なぜ “モーニングルーティン動画”が流行ったのか?——「理想の自己投影」が与える心理的効果

キッチンで料理している女性

朝の光が差し込む部屋、湯気の立つマグカップ、整えられたベッドに観葉植物。目覚ましを止めて挽きたてのコーヒーを飲み、丁寧に朝食をとる——そんなモーニングルーティン動画に、なぜか見入ってしまう人は少なくありません。

これらの動画を見て、「こんな朝が過ごせたら」と思いながらも、なかなか現実はそうはいきませんよね。

けれど、モーニングルーティン動画を観るときに、ちょっとした工夫をするだけで「理想の朝」を自分の暮らしにも取り入れることができるのです。

この記事では、モーニングルーティン動画が心に与える影響と、それを行動につなげるための具体的な方法を紹介します。

なぜ「モーニングルーティン動画」が流行るのか?

近年、「モーニングルーティン動画」が注目を集めています。

目覚ましを止め、白湯やコーヒーを飲む。朝食をとり、簡単に掃除をし、仕事へ向かう。だいたいはこのような、淡々と朝の準備を行なう内容です。

特別なことは何もしていないのに、なぜ私たちはこんなにも惹きつけられてしまうのでしょうか?

◇「自分と似た属性の人」のルーティン動画の魅力

  • 「自分にもできそう」と適度なモチベーションにつながる
  • 暮らしをよりよくするちょっとしたヒントを得られる

多くのビジネスパーソンにとって、朝の時間は貴重です。眠気と戦いながら支度をし、慌ただしく仕事へ向かう日々を送っている人がほとんどでしょう。

そんななか、似たような年齢・職業・生活環境の人が、どのように朝を過ごしているのかを見ることで、現実的な希望が生まれます。「自分も工夫すれば、こんな朝の時間を過ごせるかもしれない」というモチベーションにつながったり、「このスキンケア用品を試してみよう」「5分早く起きて白湯を飲んでみよう」といった、暮らしをよくする具体的なアイデアを得られたりするのです。

コップに白湯を注いでいる

◇「自分とは別世界の人」のルーティン動画の魅力

  • 「理想の朝」を一時的に疑似体験できる
  • 別世界の生活を覗きたいという好奇心が満たされる

一方で、憧れの存在である人のルーティン動画には別の魅力があります。たとえば「北欧風のインテリアに囲まれて、手作りのオートミールを食べる暮らしがしたい」と思っている場合、そのようなルーティン動画を見ることで、自分も理想の生活をしているような気分を一時的に味わうことができます。

また、フリーランスのクリエイターや海外在住者など、自分とは違う環境で暮らす人のルーティン動画では、「朝からヨガスタジオに通える生活」「テラスでエスプレッソを飲みながら仕事を始める日常」といった別世界の生活を垣間見ることで、「こんな暮らし方もあるのか」という新鮮な驚きを感じられ、好奇心が満たされます。

このように、ルーティン動画はさまざまな角度から楽しむことができ、前向きな心理状態をつくりだしてくれるため、多くの人に愛されるコンテンツとなっているのです。

ヨガをしている女性

モーニングルーティン動画を見ると脳に何が起きるのか?

上記で述べたように、ルーティン動画は私たちをポジティブな気分にさせてくれます。

なんとなく気分がすっきりしたり、「明日は少し早起きしてみようかな」と意欲が出たりする——このような気分の変化には、脳の働きが大きく関わっています。

注目したいのは、「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞です。脳科学者の中野信子氏は、ミラーニューロンを以下のように説明しています。

  • ミラーニューロンは、自分が運動を行ったときに活発化する脳内の神経細胞
  • ほかの人の運動を見たときにも活発化する
  • 他人の行動意図や目的を理解して反応する *1

この現象は日常生活でも頻繁に体験できます。テニスの試合を観戦していると、選手がボールを打つ瞬間に自分の腕に力が入ったり、感動的な映画を見て登場人物に深く共感し、涙が出たりするといった反応には、ミラーニューロンが関与していると考えられています。

ルーティン動画を観るときも同様のメカニズムが働きます。画面に映る整った部屋でのゆったりとした時間、丁寧なスキンケアの動作、コーヒー豆を挽く音と香りを感じながらゆっくりとドリップする所作——これらすべてを、私たちの脳は自分が実際に体験しているかのように感じ取っています。

その結果、実際には動画を見ているだけなのに、まるで自分が理想的な朝を過ごしたような満足感を得ることができます。この疑似体験により心が落ち着いたり、「自分もこんな朝を過ごしてみたい」という前向きな気分になったりするのです。

ポーチドエッグやアボカドの乗ったパン

「メンタルリハーサル」でルーティン動画をもっと活用する!

