはずです

気の利いた話ではなく「気の利いた話し方」ができるのが雑談上手

続いて、それなりに会話は続けられるが、「気の利いたことが言えていない気がする」というような雑談の「中級者」に向けてのアドバイスをしましょう。まず、気の利いたことを話すなんて、そう簡単ではないことを知ってください。気の利いたことを話していると思われる人は「気の利いた話し方」をしているのです。話の中身ではなく伝え方が違うということですね

なにかプレゼントをもらって「うれしい」と思ったとき、どんな気の利いたことが言えるでしょうか。誰にとっても難しいですよ。でも、「うれしい」「ありがとう」という簡単な言葉も、気持ちを込めて「わあ、うれしい! ほんとにありがとう」と言えば、相手もうれしくさせるような言葉になるのです。

そういう伝え方を磨くためにわたしがおすすめするのは「落語」です。古典落語には決まった演目があります。つまり、話す内容は同じ。それなのに、名人と言われる人と若手とでは、まったく違って聞こえますよね。その違いは、なにかと探りながら落語を聞けば、いろいろと気づきがあるはずですよ。

内輪の人間関係の「外」にある「宝」が将来を変える

雑談の達人になりたいというような「上級者」の人には、ぜひ、「外」に向かって出て行ってほしいですね

気の置けない飲み仲間と話すのは、誰にとってもラクなんです。ところが、そこに新しいメンバーが入ってきた途端、それまでの会話は通じなくなる。なぜなら、誰がどんな人間でどんなエピソードを持っているといった知識が新メンバーにはありませんからね。逆に、自分にも新メンバーの知識はない。そういう人との雑談は難易度がぐんと上ります。上級者を目指す人は、互いに知識がない人と積極的に話して雑談力を磨いてください。内輪の人間関係の「外」には、いくつもの「宝」があるのですから。

内輪の人間関係の「外」にある「宝」が将来を変える

その「宝」は「運」と言ってもいいかもしれません。わたしがこういうふうにインタビューを受けていることも「運がいい」という言い方もできるでしょう。でも、その運は超常現象のように与えられたものではありません。どこかでわたしと知り合った誰かが、「安田さんの話はおもしろいよ」と言ってくれたというような、雑談でスタートした誰かとのコミュニケーションが、巡り巡って運やチャンスを引き寄せてくれるのです。

そういう「宝」や「運」を手に入れるため、特に若い人には内輪の人間関係の「外」に目を向けてほしい。会社に勤めている人の場合、35歳くらいまでの若いうちはある程度のレールが引かれていて、そこを走ることで目一杯です。もう少し年齢が上でも、部長や役員になるといった目標に向かって走り続ける人もいるでしょう。ところが、60歳を越える頃から人生はがらっと変わるのです。

いま、わたしは65歳です。若い人が走らなければならないレールから外れ、ある程度、自由な身になっています。すると、「こういうビジネスの話があるんだけど」「うちの会社の役員になってくれないか」といった話が次々にやってくるのです。その出どころはどこかといえば、やっぱり雑談を通して知り合った友人たちですよね。

若いうちから雑談力を磨いて、人間関係をどれだけ「外」に向かって広げられるか。その成果がみなさんの将来を大きく変えることになりますよ。

【安田正さんのほかのインタビュー記事はこちら】 雑談上手は「2:8」を意識する。初対面で相手の心をつかむためのシンプルなルール。 朝のエレベーターでは必ず挨拶をしなさい——自分が最高に得する「気くばり」のしかた。

【プロフィール】 安田正(やすだ・ただし) 1953年8月6日生まれ、宮城県出身。23歳のときのイギリス留学でコミュニケーション力の重要性に気づき、神奈川大学卒業後、英会話学校の営業としてコミュニケーション力を磨く。その後、兼松パーソネル・サービス国際文化事業部部長を経て、1990年に法人向け研修会社・株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループを設立。現在、早稲田大学グローバルエデュケーションセンター客員教授、一般財団法人コミュニケーション・マイスター協会代表理事も務める。『超一流の雑談力』(文響社)、『できる人は必ず持っている一流の気くばり力』(三笠書房)など著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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