コミュニケーションが苦手だ。そのせいで、上司や同僚、後輩とも良い関係が築けていない気がする。もっと話し上手になれたらよいのに……。
確かに、話し方のテクニックを身につけることは大切です。先ほど挙げた悩みのように、「コミュニケーションが苦手だから話術を学びたい」と思うのも分かります。ですが、テクニックさえ身につければそれで十分だとは言えません。話術を学ぶより先に知っておくべき、コミュニケーションの大事な4つの心得について伝えていこうと思います。
1. まずは「相手を知る」ことから始める
誰かとコミュニケーションをする際は、話し方の高度なテクニックを繰り出すより先に、「相手を知る」ことが必要です。では、「相手を知る」とはどういうことでしょうか。どのようにすれば「相手を知る」ことができるのでしょうか?
世界的ベストセラー『ザ・シークレット』に「現代の哲人」として紹介された人間行動学のスペシャリスト、ドクター・ジョン・F・ディマティーニ氏によると、コミュニケーション能力とは、自分が何かを説明するときに「相手の視点から」話をする能力のこと。そして、コミュニケーション能力を高めるには、「相手の価値観に基づき、自分の価値観を伝える」ことができるようになるべきなのだそうです。
つまり、「相手を知る」とは「相手の価値観を知る」ということ。例えば、相手が好きなものは何かを知る、相手の仕事のやり方を知る、相手が仕事で重視していることは何なのかを知る、といったことが挙げられます。
このとき注意すべきなのが、自分の価値観の方が優れていると思わないこと。ディマティーニ氏によると、私たちの多くは他人よりも自分の価値観のほうが優れていると思いがちで、自分と違う価値観を持っている人に対し「間違っている」「つまらない」「嫌いだ」などと感じてしまうのだそう。
しかし、相手のことを嫌な人だとみなしていては、良いコミュニケーションなど生まれるはずがありません。ご自身に当てはめて考えてみてください。あなたの会社の商品について、人から「その商品の良さはちょっと理解できないですね」などと言われたら、思わずムッとしませんか? 逆に、理解を示してもらえると、話が分かってくれる人だなと感じ、その先も話を続けたくなるでしょう。
また、普段スピード重視で仕事をしている人が、クオリティ重視の人と同じチームで仕事をすることになったとした場合、それぞれが相手の価値観を理解しないまま、時に愚痴を言い合いながら仕事を進めてしまっては、どこかで必ず衝突してしまうはずです。
人とのコミュニケーションにおいてまず重要なのは、相手の価値観を知り尊敬すること。これが、良いコミュニケーションを生み出すカギとなるのです。
2. 相手の視点に立って物事を見る
そうは言っても、相手の価値観が自分と異なる場合、相手を尊重するのはそう簡単なことではないと感じる方もいるでしょう。そのようなときは、「相手だったらどう考えるか」を想像してみてはいかがでしょうか。
『こういう時に人は動く 影響力5つの原理』の著者で、アメリカの経営コンサルタントで実業家でもあるボブ・バーグ氏によると、同じ対象を見ていたとしても、人によってそれをどう認識するかには差があるようです。
簡単な例で言うと、ビジネスの場面で1,000万円という金額を見たとき、あなたはその金額をどう考えるでしょうか? あなたが普通の会社員であるなら「1,000万円は年収の〇倍だ」と考えるかもしれません。でも、会社経営をしている別の人からすれば、「1,000万円は平均月商」かもしれませんよね。
相手の価値観を尊重できない人は、自分と他人が全く同じ認識で世界を見ることを期待している可能性があります。「自分の提案を受け入れてほしい」「自分の主張を伝えたい」と思うのなら、「相手だったら、自分の提案や主張をどう受け止めるだろうか?」と相手の視点に立って考えてみると良いでしょう。
3. 相手を重要な人として扱う
もうひとつ大事なのが、「相手を重要な人として扱う」ことです。
そもそも、コミュニケーションをするうえで、相手の価値観を知ったり相手の視点に立って物事を考えたりするのが大切である理由は、相手を敵に回さないため。相手に自分の主張を理解してもらうには、相手に自分への嫌悪感を抱かせてはいけません。人は感情に基づいて行動する生き物なので、一度嫌悪感を抱かせてしまったら二度と自分のことを理解してもらえない可能性もあります。
そこで大事になるのが、相手を気持ちよくさせつつ言いたいことを言うこと。バーグ氏曰く、考えの異なる相手とコミュニケーションをする場合でも、相手を重要人物だと考えて、相手の意見に賛同することが重要なのだそう。そうすれば、相手は自分が丁寧に扱われたと感じ、あなたに対しての見方を変える可能性があります。
とはいえ、全面的には賛同できないこともありますよね。相手に何か反対意見を伝えなければならないときは、相手に敬意を払いつつ意見を述べるようにしてください。バーグ氏によれば、反論をする際は以下のステップを踏むとよいのだそう。
2. 相手の意見の中で自分が賛成できる部分を探す。
3. 相手に恥をかかせないように意識しながら反論を述べる。
例えば、商品のリニューアルについて、あなたが絶対すべきでないと考えている一方で、部下から絶対にすべきだと主張されたとします。
そんなとき、あなたは部下に対してリニューアルすべきでないと考える理由を声高にまくし立ててはいけません。リニューアルすべきだと述べる部下の意見の中に、自分が賛成できるものはないかを探ってください。反論を述べる際も、部下だからと言って頭ごなしに否定するのではなく、部下に恥をかかせないことを意識して反論を述べましょう。
そうすれば、話し合いがこじれて信頼関係も崩壊する、なんて悲惨なことにはならないはずです。
4. 相手の人格を傷つけない
価値観の違う人とコミュニケーションをとる際、どうしても相手との間に深い溝があるように感じられることがあるでしょう。キャリアコンサルタントの小野勝弘氏は、そのような場合でも決して相手の人格を傷つけるフレーズは言わないようにするべきだと説きます。
例えば、あなたが後輩に「これは大事な仕事だからミスしないように」と再三言ったにもかかわらず、後輩が同じミスを繰り返したとき。「前にも言ったよね」「どうしてできないの」「自分でやるからもういいよ」と言いたくなったら、ぐっとこらえてください。
代わりに、「ここが苦手に見えるけどあなたはどう思う?」「どこまでできた?」「手伝えるところはある?」などといった言葉をかけましょう。
小野氏によれば、相手に事実は指摘するべきだが、自分の言葉を聞いた相手がどう感じるかも合わせて考えるべきなのだそう。ここでもやはり大事になるのが、「相手の価値観」です。
先ほどの例であれば、あなた自身は「注意されたらミスは繰り返さない」という価値観を持っていても、後輩は「ミスをしながら学べばいい」という価値感を持っているのかもしれませんよね。ならば、「失敗から学ぶのはもちろん意味があることだけれど、失敗しないようにするのも大事なことだよ」と、一歩寄り添ってあげるといいですね。
価値観の違う相手とのコミュニケーションは、ちょっとした工夫でスムーズになるものなのです。
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コミュニケーション能力を高めたいなら、話術を磨くだけでなく、相手と良好な関係を築くことも大切です。話し方にも人間関係が大事。ぜひ、相手を知るところから始めてみてください。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|効果的なコミュニケーション能力は自分の価値観と相手の価値観を知ることで生まれる
ボブ・バーグ著,弓場隆訳(2017), 『こういう時に人は動く 影響力5つの原理 』,ディスカヴァー・トゥエンティワン.
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【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。