自己承認欲求とは?自己顕示欲とどう違う?

自己承認欲求とは? 自己顕示欲とどう違う?

自己承認欲求とは、「自分で自分を認めたい」という欲求です。他人ではなく自分からの承認を求める点で、一般的にイメージされる承認欲求(他者承認欲求)とは異なります。

人生に満足しつつ活き活きと過ごすには、自己承認欲求を満たすことが不可欠です。「私の自己承認欲求は満たされているかな?」と気になる方は、この記事を最後まで読んでみてください。

自己承認欲求とは

まず、自己承認欲求の概要をご説明します。

自分で自分を認めたい

自己承認欲求とは、「自分で自分自身を認めたい」という感情。能力、実績、容姿、社会的地位、プライベートの充実など、何を基準にするかは人それぞれです。「自分はこれでいい」と感じられさえすれば、自己承認欲求が満たされます

反対に、「他人や社会から認められたい」という承認欲求は、他者承認欲求です。

  • 承認欲求:承認を望む欲求
  • 自己承認欲求:承認欲求のうち、自分からの承認を望む心理
  • 他者承認欲求:承認欲求のうち、他者からの承認を望む心理

自己承認と他者承認は一致しないことも。

「みんなからは認めてもらっているけど、自分で自分を受け入れられない……」
「私は私を認めてるのに、みんなは受け入れてくれない……」

このような状態では、幸福とは言えませんよね。自己承認欲求と他者承認欲求の両方が満たされてこそ、満足できるのです。

承認欲求は自己承認欲求と他者承認欲求に分かれる

誰にでもある感情

承認欲求という言葉はネガティブに使われることも多いものの、誰にでもある、ごく自然な心理。以下のように素朴な願いも、承認欲求です。

  • 人からほめられたい
  • 仕事の実績を認めてほしい
  • 周囲から愛されたい

アメリカの心理学者アブラハム・マズローが考案した「欲求5段階説」をご存じですか? 人間の欲求は5段階のピラミッド状になっており、一番下の「生理的欲求」から順番に上がるものだ、という説です。承認欲求は上から2番めに位置します。

自己承認欲求は、マズローのピラミッドの上から2番め

メリットとデメリット

自己承認欲求は、仕事や勉強を頑張るモチベーションにもなります。

「理想の自分になりたい!」
「欠点や弱さを克服したい!」

そんな自己承認欲求があるからこそ、高みを目指す意欲が湧いてくるもの。適度な自己承認欲求は、努力を続け成長していくうえで不可欠なのです。

しかし自己承認欲求が過剰になると、さまざまな弊害が起きます

  • 自分を認められず、自己嫌悪感にさいなまれてしまう
  • 自分を認めようと、頑張りすぎてしまう
  • マウンティングをしてしまい、人間関係が傷つく

食欲が暴走すれば肥満や疾病につながるように、どんな欲求も行きすぎは禁物。トラブルを防ぐため、自己承認欲求を上手に満たし、コントロールする術を知ることが大切です。

自己承認欲求のメリットとデメリット

自己承認欲求と自己顕示欲の違い

自己承認欲求と混同しやすい「自己顕示欲」も紹介しておきます。

『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によると、自己顕示は「自分の存在をことさら他人に目立つようにすること」。自己顕示欲とは、自分の能力やステータスをひけらかしたいという欲求なのです。

自己承認欲求とは異なり、自己顕示欲は他人のほうを向いた欲求です。他者承認欲求に近いと言えるでしょう。「自己」という言葉こそ共通しているものの、自己顕示欲と自己承認欲求は異質なのです。

自己承認欲求と自己顕示欲の違い

自己承認欲求が強い人の特徴

自己承認欲求が強い人には、どんな特徴があるのでしょうか?

オンラインカウンセリング「うららか相談室」によると、自己承認欲求が満たされない人は代わりに他者承認欲求を満たそうとする傾向があるそう。つまり、自己承認欲求が強い人は、他者承認欲求も強いと考えられます。

精神科医の川島達史氏によると、承認欲求が強い人には以下の特徴があるそうです。

自己像が不安定

承認欲求が強い人は、自分や他人に認められたがるもの。「見栄えのいい自己像」や「求められている自己像」を演じてしまい、自己像が不安定になりがちです。

  • 「いい人」を演じてしまう
  • 他人に合わせたり、流されたりすることが多い
  • 「自分の本音がわからない」「自分の意志がない」と感じることが多い

……このような自覚があるなら、承認欲求が強くなりすぎている恐れがあります。社会では誰しも多少の「演技」が必要とされるとはいえ、行きすぎないよう気をつけてください。

