スマホやパソコンなどのデジタル機器が生活インフラの一部になっている現代。在宅勤務をしていると、休憩中もなんとなくスマホを眺めることが習慣になってしまいます。
ある日、思い切ってスマホを置いて近所を散歩してみたところ、わずか10分ほどの間に普段気づかない風景に目が留まり、仕事に戻ると頭がスッキリして集中力がアップしました。
このように「休憩時間だけでもデジタル機器から離れる」ことを、私は「プチデジタルデトックス」と呼んでいます。数日単位ではなく、ランチタイムやコーヒーブレイクなど短い休憩時間だけでもデバイスを遠ざけるだけで、午後のパフォーマンスやストレス軽減につながります。
本記事では、私が実践して感じた「プチデジタルデトックス」の効果と理由、そして具体的な方法を紹介します。
- 休憩しているつもりが、脳はずっと「働きっぱなし」?
- 「プチデジタルデトックス」が脳と心を休ませる理由
- 「プチデジタルデトックス」の3つのメリット
- いますぐできる「プチデジタルデトックス」の5つのアイデア
- 短時間から始めて習慣化を目指す
- 頭と心をオフにする「短い休息」を味方に
休憩しているつもりが、脳はずっと「働きっぱなし」?
休憩時間にスマホを眺める――一見リラックスできそうですが、実は脳にとっては「情報処理を続ける行為」でもあるのです。SNSを開けば他人の投稿、ニュースをチェックすれば新しい情報、メールが届けば返信内容を考える……。本人は「休んでいる」つもりでも、脳のなかではインプットと判断を繰り返している状態が続きます。
このような「ながら休憩」を続けていると、いざ午後の仕事に戻っても頭が切り替わらず、なんとなく集中力が下がったように感じることはありませんか? 私も以前は、「休憩中にネットサーフィンをしていたのに、なんだかもっと疲れた……」ということがしょっちゅうでした。
そうした経験を踏まえて「だったら少しデバイスを手放してみよう」と思い立ち、家の周りを散歩したり、外の空気を吸いに出たりしたら、午後の仕事のはかどり方が違うのでは? と実際にやってみたのがきっかけです。
「プチデジタルデトックス」が脳と心を休ませる理由
スマホが近くにあるだけでも、脳のリソースが奪われる。
これはテキサス大学オースティン校の研究(Ward et al., 2017)によって示唆されています。研究によれば、スマホが視界に入る場所や手の届くところにあるだけで、被験者の認知的パフォーマンス(テストの成績)が下がる傾向が確認されたのです。つまり「いつでも使える」状態だと、脳の一部は無意識のうちにスマホに引っ張られてしまう。
さらに、カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校の研究(Cheever et al., 2014)では、スマホを一定時間使えない状態にすると、不安感が増す人もいれば、むしろ安堵感を得る人もいることがわかっています。この差は「スマホの使用時間」や「使用目的」によって変動するそうですが、多くの場合"意識して距離を置く"と、徐々に心身が落ち着く方へシフトしていくとのこと。
これらの研究結果から推測できるのは、スマホを手放すことで、私たちは「脳のリソース」を本来やるべきことや休息に向けやすくなるということ。そして適度に「スマホから離れる時間」を設けることで、不安感やストレスも軽減できる可能性があるということです。
「プチデジタルデトックス」の3つのメリット
1.頭の切り替えがスムーズになる
休憩時に脳をインプットの負荷から解き放つと、午後からの仕事に切り替える際、驚くほど集中力が戻ってきやすくなります。私自身、わずか10分程度の外出でも、「別の場所に行って、スマホを触らない時間」を過ごすだけで頭がクリアになる感覚を味わいました。
2.身体の緊張がほぐれやすい
スマホを見ている姿勢は、どうしても背中が丸くなり、首や肩へ負担をかけがち。短時間でもスマホを置くことで、意識的に姿勢を整えたり、ストレッチをしたりしやすくなります。結果として、首・肩こりの軽減や、眼精疲労の緩和につながるケースも少なくありません。
3.ストレスを軽減しやすい
SNSやニュースサイトでは、ネガティブな情報に触れることも少なくありません。休憩中にそうした情報を浴び続けると、かえってストレスが増大する可能性があります。いったんデバイスから離れることで、心がざわつく要素を遠ざけ、自然とリラックスへ向かえるのです。
