優秀なビジネスパーソンがもつ要素を考えた際、もともとコミュニケーション能力が高いなど、持って生まれた「才能」をイメージする人も多いかもしれません。しかし、「習慣」こそが最大の要素だというのは、著書『科学的に証明された すごい習慣大百科 人生が変わるテクニック112個集めました』（SBクリエイティブ）を上梓した明治大学教授の堀田秀吾先生。成功者が共通して持ち、かつ誰もがすぐに実践可能な習慣を教えてもらいます。
構成／岩川悟 取材・文／清家茂樹 写真／石塚雅人
【プロフィール】
堀田秀吾（ほった・しゅうご）
1968年6月15日生まれ、熊本県出身。言語学者（法言語学、心理言語学）。明治大学法学部教授。1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了（Ph.D. in Linguistics、言語学博士）。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年より明治大学法学部教授。司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などのさまざまな学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。また、研究以外の活動も積極的に行っており、企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。『いまの科学でいちばん正しい 子どもの読書 読み方、ハマらせ方』（Gakken）、『燃えられない症候群』（サンマーク出版）、『とりあえずやってみる技術』（総合法令出版）、『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』（アスコム）など著書多数。
「いつものようにやるべきことをやる人」が強い理由
ビジネスの成果を左右するのは、才能などではなく「習慣」だというのが私の持論です。どれほど優れた才能をもっている人でも、たとえば継続的に勉強をするとか、仕事で成果を出すためにも健康を維持するといった習慣が身についていなければ、せっかくの才能を無駄にしてしまうでしょう。
このことは、名だたる成功者を見ても明らかです。Appleの共同創業者のひとりであるスティーブ・ジョブズは、毎朝鏡の前で「もし今日が人生最後の1日だとしたら、今日やろうとしていることは本当にやりたいことだろうか？」と自分に問いかける、同じ服を着る、会議は歩きながら行なうなど多くのルーティンをもっていました。
アスリートでいっても、たとえばメジャーリーグで活躍したイチローさんの場合、打席に入るときの有名なルーティンはもちろん、それこそ起床してから就寝するまでのあいだ、精密なスケジュールに基づいて日々を過ごしていたといいます。
このように、成功者がルーティン、すなわち習慣を重視するのは、過去の成功体験や実績と照らし合わせながら、「いつもの気持ちでいつものやり方でいつものようにやるべきことをこなしていけば、いつものように成果を出せる」という信念をもっているからではないでしょうか。
重要な試合やプレゼンなど、「ここぞという場面に120％の力を出したい」などと願ってもそれは無理というものです。そもそも私たちは100％の力しかもっていないのですから、「120％の力を出したい」という気持ちは力みとなって不本意な結果を招くことはあっても、好結果につながることはありません。
始業からパフォーマンスが高まる朝の運動習慣
ジョブズやイチローさんの例を見れば、本来であれば「これまでに好結果につながった自らの行動に着目し、自分なりの習慣を構築していく」ことがもっとも大切といえます。しかし、多くの人に共通して有用な習慣もあります。
そのひとつが、「運動」です。仕事ができるビジネスパーソンには、朝の運動を習慣にしている人がとても多いのです。このことにはもちろん根拠が存在します。
寝起きに頭がぼーっとする理由のひとつは、睡眠中に血圧や心拍が低下していて脳への血流が少なくなっていることです。そこで運動をすれば脳への血流が増加し、脳が必要とする酸素や糖分が十分に供給され、注意力や判断力が大きく向上します。
そうして、運動習慣がない人がまだぼーっとしている始業時からでも、運動習慣をもっている人は高いパフォーマンスを発揮できるのです。
そもそも慢性的な運動不足によって大きな病気を患ってしまうようなことにもなれば、仕事で成果を挙げるどころではありません。長く元気に働き続けるためにも、ぜひ運動を習慣にしてみましょう。
冷たいタオルで顔をふき、脳をリフレッシュさせる
また、仕事で成果を出すという意味でいうと、必要なときに「リフレッシュする」のも重要な習慣です。なぜなら、脳が疲れると判断力が低下するからです。携わるプロジェクトの成否を左右するような重要な場面で判断ミスをするようなことは、絶対に避けなければなりません。
このことに関して、興味深い研究を紹介しましょう。イスラエルの裁判官が受刑者の仮釈放申請を承認する割合を調べたという研究です。すると、午前中の承認率は65％だったのに、昼食休憩の直前になるとほぼ0％となり、休憩後はまた65％に戻ったというのです。
仮釈放のように受刑者にとって好都合な申請を認めるかどうかの判断には慎重を期す必要があります。つまり、多くのエネルギーを使ってしっかり考えなければなりません。すると、お昼が近づく頃になると裁判官たちの脳はすっかり疲れてしまい、ちょっと乱暴ないい方になりますが、「考えるのもしんどいし、もうとりあえず認めなくていいや」という具合に承認率が大きく下がったということがこの事例から見えてきます。そして休憩して脳をリフレッシュすると、また午前中と同じ数字に戻ったことが示されているのです。
いわば「判断のプロ」である裁判官ですらそうなのですから、私たちの場合はそれこそしっかりと脳をリフレッシュさせることが大切でしょう。
その方法はみなさんそれぞれでいいのですが、スマホを見ることは避けてほしいと思います。SNSやネットニュースを見るということでも情報を処理することに他ならず、脳を休ませることにはなりません。
私からは、「冷たいタオルで顔をふく」という方法をおすすめします。脳は身体感覚と強く連動しており、それに引っ張られるという特性をもっています。おもしろいことに、温かい飲み物を飲みながら人と話すと、その相手に対して「温かい人だ」という印象をもつということもあるのです。
ですから、冷たいタオルで顔をふいてさっぱりすれば、脳も同じようにさっぱり感を味わうことができ、リフレッシュできるのです。とてもシンプルな方法ですが、その効果は脳科学の研究でも裏づけられていますから、みなさんもぜひ日々の習慣として取り入れてみてください。
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清家茂樹（せいけ・しげき）
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