不安が強い

関西学院大学教職教育研究センター紀要に掲載された論文(2017年)では、承認欲求が強い人ほど、不安や抑うつを感じやすいことがわかりました。不安を抱きやすい人は、不安を解消するために承認を求める傾向があるのです。

愛情を十分に受けられなかった

しつけが厳しかったり、ネグレクトを受けていたりなど、家庭で十分な愛情を受けられなかったために承認欲求が強くなる場合もあるそう。漠然とした不安感を抱え、他人の気を引こうと焦っている、と考えられるそうです。

低次の欲求は満たされている

マズローの欲求5段階説によると、承認欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」が満たされてから生じます。つまり、承認欲求が問題になる場合、衣食住など最低限の欲求は満たされているのです。

ですから承認欲求を、成長意欲の現れとしてポジティブに解釈することもできます。

  1. 生活に必要な給料をもらう(生理的欲求の満足
  2. それなりの家に暮らす(安全の欲求の満足
  3. 職場の人間関係になじむ(社会的欲求の満足
  4. 「もっと大きな仕事に関わりたい」「社内で評価されたい」(承認欲求の追求

このような流れで自己承認欲求・他者承認欲求が生じるのは、とても自然に感じられますね。

自己承認欲求が強い人の特徴4つ

自己承認欲求を満たす方法

自己承認欲求を満たすには、具体的にどうすればいいのでしょう? 7つの方法をご紹介します。

自分を磨く

最も直接的な方法は、「自分好みの自分」になる努力をすること。いわゆる “自分磨き” に取り組み、「自分っていいじゃん!」「自分ってすてき!」と胸を張れるようになりましょう。自分を高めれば、周囲から認められる機会も増え、他者承認欲求も満たされます。

◆自分磨きの例

  • 勉強して資格をとる
  • シェイプアップし、自分好みの体型になる
  • 美容室で好みの髪型にしてもらう
  • 自分好みのファッションに身を包む
  • 部屋をきれいに掃除する
  • 気に入った家具を買う
  • 趣味のスキルを磨く(スポーツ、楽器、アートなど)

理想を下げる

高すぎる理想を掲げるのは禁物です。理想と現実のギャップが大きすぎ、自己承認欲求を満たせず苦しくなってしまいますよ。英会話初心者なのに、「ネイティブのように完璧に話せるようになる」という目標を設定すると、達成が難しすぎて「自分はダメだ……」という無力感に陥ってしまいます。

理想の自己像は、「これなら手が届きそうだ」と思えるものにしましょう。「一日10個ずつ英単語を覚える」「TOEICで600点とる」など実現可能な目標にすることで、「自分ならできる!」と自己承認しやすくなります。

他者承認欲求についても同様です。「会った人全員に好かれる」という目標を立てれば、自分を認めてくれない人がひとりでもいると大ショックを受けることに。しかし「10人中2人に好かれればいい」と構えておけば、承認欲求の不満に苦しみにくくなります。

自己承認欲求を満たすには、理想を下げることも必要

無条件に自分をほめる

「理想を下げる」の究極形とも言えるのが、無条件で自分をほめてあげること。仕事の実績、能力の有無、社会的地位などはいっさい考慮せず、いまの自分をそのまま認めてあげましょう。

仕事で大きな失敗をしてしまった、自分を許せない――そんなときは、失敗という結果ではなく、それまでの過程に着目してください。

「失敗してしまったけど、一生懸命努力した自分は偉いよな」
「このプロジェクトに関わったこと自体、いい経験になったよ」
「毎日ちゃんと出社し、仕事を頑張ってる自分はすごい!

……こんなふうに無条件の肯定をすれば、自分ができたこと・得られたものに気づけ、自己承認欲求が充足します。「自分だけは、いつも自分の味方でいてあげる」という意識を忘れないようにしましょう。

他者承認の体験を積む

人にほめられて初めて自分の長所に気づけたり、自信をもてたりすることも多いですよね。自己承認の感覚を育むには、他者から承認される経験も効果的なんです。

他者承認欲求を満たす方法として川島氏がすすめるのは、自分を受け入れてくれる「コミュニティ」に所属すること。この場合のコミュニティとは、以下の条件を満たす集団です。

  1. 3人以上の集まり
  2. 月1回・1時間以上集まる
  3. 会話の時間がある

サークルや団体に限らず、家族や友人、職場の人間関係などもコミュニティ。5つ以上のコミュニティに所属するのが望ましいそうです。いまのコミュニティが「家族」「学生時代の友人」「会社」だけなら、趣味のサークルや飲み仲間など、あと2つのコミュニティを見つけましょう。