いますぐできる「プチデジタルデトックス」の5つのアイデア
💫 1.物理的にスマホを目の届かないところに置く
通知をオフにして、バッグや引き出しの奥へしまう。視界から消すことで「脳をスマホに引っ張られない」環境をつくるのがポイントです。
🚶 2.昼休みに軽く散歩してみる
スマホを手放した状態で、周辺の景色や花壇などを眺めながら歩くだけでも、脳がリフレッシュしやすくなります。「外へ出づらい」という人も、ベランダや近所の駐車場をうろうろしてみるだけでもOK。
🍽️ 3.食事に集中する「マインドフル・イーティング」
スマホを見ながらの"ながら食べ"をやめるだけで、食材の味や香り、食感をより楽しめます。食事に意識を向けると満足感が高まり、午後の疲労感が軽減する場合も。
📚 4.紙の本を読む・手帳にメモを書く
スマホではなく文庫本や雑誌を読むのもおすすめ。あるいは手帳やノートに、日頃のアイデアや気づきを書き出す。デジタル機器を使わない作業は、自然と脳の使い方が変わり、気分転換にぴったりです。
👨👩👧👦 5.同僚や家族と一緒に取り組む
「この15分だけスマホを触らないでおこう」と声を掛け合えば、意外と続けやすいもの。周囲がスマホを見ているとつい手を伸ばしてしまいがちなので、複数人で協力して行うのは効果的です。
短時間から始めて習慣化を目指す
「デジタルデトックス」という言葉だけ聞くと、「まったく使えないなんて無理!」と尻込みしてしまうかもしれません。ですが、「プチデジタルデトックス」の狙いは「1日に数回、脳を開放する時間をつくること」。たった5分でも、スマホを置いて深呼吸したり、外の景色を見ながら散歩したりするだけで、頭がほぐれる感覚を得られるでしょう。
最初は物足りなく感じるかもしれませんが、少しずつ慣れてくると、「この時間がいちばん気持ちいい」「やらないと落ち着かない」ぐらいに自分のリズムになっていくはずです。休憩時間を本当の意味での"休み"にできるようになれば、午後からの集中力だけでなく、仕事や生活全体の質も向上しやすくなるでしょう。
頭と心をオフにする「短い休息」を味方に
スマホやPCとまったく無縁の生活を送るのは、もはや困難かもしれません。ですが、逆に言えば「必要なときに使いつつ、使わなくてもいい時間はあえて離れる」というコントロールができるようになれば、現代のデジタル社会をもっと快適に乗りこなせるはずです。
ランチタイムやコーヒーブレイクなど数分間でも構わないので、「今日はスマホを一回置いて、外の空気でも吸ってみよう」と思い立って行動してみてください。自分でも気づかないうちに溜め込んでいた"デジタル疲れ"から解放され、午後の自分がどれほどスッキリするか――ぜひ実感してみてくださいね。
***
人生の多くの時間を私たちはデジタル機器と共に過ごしています。だからこそ、意識的に距離を置く短い休息が、仕事のパフォーマンスやメンタルの安定感を大きく左右するといっても過言ではないでしょう。 「スマホをしまって少し歩く」――そんな小さな一歩を、あなたもぜひ「プチデジタルデトックス」の入り口として試してみてください。
Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain Drain: The Mere Presence of One's Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140-154.
Cheever, N. A., Rosen, L. D., Carrier, L. M., & Chavez, A. (2014). Out of sight is not out of mind: The impact of restricting wireless mobile device use on anxiety levels among low, moderate and high users. Computers in Human Behavior, 37, 290-297.
大谷佳乃
「なぜ?」という疑問を大切に、日常に潜む人とモノとの関係性を独自の視点で読み解くライター。現在は、私たちが何かを選ぶときに働く「見えない力」に注目し、そのメカニズムを探求中。休日は、古書店で先人たちの知恵に触れるのが、自分にとっての「特別な時間」。