自分を観察し、記録するだけで、ミスが大幅に減ることをご存じですか? いわゆる「自己モニタリング」と呼ばれるものです。勉強・仕事のパフォーマンス向上や、問題解決力アップにもつながるのだとか。うっかりミスの多い筆者も試してみました。
自己モニタリングでミスを減らした医師
米国先端政策研究所シニアフェローのアーリック・ボーザー氏は、著書のなかでモニタリングの効果を伝えるべく、トロント在住の脳外科医であるマーク・バーンスタイン氏の例を挙げています。
バーンスタイン氏は、手術中に起こった自分もしくはチームメンバーのミスを、10年間にわたって記録していたそう。チームをモニタリング(観察)したわけです。
たとえばチューブが落っこちた、スポンジを置いた場所が悪かった、メスが床に落ちた、縫合部がうまく癒着しなかった、麻酔の投与が遅れた、看護師と行き違いがあったなど、とにかくミスと思われるものはすべて書き出したそう。
それらを日付や患者の詳細とタグづけし、ミスの種類や重大度、予防は可能かどうかなどを書き入れ、データベース化したとのこと。その結果、1カ月に3件以上あったミスが、約1.5件まで減らすことができたそうです。
フロリダ州立大学心理学部教授のアンダース・エリクソン氏をはじめとする研究者らは、モニタリングを「気づきの一形態」と考えているとのこと。結果を記録するためには、どういう状況で何が起きたのか気づかざるを得ないからです。
そうしたことからボーザー氏は、自己モニタリングのメリットは「自分のパフォーマンスへの意識が高まること」だと提言しています。
自己モニタリングはメタ認知に不可欠
それに、自己モニタリングはメタ認知にも重要なのだとか。
メタ認知とは、自分で自分の認知活動(知覚・情動・記憶・学習・言語・思考)をより高い視点から客観的にとらえ、コントロールすること。奈良教育大学のWEBサイトでは、メタ認知能力の高さが「学ぶ力や問題解決力」の向上につながると示しています。
たとえば勉強・仕事・家事などをする際のメタ認知とは――
- どの部分が重要か客観的に考えながら行動する
- 現時点での行動が最適か客観的に考える
- もっと効果的な方法があるか、今の方法を変更すべきか客観的に考える
- 具体的な計画を立て、客観的に検証してから行動に移す
- 自分に最適な方法を、客観的に理解している
――といったことです。
東京大学総合文化研究科准教授の四本裕子氏らによれば、この「メタ認知」の最も重要な部分をつくるのが「自己モニタリング」とのこと。
また、ANAビジネスソリューションで「ヒューマンエラー(人為的ミス)対策研修」の講師を務める中村恒徳氏は、「ミスが多い人の共通点はメタ認知能力の低さ」といわれることについて述べ、自分自身をよく観察するクセをつければ、メタ認知能力は高まると説きます。
つまり、自己モニタリングの習慣を身につけることで、メタ認知能力が高まり、ミスが低減するということ。これは、前出のマーク・バーンスタイン氏が実証しているのではないでしょうか。
ならば筆者も、ミス低減と、学ぶ力・問題解決力の向上につながるよう、自己モニタリングを試してみます。
「ミス管理表」で自己モニタリング
今回筆者は、経営コンサルタントでワークデザイン研究所代表の太期健三郎氏が、職場のミス低減に役立つツールとして紹介する「業務ミス管理表」を参考にしようと思います。
やり方は、ミスが発生するたびにその内容をシートに記録するだけ。脳外科医のバーンスタイン氏が行なったモニタリングと同じです。
太期氏によれば項目は、発生日・内容・発生原因・担当者・再発防止策・記載者・確認者の、7項目とのことですが、筆者の場合は日常生活も含め個人で行なうので、「ミス管理表」として以下の項目に絞りました。
- 発生日(曜日)
- ミスの内容
- 発生原因
- 再発防止策
では、始めてみましょう。
「自己モニタリング」をやってみた
「ミス管理表」を用いて「自己モニタリング」を行うルールは、ミスが発生したら速やかに記入する、と至ってシンプル。データベース化することを考え、筆者の場合はエクセルで作成します。
太期氏は、この記録によって「なぜ起きたのか?」「どうすれば防げたのか?」「そのために何をすればよいか」を考える習慣がつくので、改善思考力が高まるといいます。
たしかに、シートの項目に沿えば、具体的な改善策を練らざるを得ません。
一部を抜粋してみると、こんな感じです。
【ミスの内容】:情報を追加しながら執筆する際に、タブを開きすぎて混乱し、リセットしなければならなくなった。
【発生原因】:ワーキングメモリがパンクしたから。
【再発防止策】:逐一掘り下げず、ひととおり書いてから、必要に応じて掘り下げるようにする。
この調子で、8日間続けてみました。
「自己モニタリング」をやってみた感想
たとえば筆者の場合だと、「文末の重複(執筆の際に、~します。~します。と文末が重なる)」など「またやっちゃった」程度でやり過ごしてしまうミスがあります。すぐに修復が可能で、原因もわかっており、重大度が低いからです。
しかし、それら細かいミスすべてを放置した際の、仕事のパフォーマンスへの影響は決して小さくないでしょう。
軽視していたミスを分析し、策を練るのは、まるで「どうして宿題を忘れたのか」を一生懸命書いているようなバツの悪い気分です。しかし、そのぶん「再発防止策」とともにしっかりと記憶に残すことができました。
【ミスの内容】:文末の重複にあとで気がついた。
【発生原因】:何度も書き直しているうち執筆にのめり込み、俯瞰できなくなったから。
【再発防止策】:作業完了後に続けて見直すと見落としやすいので、翌朝あるいは、いったんその作業を離れてから見直すクセをつける。
文字化することで自分のミスを客観的に認識できると、自分のパフォーマンスへの意識が低かったと実感できます。
また、「内容」「発生原因」「再発防止策」を書いていく限り、起こったミスについて深く考えざるを得ません。必然的に「こうすべきだった」「こうしたらいい」に気づきやすくなるわけです。
【ミスの内容】:伝言のメモを捨ててしまった。
【発生原因】:重要度の低い伝言であったため、もったないからと、他のメモと一緒の紙に書いてしまったから(一方の用事が済んだ際、無意識に捨ててしまった)。
【再発防止策】:伝言メモは単体で管理せず、To-Doリストと一緒にする。処理後は線などで消し、すべて消されるまでその紙を捨てない。
ちなみに筆者の場合、毎度厄介な場所にティッシュペーパーを落っことすなど、文字にするとかなりバカバカしいミスもあります。このミスの再発防止策は、「見栄えより“落っことしリスク”を減らすため、ティッシュペーパーの置き場所を変える」と、自分でも呆れるような簡単なこと。
このように自己モニタリングは、「ちょっと考えればとっくに改善できていたのに」と、自分を戒めるいい機会にもなるでしょう。
また、記録の内容と同じ行動を起こそうとすると、ハッと気づくようにもなりました。自分の行動に客観的な立場で意識を向けるようになったのです。
つまり、今回「自己モニタリング」をやってみて感じた最大の効果は、もう1人の自分がミスをしないよう監視してくれるようになったことです。これなら、ミス発生率の半減くらいは大いに期待できるはず……!
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最近どうもミスが多いなぁ、とお悩みならば、「自己モニタリング」がおすすめですよ。ぜひお試しくださいね。
(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)
(参考)
アーリック・ボーザー著, 月谷真紀訳(2018),『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』, 英治出版 .
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