モーニングルーティン動画を観て「いいな」「真似してみたい」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。しかし、その気持ちは気づけば薄れ、次の日もまた同じ慌ただしい朝が始まる——というのもよくある話です。けれど少し工夫するだけで、ルーティン動画のような暮らしを無理なく取り入れられるのです。

脳が「自分もその行動をしたように錯覚する」ミラーニューロンの働きに、「メンタルリハーサル」という心理学的手法を組み合わせることで、憧れを実際の行動につなげやすくなります。

ここでは、モーニングルーティン動画を活用したメンタルリハーサルの方法を紹介します。

メンタルリハーサルとは?

メンタルコーチの石井亘氏は、「メンタルリハーサル」について以下のように説明しています。

  • メンタルリハーサルは、イメージトレーニング(イメージング)の一種
  • メンタルリハーサルを使えば、本番での「不安や緊張」「迷い」を減らし、自然と体が動く状態、いわゆる「ゾーン」にも入りやすくなる *2

プロテニス選手が試合前にサーブの動作を頭のなかで繰り返したり、プレゼンテーション前にビジネスパーソンが発表の流れを心のなかでシミュレーションしたりするのを聞いたことはありませんか?

メンタルリハーサルとは、実際に体を動かす前に頭のなかでその行動を詳細にシミュレーションすることで、現実の行動をスムーズにする科学的に裏づけられた手法なのです。

いきなり生活スタイルを大幅に変えるのはハードルが高くても、ルーティン動画を活用してメンタルリハーサルを行なえば、まるで「以前にも体験したことがある」ような既視感を脳に与えることができ、実際の行動を始めるときの抵抗感を大きく減らすことができます。

つまり、動画をただ受動的に見るだけで終わるのではなく、意識的に頭のなかで行動をシミュレーションすることで、理想の朝習慣を現実的に自分のものにしていくことができるのです。

スマートフォンの上に電球が浮かんでいる

メンタルリハーサルのやり方

記憶力を競う日本記憶力選手権大会で6連覇を果たし、世界記憶力選手権で「グランドマスター」の称号を日本人で初めて獲得した池田義博氏は「メンタルリハーサル」の具体的なやり方を紹介しています。

  1. 自分の視点でイメージする:実際に行動している場面を、自分の視点で具体的にイメージする
  2. 第三者視点でイメージする:視点を自分中心から第三者のものへと変える(自分を俯瞰して見るイメージ) *3

何もない状態から「イメージする」というのは簡単そうに見えて、意外と難しいもの。しかし、ルーティン動画を活用すれば、複雑なイメージ作業をしなくても、メンタルリハーサルと同じことをすることが可能なのです。

ルーティン動画でメンタルリハーサルを行なう方法

池田氏の提案するやり方をアレンジして、メンタルリハーサルを行なってみましょう。

 

  1. 第三者視点で「理想の朝」を俯瞰する
    ルーティン動画は、配信者を第三者視点で見る構図になっています。そのため、池田氏が提案する「2. 第三者視点でイメージする」はルーティン動画を見るだけで自然に実現できます。
    いつも通りルーティン動画を観るだけで、ミラーニューロンが活性化し、理想の暮らしを疑似体験できるわけです。
  1. 自分視点で「理想の朝」を頭のなかで再現する
    動画を観終わったあと、今度は自分がそのルーティンを実際に行っている様子を、自分の目線から詳細にイメージしてみます。
    たとえば——
  • 目覚ましのアラームが鳴った瞬間、自分はどう感じるか?
  • 温かいコーヒーカップを両手で包んだときの重みや温度はどうか?
  • 朝の光を感じながらカーテンを開けたとき、どんな気持ちの変化があるか?

ちなみに池田氏は、「その場面場面で自分がどう感じるかといった感情もいっしょに想像すること」もポイントだと述べています。*3

「少し眠いけれど、なんだか気分がいい」「朝日が部屋に差し込んで清々しい気持ちになる」「好きな香りのボディクリームを塗って満たされた気持ちになる」といった具体的な感情をリアルに思い浮かべることで、より鮮明にイメージでき、実際に行動を起こすときのハードルを大幅に下げてくれます。

***

ルーティン動画は、理想の習慣をつくる最初の「きっかけ」を与えてくれる存在です。

「自分に置き換えて動画を見る」「見終わったあと、自分が実際にやっているところをイメージする」この2点を加えるだけで、理想の朝習慣をスムーズに自分の暮らしに加えられるようになります。ぜひ試してみてください。

 

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