所属コミュニティが少ないと、特定のコミュニティに依存してしまいます。「家族」にしか所属していないと、家族関係が悪くなったときの逃げ場がありませんよね。少しドライな言い方ですが、人間関係の「保険」をもっておくことで、承認欲求を安定して満たせるのです。

他者承認を受ければ自信がもて、自信がもてれば自己承認できる

コミュニケーション能力を磨く

精神科医の熊代亨氏は、承認欲求を満たす方法として「コミュニケーション能力の向上」も大切だと説きます。コミュニケーション能力が高ければ高いほど、承認されやすいそうです。

コミュニケーション能力を高めるには、以下の方法を試してみましょう。

お手本を見つける

まずは、友人や同僚、メディアに出ている著名人などから、コミュニケーションのお手本を見つけましょう。話題の切り出し方や返答の仕方、表情、抑揚などを徹底的にまねることで、コミュニケーションのコツが身につきます。

伸ばしたいスキルを意識する

コミュニケーション能力は、話を聞く力、伝える力、話を膨らませる力、感情を表現する力など、無数の要素で成り立っていますよね。これらすべてを意識して会話するのは困難です。

今日は上手に聞くことを心がけよう」「今週は伝え方を意識しよう」と、テーマをひとつに絞りつつ、コミュニケーションの練習を重ねましょう。

日頃から雑談のネタを集める

雑談が苦手なら、日頃からニュースやトレンドをチェックし、雑談のネタを仕入れましょう。

接客業では、「木戸に立ち掛けし衣食住」と呼ばれる11の話題が使われています。この11項目を中心に情報収集すれば、雑談のネタに困らないはず。

  1. キ:気候
  2. ド:道楽(趣味、スポーツ、テレビ、映画など)
  3. ニ:ニュース
  4. タ:
  5. チ:知人
  6. カ:家族
  7. ケ:健康
  8. シ:仕事
  9. 衣:ファッション
  10. 食:グルメ
  11. 住:家、暮らし

コミュニケーション能力を高める方法をさらに知りたいなら、こちらの記事も参考にしてみてください。

>>「コミュ力に悩む人」が話術よりも先に身につけるべきは “あの能力” だった。
>>「コミュ力がない」は性格の問題ではなかった! コミュ力がない人に “致命的に欠けている” 3つのこと

コミュニケーション能力を磨くことで自己承認欲求を満たしやすくなる

テレビゲームで遊ぶ

同じく熊代氏によれば、「ソーシャルゲームをはじめとする “二次元の世界” 」でも承認欲求を満たすことができるそう。

ゲームの世界では、現実よりも勝利や成功を手にしやすいため、手軽に承認欲求を満たせます。クリアできた嬉しさや相手に勝った喜びは、ささやかな自信になるでしょう。

オンラインでの交流が当たり前の時代になりました。ゲームという趣味を通じ、ほかのプレイヤーと交友を育むことも可能です。ハマりすぎは禁物ですが、ストレス解消やコミュニケーションの手段として試してみては?

SNS上のネガティブな言葉を避ける

SNSやニュース記事のコメントなど、インターネットにあふれる否定的な言葉で自己承認の感覚が傷つく恐れも。脱毛サロン「キレイモ」を運営する株式会社ヴィエリスCEOで、「インポスター症候群ゼロ運動」に取り組む佐伯真唯子氏によると、インターネット上のネガティブなコメントを見ることは「インポスター症候群」の一因だそうです。

インポスターとは「詐欺師」の意味。自分で自分の実力を認められないため、周囲をだましているような罪悪感にさいなまれる心理が、インポスター症候群と呼ばれています。

「社畜」という言葉がありますよね。会社員を「会社に飼われている家畜」と揶揄する表現です。

「社畜」という言葉を日常的に目にしたり使ったりしていると、会社員の自分が本当に劣った存在であるように思えてくるかもしれません。他人事として読み流し・聞き流しているつもりでも、ネガティブな言葉はあなたの認識を少しずつ歪め、心の健康をむしばんでしまうのです。

ですから、以下の2点を心がけてください。

  1. ネガティブな言葉が飛び交うWebサイト・SNSアカウントは見ない
  2. 嫌な言葉を目にしても、「一部の人の主観的な見解にすぎない」と真に受けない

自分の心を守ることで、自己承認欲求が満たされやすくなりますよ

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自己承認欲求とは何か、自己承認欲求を健全に満たすにはどうすればいいかをご説明しました。自己嫌悪感や劣等感にさいなまれたら、ご紹介した方法で自己承認欲求を満たし、元気を取り戻してくださいね。

【ライタープロフィール】
佐藤舜

大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
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