「家やオフィスでは集中できないのに、カフェではなぜかはかどる」
そんな不思議な経験をしたことはありませんか?
この現象には、ある「音の効果」が関係しています。
その効果とは、「ホワイトノイズ効果」です。
ホワイトノイズとは適度な雑音のことで、さまざまな研究や実験から、学習や集中力に与える影響が明らかになってきました。
一方で、ホワイトノイズにも効果的な場面とそうでない場面があるようです。
本記事では、研究によって明らかになったホワイトノイズの効果をふまえ、どのような状況でのカフェ利用が効果的かをまとめました。
ぜひ本記事を参考に「勉強する環境」を工夫してみてはいかがでしょうか。
『ホワイトノイズ効果』とは
「静かすぎる図書館だと集中できないのに、カフェでは勉強がはかどる」
「家族の話し声が気になって在宅ワークがはかどらないのに、カフェでの雑音は心地よく感じる」
このような現象の背景には、「適度な雑音」の効果があるようです。
適度な雑音とは、「全ての周波数帯が均等に含まれる雑音」である「ホワイトノイズ」のこと。*1
「ザーッ」という砂嵐のような音です。*2
東京大学薬学部教授であり、大脳生理学を専門とする池谷裕二氏は、「マウスの実験だと、まったくの無音状態では何かを学習させるということができ」ず、ホワイトノイズを聞かせることで学習効果が高まったことを紹介しており、静かな喫茶店くらいの雑音が学習効果を高めるのだと話します。*2
さらに、ホワイトノイズには「外部の雑音をかき消す」マスキング効果もあるのだとか。*1
確かにカフェに行くと、食器が重なり合う音やコーヒーマシンの動作音、BGMやまわりの人の会話など、さまざまな音が混ざり合っています。
このような適度な雑音がある環境では、個々の気になる音が背景音に溶け込み、目立たなくなるのです。
家族や同僚など自分に関わりのある人の会話は、どうしても無意識に耳に入ってきますし、シーンとした環境では、タイピング音など些細な音でも気になってしまうでしょう。
そのようなときは、さまざまな音が均一に混ざり合うホワイトノイズ効果の活用がおすすめなのです。
なぜカフェで勉強すると集中できる?
ほかにも、カフェの話し声や雑音レベルのノイズは創造的思考を引き出すという研究結果があります。
『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』誌に掲載された研究では、次のような実験が行なわれました。
被験者を無作為に4つのグループに分け、一見無関係に見える複数の言葉の関係を答えるテストを受けさせました。
その際グループごとに、完全な無音、50デシベル、70デシベル、85デシベルの4つの異なるレベルの背景ノイズを聞かせます。
そのなかで最も好成績を収めたのは、70デシベルの環境に置かれたグループでした。
70デシベルは、カフェの話し声や雑音レベルのノイズに相当します。
この実験から、研究チームは「比較的ノイズの多い環境の中に入ることで、脳は抽象的思考を始め、そこから創造的な発想が生まれるのかもしれない」と述べています。*3
静かすぎずうるさすぎないカフェのような環境は、集中力や想像力を高めるのに最適なのです。
自宅vsカフェ 勉強に向いているのはどっち?
適度な雑音は集中力や創造的思考を高めますが、万人に当てはまるわけではないようです。
西ノルウェー応用科学大学教授のゴラン・セーデルルンド氏は、ホワイトノイズの記憶力に対する影響を測る実験を次のように行ないました。*4よりまとめた
51名の中学生を、注意力が高い子と注意力が低い子に分ける
それぞれの子が、「ホワイトノイズあり」「ホワイトノイズなし」の条件下で、提示された文章をどのくらい覚えられたかテストする
結果は次のとおり。
ホワイトノイズあり:注意力の低い子の成績は向上し、注意力の高い子の成績は悪化した
ホワイトノイズなし:注意力の高い子の成績が向上し、注意力の弱い子の成績は悪化した *4
以上から、気が散りやすい人には自宅よりもカフェでの勉強が効果的だとわかります。
いろいろな場所での勉強を試してみて、自分に合った環境を探すといいでしょう。
また、作業や勉強の内容によっても、環境による影響は変わるようです。
たとえば筆者であれば、文章を考えたり難解な問題を問いたりなど、思考を巡らせる場合は静かな自宅のほうが集中して取り組めます。
一方で、復習や見直し、記事のリサーチ・キーワードのメモ出しといった単純な作業だとカフェのほうが集中できます。
その理由は、脳の特徴にあるようです。
前出の池谷氏は次のように言います。
脳は“無意識”では複数のことを並行して処理するのが得意なんですけど、“意識している状態”では並行処理が苦手です。
(中略)
集中して考えなければいけない仕事には、BGMはあまりよくないでしょうね。*2
意識が勉強に向いているときに音楽が流れると、音楽を聴くことに脳のリソースが割かれてしまい、集中力が削がれてしまうのです。
静かなカフェの雑音はホワイトノイズに近いとは言え、意味をもつメロディーや会話が耳に入ってきます。
そのため、次のように使い分けるのが良さそうです。
- 自宅:新しい分野の学習や、深い思考を巡らせる必要がある内容の勉強
- カフェ:復習や暗記などの単純作業
とはいえ、そのときの状況やその人のタイプによるところも多いのは事実。*1
ホワイトノイズ効果やご自身の特徴をふまえたうえで、状況に合わせた場所選びをいろいろと試してみるといいでしょう。
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私たちが勉強に取り組むとき、「時間の使い方」や「やる気の出し方」にフォーカスすることが多いと思います。
ですが、「どのような環境で取り組むか」という視点も大切です。
勉強効率を上げるために、そのときの状況に合わせて、適度な雑音や勉強場所などを活用していきましょう。
※引用の太字は編集部が施した
*1 睡眠コラム by Koala Sleep Japan|医師監修 | ホワイトノイズとは?その効果と活用方法
*2 新R25 Media|「集中力を上げる効果はない」とわかっていても、脳研究者が仕事中にBGMをかける理由
*3 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|コーヒーショップでは集中できるのに、オフィスではなぜ気が散ってしまうのか
*4 PubMed|The effects of background white noise on memory performance in inattentive school children
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。